優しさと俺たち
ミキオ達は体育の授業を受けていた。
今日はマラソン大会の練習で、グラウンドを走っている。
中尾は体育服を忘れてしまったので、見学である。
ミキオは快調に飛ばしていた。
先頭集団の中でも速い方に位置していた。
「ミキオ早いな」
そばで見ていた生徒からはそんな声が上がる。
その時だった。
ミキオの足がもつれ、ミキオは転んでしまった。
「ミキオ、大丈夫か?」
タクローとカズが駆け寄る。
「いてて、膝すりむいちゃった」
ミキオは膝をすりむいた。
ちょっと血をすりむいた。
「おい、中尾、台東を保健室に連れて行ってくれ」
「あ、はい」
中尾が返事をした。
中尾は保健委員なのだ。
中尾はミキオを保健室に連れていった。
その様子を見ていた男子の視線は、心なしか鋭かった。
保健室に着いたミキオと中尾は、椅子に座った。
「ミキオくん、大丈夫?今手当てするからね」
「う、うん」
ミキオは少し顔が赤らんだ。
この状況をクラスの男子が見たら、確実に嫉妬の対象になるであろう。
中尾は慣れた様子でミキオの怪我の手当てをする。
「…中尾さんって、優しいよね」
ミキオがふとそんなことを言った。
「え?いきなり何?」
中尾が顔が上げる。
「あ、消毒液」
ミキオの膝に消毒液が垂れている。
「あ、ゴ、ゴメン!」
中尾は慌てて消毒液を拭き取る。
「いや、大丈夫」
ミキオが言う。
「中尾さんっていつもみんなに分け隔てなく喋るでしょ。しかも態度も変えないし。それって優しいなぁと思うんだよね」
「そ、そんなことないよ…」
中尾は否定した。
「中尾さんっていつも人の事を考えて生きているから、そうやって人に優しくできるんだよ」
「ほら、手当て終わったよ!」
ミキオの言葉を遮るように中尾が言った。
ミキオ達はグラウンドに戻ってきた。
「なぁ、ミキオ」
カズが話しかけてきた。
「中尾さんとどんな話をしてきたんだよ」
「いや、大した話はしてないよ」
ミキオがそう言っても、
「ホントに?」
とカズが追求してきた。
「ほ、ホントだよ」
ミキオがたじろぐ。
少し離れたところで、中尾が何事もなかったように見学していた。




