外伝 ブランとルチェル
※ この物語は本編第64話までをご覧になってからご覧になることを推奨いたします。
「何故お前がここにいる!それもそんな恰好で!!」
三つ子で妹のアリステラの付き添いで男たちの間で悪名高い女、ライラ夫人の夜会に女装をしてやってきた僕、ブラン・クラウドライン。
妹の安全を守るためについてきたのに僕は僕よりも随分背の高い男に手を引かれ、邸宅の庭へと連れ出されていた。
「手、放して。」
「馬鹿か!離すわけがないだろう!!離せば貴様はすぐにあの場へと戻るだろう!?この夜会がどれだけ怪しいか貴様は知っているのか!?」
(あぁもう、うるさい……。というかこの人、誰だっけ?)
興味の無いもの以外は覚えない性格……というか、覚えれない性格の僕は懸命に目の前に立つ人物の事を思い出す。
確かにいつも教室で休憩をしていたらこんな感じに騒がしい人間がアリステラに構いに来ていた気がする。
(……駄目だ。名前、思い出せない……。)
何とかって名前だったことは覚えている。
いや、何とかって名前って時点でうろ覚え以下の範疇ではある。
興味のない人間への関心なんて持つ必要性は感じない。
だからどうしても思い出せない。
でも今はそんなことはどうだっていい。
「アリステラの元に帰らせて。アリステラが危ない目にあったら大変だから。」
「……その言い方から察するに、貴――――お前は妹の為に同行したという事でいいのか?」
ギャーギャーと喧しい感じだった男は突然落ち着き払ったように声のボリュームを落とし、僕の手首をつかむ手の力を弱めてくる。
今だと思った僕は男から自分の手を引き抜こうとしたけど、それはあっさりと阻止されてしまった。
「……おい、ブラン。お前はここがどういう場所か理解していながら同行したのか?どういう場所かわかっていて婚前の妹を連れてきたのか!?」
一度抑え気味になった声のボリューム。
それが再び大きくなり、また力強いものなる。
まるで責め立てられているかのような言動に僕は首を傾げた。
この男は一体何を怒っているのだろう。
そんなことを思いながら僕は口を開いた。
「……君が何を怒っているかはわからないけど、なんで君が怒っているような感じになるの?君は僕たち兄妹とは無関係の人間でしょ?」
そう、この目の前にいる男は僕の友人でもなければヴァルドの友人でもない。
多分、アリステラの友達でもないと思う。
アリステラがこの男に絡まれていて少し迷惑そうな表情をしているのを見かけたことがあるからだ。
なら、この男は一体どういう立場から言葉を発しているのだろうと僕は純粋に疑問を抱いた。
そしてそんな僕の言葉を受けた男はひどく顔を真っ赤にして怒鳴りつけてきた。
「ふざけるな!!!貴様にとって俺はその程度な人間な事は理解している!!!どうせ家族と知的好奇心を満たすこと以外に関心がない貴様の事だ、俺の名すら覚えていないのだろう!?貴様がそんな人間な事は重々理解している!!だが、その程度の関係の人間であろうとも愚かな行為を糾弾することは何らおかしいことではないはずだ!!!それとも何か!?貴様は糾弾はおろか、心配すらするなというのか!?」
「…………。」
激しく怒りの感情を見せる男。
その男の言動に僕は関心を示さずにはいられなかった。
他人に関心を持てない僕では理解できない彼の行動。
だけど彼のいう事は一つも間違いではないと思える上、そんな風に思える彼にほんのすこし興味が沸いてきた。
(にしても何だろう。怒られてるのが心配からなんだってわかったらちょっと、嬉しくなってきちゃった……。)
ヴァルドにはよく怒られる。
けどヴァルドに怒られるのは好きじゃない。
ヴァルドはすぐに手が出るからいつも痛い。
だけどこの男は言動こそ厳しいけれど、その中に不思議と優しさが含まれていると理解できた今、
不快になっても不思議じゃないほどの言動が不快じゃないという状況がひどく興味深い。
(もっと怒られてみたいな……でも……。)
「ねぇ、君の名前、ちゃんと覚えるから教えて?」
「っ……やはり貴様は俺の名を覚えていなかったのか。くそっ、お前だけだぞ、俺をここまでみじめにさせるのは!!…………ルチェル・エレア―ノスだ。自分で覚えるといったからにはしっかりと覚えておけ。」
不快そうに、不服そうに、気に入らなさそうにしながらも僕の願いを聞き言えれてくれるルチェル。
そんな彼を見ているともっともっと怒らせて、不快にさせてみたくなってしまうけれど、今はそれどころじゃない。
「ルチェル、心配も糾弾も後で存分にしていい。だから今はアリステラの元に――――――」
「おやおや、そちらの愛らしいお嬢さんはもう会場にお戻りで?」
(…………え?)
手を放してほしい。
そう改めて懇願しようとする僕の声を遮り、どこかフワフワとした口調で話す声が聞こえてきた。
その声に反応して声の方を振り返ると酔っているのかひどく顔を赤らめ、熱い息を吐きながら息を切らしてている男が僕たちの元へと歩み寄ってくるのだった。




