第105話
ルイスが王宮に出かけた後、私は疲労はもちろんのこと、がくがくでまともに立てない足腰をどうにか頑張らせて昨日ヴァルドと会う約束をした場所へと来ていた。
(腰痛い……もういろいろ身体つらい……というかそもそも今更だけど……)
ハーネス……いや、ハウルさんと再会したこの場所を待ち合わせ場所にするのは随分とまずかったんじゃないかと今更ながらに思う。
けどヴァルドが来るとわかっているわけだし、そんなに危険じゃないかな?
なんて思っていたその時だった。
私の肩が軽く叩かれた。
驚いて振り返るとそこにはどこか困った様子のヴァルドの姿があった。
「お、驚かせたか?悪い。その、名前聞いてなかったからなんて声かけていいかわからなくて……。」
よく知っている人物であるヴァルド。
だけどどこか私の知るヴァルドとは違うような、そんな雰囲気が漂ってくる。
なんというか、緊張しているようなそんな感じが伺える。
(そっか。私に似ているとは思っていても別人だって認識があるんだもんね。ほぼ初対面の人間なわけだし、緊張もそりゃしちゃうよね。)
「いえ、大丈夫です。そういえば自己紹介がまだでしたね。僕の名前はテイラーです。」
「あ……ヴァルド・ク――――――いや、ただのヴァルドだ。」
一瞬、家名も口にしようとしたみたいだけど、テイラーがほとんど素性の知れない赤の他人と思い出して口にするのをやめたのだと思う。
一応、警戒している様子からもう「アリステラ」という疑いは持っていないようで少し安心する。
「えっと、その、食べに行く場所は俺のおすすめでもいいか?」
少したどたどしい感じで問いかけてくるヴァルドに私は了承の言葉を返した。
するとヴァルドは私の袖をつかみ、歩き始めた。
「その、あれだ。昨日不審者に絡まれてたからな。はぐれないようにというか、なんというか……。」
すこしぶっきらぼうな口調でこちらと視線を交わさずに自身の取る行動について語るヴァルド。
(うわぁ……本当新鮮。)
耳が真っ赤なのが私から見て取れる。
つまり今結構いっぱいいっぱいな感じなんだろう。
(なんかこう、頑張ってますって感じのヴァルド、なんかいいな。)
兄弟のこういう姿ってなんだか微笑ましく感じてしまうのは私だけなのだろうか。
何はともあれ新鮮なエスコートの元、私はヴァルドと食事をするべくお店に入った。
(うわぁ……これまた意外。)
店内はひどくきれいなレストラン。
そして見渡す限りお客さんは貴族で固められている。
が、意外と男性同士のお客さんも多くて私たち二人も変に浮いている様子がない。
(こんなおしゃれなお店知ってるなんて……。)
ヴァルドと言えば剣術にしか興味がないと思っていた。
まぁ、そう思っていて恋愛にはちゃんと関心があったわけだけど……。
(というかこの店、人違いのお詫びで連れてくるような店じゃなくない?)
何を頼もうかメニューを開いた瞬間、私は少しだけ料理の内容に引いてしまった。
だって、料理の内容から多分随分なお値段がしそうだ。
恐らく男性同士の客人も商談とかの接待なんじゃないかと思う。
「あ、あの、本当にいいんですか?こんな素敵なお店でごちそうになっちゃって……。その、僕は貴族じゃないんでちょっと場違いじゃないかなとか思っちゃうんですけど……。」
ヴァルドの身なりはラフな格好とはいえ貴族とわかるいい布が使われた服。
大して私はドレッドのお古。
もちろんドレッドが貴族が買うような服を着たりするわけがないわけで、布は安っぽいもの。
幸い注目は浴びていないけど、場違いな気はどうしたってしてしまう。
(まぁ、私としてはいろいろありがたいけどね?こんな豪華な食事随分してないし、さらに言えばクッションふわふわでお尻も痛くないし……。)
だけどヴァルドの品位が心配になってしまう。
そんな私の言葉に何を思ったのか、ヴァルドはため息をついて店員を呼んだ。
「これとこれとこれ、あとこれにこれを。」
「はい、かしこまりました。」
店員を呼んだヴァルドは普通にこのまま場所を変えず食事をするという意を表したかったのか、呼びつけてそのまま注文をしてしまった。
しかもこちらに食べたいものがあるのかとかも聞かずにだ。
(お、お詫びなら少しくらい何が食べたいとか聞いてくれてもいいのでは……?)
メニューを持っている相手に何も声をかけずに注文を終わらせるのは流石にどうかと思う。
そりゃヴァルドのおごりとなるとどれにしようか決めかねてはいたけど……
なんて思っていた時だった。
「テイラーの視線で大体の料理を注文した。」
「…………え?」
視線で大体。
その言葉がどういう意味なのかすぐに理解できなかった私は思考とともに体が停止してしまう。
そんな私の混乱を知ってか知らずかヴァルドは言葉をつづけた。
「もう頼んだんだから遠慮して食わないとか無しだからな。」
ヴァルドは少し照れくさそうに頬杖を突きながら視線を私から大きく外して言葉をこぼした。
そんなヴァルドを見て「これはヴァルドの気遣いなんだ」とおそばせながら気づく。
(ひどいと勘違いした自分が恥ずかしい……。)
私はとんだ勘違いをしてしまったことを恥じながらヴァルド同様、目の前いる相手から視線を外す。
そして、料理が届くまでの間お互いどこか恥ずかしくて言葉を交わすことすらできなのであった。




