第121話
「はぁ、よかったわ。あの子ったらずっと元カレに執着していたから将来が心配で仕方なかったの。私はいつも言っていたのよ?終着なんて虚しくて悲しいだけだって。ねぇ、貴方もそう思わない?」
「え?あ、は、はぁ……。」
少し早口で表情をころころ変えながら私の知るライラ夫人とは思えない発言を口にするライラ夫人。
というかこの人が執着やら何やらを語っているのを聞くのはなんかこう、不思議というか…
いや、そもそも本当にこの人はライラ夫人なのだろうか。
そっくりさんや姉妹、親戚だったりしないだろうか。
とさえ思えて仕方ないほど別人に思えて仕方がない。
「あ、ごめんなさいね。少し色々捲し立てすぎてしまったわね。私はチェルダー伯爵の妻でライラ・ウェルティエシアというの。貴方のお名前は?」
(ご、ご本人だった――――――!)
別人だと思えて仕方ないしそうだといってほしいレベルに同一人物には思えないのにまさかの同一人物。
(……もしかして「アリステラ」が死んでいた、もしくは存在していなかったらライラ夫人はこんなにも明るくて気さくな性格だったのかな……。)
そう思うと私のせいではないにしても彼女の中の何かを狂わせてしまったことに罪悪感が生まれてくる。
生まれてくるけど――――――
(それよりどうしてこの人がここにいるんだろう。というか、名前ってなんていえば―――――)
「彼の名はアランですよ。ちなみに愛称はアリスです。」
なんて自己紹介をしよう。
そう悩んでいると今私の為にケーキを作っているはずであろうハウルさんが何故かいつの間にか私のすぐ後ろに立っており、私の名前を勝手に偽造し、愛称だけそのままで紹介をしてくれる。
(というか、食堂から歩いてきたなら普通私の後ろじゃなくてライラ夫人の後ろに立ってないとおかしくない?)
ルイスのように彼にも瞬間移動の能力があるのかと思ってしまうくらい変な登場の仕方のハウルさんに驚き言葉が出てこないのでとりあえず私はライラ夫人に向かって頭を下げる。
(というかアリスって言ってヴァルドの時みたいにアリステラについて何かを思い出したらどうしよう……。)
なんて思いながらライラ夫人をちらりと見る。
だけど特に名前について違和感を覚えた様子は見て取れない。
それどころかハウルさんの登場でよりいっそう目が輝き始めた気がする。
「ねぇ、ハウル。ここに居るという事はそういう事と思ってもいいのよね?」
「俺は構いませんが彼は嫌がるかもしれません。先ほど告白をしたら惚れさせてみろと言われたばかりでして。」
キラキラと目を輝かせながら問いかけるライラ夫人にさらっと嘘のような事実のような何とも言えない返答を返すハウルさん。
ライラ夫人の考えは見たままなのだろうけどハウルさんが何を考えているのかがいまいち理解できない……。
(というか、あんなに「アリステラ」を追っていたライラ夫人が「アリス」という名前に何も反応しないのはちょっと意外だったな……。)
ある意味誰よりも執拗に私を求めてくれていたから何か思い出す気がしなくもなかった。
という事はやっぱりヴァルドがちょっと特殊なだけなのだろうと改めて思う。
なんて一人考え事をしていたその時だった。
「はぁ……これで私の罪悪感も少しは晴れるというものだわ。私のことは恨んでないって言ってくれたけど、正直私もずっと気にしていたのよ。”ルイス”とのことであなたを深く傷つけてしまったこと、ずっとずっと後悔していたのだもの。」
(…………え?)
”ルイス”とのこと。
そのワードを聞き私は全身の血の気が引くような感覚を覚えた。
何故ライラ夫人がルイスの事を知っているのだろう。
それに――――――
(ライラ夫人とルイスは私の目の前で顔を合わせたことがあったけど、知り合いみたいなそぶりなんて全くなかったよね……?)
何故ライラ夫人がルイスの名をかたるのか。
そしてライラ夫人が言った、ルイスとのことでハウルさんを傷つけたという言葉。
信じられないけれどもしかしてもしかすると――――――
「ハ……ハウルさん、まさかライラ夫人ってハウルさんの……――――――」
恐る恐る私の中で固まりつつある答えが正しいかどうかを確かめるためハウルさんに小さな声で語り掛ける。
するとハウルさんは笑みを浮かべつつもどこか不愉快そうな声で私に言葉を言い放った。
「えぇ、貴方の推測通りかと。彼女は俺の”姉”ですよ。」
「…………え!?姉!!!???」
私の推測とは違うハウルさんの言葉。
その言葉に私は予想があっている会っていない以前にひどく驚く。
「おや?ルイスから聞いていたんじゃないんですか?姉さんと浮気しているところを見てしまって僕が怒り狂った結果、ルイスを永遠に成長しない子供の身体に作り替えたって。」
「いや、そんな昼ドラみたいにドロドロした話は聞いてませんよ!!!!」
浮気をしていたという事は確かに聞いた。
だけどその浮気相手が恋人の”姉”で、それも私にひどく執着していた”ライラ夫人”だなんてとんでもない話は聞いた覚えがない!!
「ちなみにもっと詳しい事を教えるとルイスは俺に見つかった後とんでもないことを言ったんですよ。」
「と、とんでもない事……?」
一体若かりし頃のルイスはどんな爆弾発言をしたというのだろう。
聞くのは怖い。
だけど知りたい。
そんな好奇心から静かに問い返してハウルさんの返答を待った。
するとハウルさんは笑みを浮かべているのにハウルさんの目からはふっと光が消えて―――――
「『ハウルも混ざる?』って聞いてきたんですよ、あの淫乱男はね。」
ひどく冷たい言葉でとんでもない事実を吐き捨てた。
(ル、ルイス―――――――!!!)
擁護のしようもないクズ!!
激しいクズ発言!!!
まずそもそも恋人の姉と寝てる時点でアウトだけど、その上悪びれず『混ざる?』なんてありえない。
(……あれ?ちょっと待って。ルイスって私とドレッドがそういう関係になったら嬉しいって言ってるような発言をしたこあったよね?その後ドレッドが女の子だったら付き合いたいとか言ってたし、まさか――――――)
何でも知っているハウルさん。
そんなハウルさんに視線を向けると今は私より少し身長の低いハウルさんは私を見上げながら私の頭をなでてきた。
「言ったでしょう?俺たちは似ている、と。」
似ている。
その言葉が「同じ目に合うかもしれない」という言葉に聞こえて仕方ない。
そしてその言葉によって私の嫌な予感は止まることなく膨らんでくる。
(ル、ルイスのバカぁぁぁぁ―――――!!!)
私は目頭に涙を浮かべながら心の中で大きく叫ぶのだった。




