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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

キャラクターの心

作者: 無花果

 最近になって私はゲームという存在を知った。


 私はどうやら、主人公という存在らしい。


 だからかな、身体の自由が効かないのは。


 今日も見慣れた景色を往復する。

 馬車に揺られながら、御者と話すわたし。


「いやー、今日も天気がいいですね!」

「そうだね、こんなに天気がいいと隣町まであっという間だよ」


 勝手に動く口。この口が私の気持ちを伝える事はない。この顔の動きからすると私の表情は笑顔だろうか?


 私にできる事。こうやって勝手に動く身体の感覚を感じることと、目に見える景色を眺めること、そして考えること。


「……隣町に着いたら、あのアイテムを売ってギルドに行かないと」


 どうやらわたしが考えてる事が口に出てるようだ。


 私を動かすわたし、これは何なのだろうか?取り憑かれてしまったのかと昔はよく考えていた。

 最近になって勝手に動く口が語る言葉で、やはりこれは何者かが私の主導権を握っているという事が分かってしまった。


 それは数日前のことだ。

 恐らく惚けた顔をして勝手に動く口が呟いた。


「やっばり、このゲームはこういう景色が見えるから、いいんだよなぁ〜」

「私自身も、めちゃくちゃ綺麗だし、流石主人公ってだけあるわ!」


 その言葉を発した時の事は、今でも覚えている。

 私は誰かに動かされている。そしてそれは、私の五感も感じてるのかもしれない。……ただ、私のこの思考、考え自体は認識出来ていない筈だ。

 出来ていたら、こんな残酷なことをしながら呑気な事は絶対に言えない。私なら無理だ。


ガタンッ!ザワザワッ


 隣街に着いたのか、馬車の外がガヤガヤしだしてきた。

 そのせいか、思考から現実に意識を戻される。 


「……でもな、あそこへ行くとバグがあるって聞くしな」


 そう、このわたしが表現するバグという場所。

 そこは、私にとっての楽園である可能性が高い。


 私はそこでなら、身体の主導権が戻るかもしれない。

 以前、わたしがその空間へ入ろうとして右肘から先が入った瞬間、肘以降が自由に動かせた。


 だからこそ、バグという場所に私の全身が入ってしまえば……と、私の期待感は膨らむばかり。


 そう、バグは私にとっての唯一の希望なのだ!それは真っ暗闇を照らす一筋の光だろうか?私が恋しているのはまさにバグなのかもしれない!

……あまりにも私にとって重要度が高いので、思考が飛躍過ぎだかもしれない。


 もしこの思考が読まれでもしていたら、恥ずかしい。



 停車した馬車内で動く私の身体と動かすわたし。


「じゃあ、御車さん。ありがとうございました!また今度もお願いしますねっ」

「おう、またよろしくな嬢ちゃん」


 笑顔で貨幣を支払い馬車から降りて、背伸び。

 きっと退屈だったのだろう。私も腰が痛かった。

 そこから歩く事数分、しばらくしてバグの場所が見えてくる。


 考え事でもしてるのか顎に手を当ててブツブツと呟くわたし。徐々に迫るバグの場所、けれども気づくことのないわたし。


 これはチャンスだ!夢にまで見たビッグチャンスだ!!

 この興奮はやばい、とてもやばい。興奮しすぎで語彙がやばい。もはや、そんな事すらどうでもいい。


 身体が自由にに動かせない私だが、動かせていたら目が血走っていた事だろう。

 ブツブツと呟くだけのわたしは、バグに近い事に気づいてすらいない。


 バグに左足が突っ込んだ!でも、まだ全身ではない。

久しぶりの身体の主導権を一部取り戻すも、まだだ……。……まだ気づかれてはいけない。


 焦る思考を落ち着け、わたしの身体の動きに合わせバグへ侵入した身体も違和感なく動かしていく。

 全身がバグへ浸かるように。違和感を抱かれないように。慎重に。でも慎重すぎないように。


……身体が入りきった。バグへ。


「やったあぁぁぁ!私の身体が!主導権が戻った!」

 自然と涙が流れながら、久しぶりに私の意志で動く口で叫ぶ。

「なんどっ!なんど、なんど、なんどこの時を考えたか!勝手に動く身体。ベッドから起きる際の癖がない動きの気持ち悪い違和感!勝手に身体が動くようになってから、癖だったと気付いた目覚めた瞬間に髪を触る動き」


 そして、勝手に動く身体に誰かの癖と思われる動きがされる度に、私の身体が侵されている事の実感。私の思考では気持ち悪さや吐き気が込み上げるけど、身体ではそんな兆候が見られない!私がダレカに侵食される恐怖。


「それからっ!やっと私は解放されたのよ!アハハッアハハッッ!ゴホッ!ゴホッ!」

 私は抑えきれないこの解放感を口に出していた。喉がつっかえて咳が出てしまったけれど。それでも、その事がただ嬉しかった。


プツンッ!


 私にはなにかが落ちるような音が聞こえた気がした。なんか意識も遠くなったような………。


ーーーーーーーsave dateーーーーーーーーー

どのデータをロードしますか?

1,冒険の村 馬車にて

2,商業都市 ギルド周辺にて


 わたしは先程までプレイしていたゲーム機を投げていた。

「あぁ、またバグっちゃったよ!あの空間に入ると勝手にフリーズしちゃうんだよなぁ」


 ゲームの世界に没入していたわたしはセーブはしていたものの、間違ってバグゾーンに入りフリーズしてしまったので、キレて電源を切ってしまった。


「購入した時は、こんなバグがあるって聞いてなかったのになぁ。製作者に文句言ってやる!」


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

あなたがしているゲームは、本当に私たちと同じような意志がないと思いますか?

読んでいただきありがとうございます。

後味は悪いかもしれませんが、こういう話を書きます。

現在のゲーム内でも同じ事が起きていたら、怖いですね。

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