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 八月終わりの午後二時頃。

 涼しい部屋で、することもなく、ただぼんやりと横になる。瞼を閉じて身動きもせず、静かに音を聞いている。


 カチコチカチと針が進む。

 ミシリギシリと梁が軋む。


 そうしていると、どこからか、私の名を呼ぶ声がする。蝉の呼ばわる音に紛れて知らないナニカの声がする。声は外から聞こえている。酷く眩しい外からだ。私は少し、視線をやって、外の様子を伺った。掃き出し窓のあちらの側に何がいるのか見たかった。


 青くきらめく田んぼの向こう、樫の垣根の下だった。黒猫よりも黒ぐろとした垣根の木陰のことだった。妙に浮き出た陰こそが、私のことを呼んでいた。

 それは何だか薄暗がりの底の見えない澱みのようだ。

 陽すら射さない深海にある冷たく暗い水の色。


 何が私を呼んでいるのか。

 何があの暗闇にいるのか。


 そんな思考に囚われて、気がつけば日が暮れかけている。私はあれに魅せられている。

 こうしていつも、あの声を、身を横たえて待つことですら、己が意思ではないと感じる。


 私はあれが恐ろしい。


 夏の夜中のあの闇よりも晴れた昼間の陰のほうこそ、ずっと私は恐ろしい。

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