オマケ2 新婚の2人
リクエストにあった“2人の新婚生活”です。
なお、テラスで手を振る2人の絵は、一月くらい掛かって完成しますので、結婚直後にはまだありません。
夢のようなヴィヨン様との婚姻の儀が終わり、陛下、王妃様、第3王子殿下方との顔合わせもすみ、ようやく夜となりました。
正式に婚姻を結んだことで、私は王太子妃としての部屋に移っています。
隣接する寝室を介して、ヴィヨン様の私室と繋がっている部屋です。
お城に来てから身の回りの世話をしてくれていた者達がそのまま私専属の侍女となり、いつにも増して念入りに磨き上げられました。
初夜、です。
お城に来た日から、そうなることはわかっていましたが、やはり、いざとなるとドキドキが止まりません。
いえ、もちろん望むところというか、ヴィヨン様でなければ嫌というか、その……なのですが。
お待ちする時間というのは、本当に長く感じるものですね。そのうち心臓がパンクするのではないかと思うほど騒いでいます。私がここで死ぬことなどないのですけれど。
感覚的には、このまま朝になるのではないかと思われるほどの、実際にはおそらく数十分の後、ヴィヨン様がおいでになりました。立ち上がってお迎えします。
「アミィ、ようやくこの日が来た。待ちわびたよ」
「ヴィヨン様…」
「君が毒に倒れた時は、本当に怖かった。
アミィ、他者を慈しむ君の心根は素晴らしいと思う。でも、僕のために、自分を大事にしてほしい。僕の、ただ1人の妃として、自分の身を守ることを優先すると約束しておくれ」
ヴィヨン様…
「はい…」
「約束したよ」
そう言って、ヴィヨン様は私を抱きしめて口づけてくれました。
ヴィヨン様の手が夜着越しに肩の傷跡を撫でました。
「っ!」
「僕を庇ってできた傷だね。この傷跡がアミィの真心の証だ。
でもね、僕がアミィを好きになったのは、感謝からじゃない。アミィが完璧な令嬢という仮面の下に、王子じゃなくヴィヨンという1人の人間を見てくれる女の子を隠していることを知ったからなんだ。君が身分でなく僕個人を見てくれていると気付いて、不謹慎だけど嬉しかった」
「ヴィヨン様…」
「正式に妃になったら、ヴィーと呼んでくれるんじゃなかったかな」
ヴィヨン様がいたずらっぽい顔で笑いかけてきます。
…たしか、学園に入学した頃、そんな話をした気がしますね。
いいのでしょうか、ヴィヨン様を愛称で呼んでも。
いい、のでしょうね。私は、ヴィヨン様の妃なのですから。
「ヴィー…。でも、私的なところでだけですよ?」
「構わないとも」
ヴィヨン様…ヴィーは、とても優しい目で私を見詰めた後、深く口づけました。
こうして、私はようやく身も心もヴィーに捧げることができたのです。
王太子妃となったことで、私にも公務が割り振られるようになりました。
ヴィーと顔を合わせるのは、朝食と夜だけです。
夕食を共にできるのは、3日に一度がせいぜい。
それでも、夜だけはゆっくりと時間が取られています。
私にとって最重要の公務である王子を産むために。
50歳くらいまでは命を保証されている私ですが、男子を産むことまで保証されているわけではありません。
さすがに、これはコウノトリのご機嫌次第でしょう。
一部には、私が毒を受けたことで子を産めなくなったのではないかと心配する声もあるようです。
陛下も王妃様もヴィーも、私の耳には入らないように計らってくださっていますが、あいにく私も貴族の娘ですから、そうした耳はいいのです。
「ヴィー、気を遣ってくださっているのはありがたいと思っていますが、既に私の耳にも入っておりますから、気になさらなくて結構ですよ」
ベッドに並んで腰掛けて、ヴィーに語りかけます。
どのみち、嫁した後で何年も子ができねば、石女と言われるのが貴族の世界。それは王家でも変わらず、いえ王家なればこそ世継ぎの重要性は増します。
だからこそ、陛下にも側妃がいらっしゃるのですし。
私が王子を産まねば、側妃をと勧めてくる者も出てくるでしょう。
私としても、たとえそれがブーケだったとしても、ヴィーに側妃を持ってほしくはありません。
でも。
「王子を産むのは、私の最も大切な役目です。
とはいえ、ヴィーも毎日の公務でお疲れでしょう。
毎日子作りをする必要はございません。
時には、ゆっくりと体を休めることも重要かと」
焦る必要などありません。
世の女性は、誰も自分が子を産めるかどうかなど知る由もないのです。私に限ったことではありません。
それは、確かに王子を産むのは私の仕事ですが、子が欲しいと願うのは、仕事ではなく、私自身の希望でもあるのです。
女と生まれ、愛する人と結ばれたなら、次に望むのは愛する人との間の子。それは、きっと普遍的なことなのです。
私は、ヴィーの赤ちゃんをこの手に抱きたい。
ゲームの期間は既に終わり、ゲームとは異なるエンディングを迎えました。
ここからは、ヴィーと私とで紡ぐ私達の歴史です。
2人の心のままに、2人の物語を綴っていきましょう。
「公務で疲れているというのは確かだけれどね。
だからこそ、僕はアミィに触れることで心を癒やされていると思うんだ。
世継ぎとか、そんなことはどうでもいいから、僕を君に溺れさせてくれないか」
ヴィー?
そうですか、私が癒やしになるのでしたら
「どうぞ、いくらでも溺れてくださいませ。
私は、あなたの妃。
あなたと生涯を歩む者です。
求められて嬉しくないわけがありません」
ヴィーが私を欲してくれる。甘えてくれる。
心から、求めてくれる。
これほどの幸せは、そうはないでしょう。
私は、あなたと支え合って生きていきたい。
王太子妃となって1年半が経つ頃、私は無事、王子を産みました。
 




