3 悪役令嬢は、自分を磨く
王太子妃に相応しい淑女になると決めた私は、お父様にお願いして、淑女教育を前倒しして始めることにしました。
前世の記憶などという余計なものがある分、不利になるかもしれないと思ったからです。
庶民として生きてきた記憶があるなど、ブーケと同じようなものですからね。
いざ始めてみれば、思ったよりもこの体はスペックが高かったようで、面白いように上達しました。
前世では、ダンスなんて小学校でしかやったことありませんでしたが、なんとかなるものですね。もちろん、4歳児にしてはという但し書きが隠れているのは当然ですが。
マナーも、日本での知識とあまり変わらないので、どうにかなりました。音を立てずにカップをソーサーに戻すのが一番難しかった気がします。
そして、王国語は、なにしろ外来語も含めて日本語ほぼそのままですから、楽勝です。
パソコン、スマホ、ラジオといったエレクトロニクス関連の言葉は、当然ありませんが。
数学も…というか算数レベルですから、こちらも楽勝ですし、意外なことに歴史も、攻略本やファンブックに書いてあったことは全部史実という扱いですから、かなりのアドバンテージです。
おかげで、家庭教師から絶賛され、お父様からお褒めの言葉までいただきました。
意外なことに、王国語と算数は、同じ年の時のお兄様以上だとまで言われました。
シャメールお兄様は、攻略対象の1人で、私達より2歳上、学園で不動の首席を誇るキャラです。
公爵令息というと、普通なら腹黒系キャラの立ち位置だと思うのですが、穏やかな性格で、人当たりのいい、非の打ち所のない人物として描かれています。
学園の自治会長──生徒会長に当たる──でもあり、ブーケが自治会に入ることで接点が生まれる流れでした。
学年が違うから直接対比はされませんけれど、ブーケもお兄様も学年首席の優秀な人ですからね。
攻略対象がお兄様のハッピーエンドは無事見られましたが、ブーケがポワゾン公爵家に復帰した後に嫁いでくるという流れになります。
お兄様のルートでも、私はブーケに色々と嫌味を言っていますが、恋敵ではないためか、私が特にブラコンではなかったせいか、貴族らしからぬブーケの言動に眉をひそめているといった態で、特に敵対はしていませんでした。
そのため、断罪やざまあもなく、平穏に終わります。──そもそも、お兄様のルートでは、私はすんなり王太子妃になるわけで、ブーケに目くじら立てる必要がなかったという事情もあるのでしょう。
妹として、ライバルとして、張り合わなければならないアメリケーヌは、可哀想なキャラだと思います。
今となっては、私がその役割を押しつけられているわけで、責任者を出せと言いたい気分です。
今生では、私はヴィヨン様の婚約者として相応しい姿を示し続けなければならないわけですから、スタートダッシュで差を付けておきましょう。
そんな私の努力はそれなりの成果を挙げたようで、お父様からお褒めの言葉をいただくほどになったわけですが、少し困ったことも起きました。
私が部分的とはいえ、お兄様を上回る才能を見せたことで、お兄様との関係がギクシャクしてしまったのです。
私を見る目に険のようなものを感じますし、何より、明らかに以前より会話が減りました。
これはまずいです。
お兄様が敵に回ったりしたら、展開が予想も付かない方向に曲がりかねません。
少なくとも、お兄様ルート程度には良好な関係を築いておかなければ。
そう思った私は、お兄様に対し、媚を売ることにしました。
要するに、お兄様大好きアピールをして、可愛い妹を演じるのです。
私の成績は所詮、前世からの持ち越しに過ぎません。
知識や洞察力などでは、お兄様には及びませんし、少なくとも公爵家の後継として、私はお兄様の脅威にはなり得ないのですから。
はしたなくならない程度にお兄様大好きアピールをしていると、お兄様の態度は軟化してくれました。
特に、負けても負けてもリバーシで挑み続けたのが功を奏したようです。もちろんわざと負けているわけではなく、こういった機転の必要なゲームでは、私はお兄様に遠く及ばないのです。
「お兄様、またお相手くださいませ」と上目遣いでお願いすれば、たちどころにお兄様の機嫌が良くなります。
ああ、よかった。
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そうこうするうちに、私は7歳になりました。
ヴィヨン様との婚約まであと1年。
ゲームでは、形だけの婚約者として、ヴィヨン様に疎まれていた私ですが、なんとか目を向けていただいて、私のためのハッピーエンドを目指しましょう。
4話は8月9日午前8時頃更新、5話は8月9日午後9時更新です。