寝言を聞く景子はもういない
数字が無くなる夢を見た。
0,1,2,3,4,5,6,8,9
7がない。
もちろん夢の中の話。
計算の途中で7がないから出来なくなったり、電話をしようとすると7のボタンがなかったり、夢特有の全く意味の分からない話。
風邪の兆候はあった。平熱が36℃ない俺が、会社の頭がボーっとするなあ、と感じ、検温したら37.4℃だった。これはダメだ。歳を重ねてからの発熱は非常に辛い。
疲れていたのは間違いない。うまく行かないのは仕事ばかりではない。今、付き合っている景子とも、なんとなく意見がズレることが多い。仕事のミスは引きずらない方だが、疲れはどうしても体調に影響する。歳を取った、と言えばそれまで。でもまだ29歳。まだまだ若いと自負していたい。
一人暮らしのアパートに帰るとすぐに厚着をして布団に入った。
おばあちゃんが言っていた。汗をいっぱいかけば風邪は治る、と。だから薬は飲まなくていい、頭を冷やすのは貼っていい、と。
気が付くと景子がいた。
景子は同じ会社の2つ下の後輩だから、俺が風邪ということも知っていて看病に来てくれた、に違いない。
「あ、起きた? 結構、うなされてたよ。寝言みたいなのも言ってた。」
何故か心配する素振りが薄い。暗い部屋でスマホを見ている景子の顔がライトで照らされる。部屋の壁に掛けてある時計をみるとまだ夜の10時だ。帰ったのが7時ごろだから、きっちり3時間寝たことになる。汗もそれなりにかいて、少し楽になった気がする。
「そっか、変な夢見ちゃったからな。何て言ってた?」
景子は声を少し大きくして言った。
「ナナはどこだ、ナナがないと、とか。」
「あんた、まだ奈菜と続いてたの?最低。」
歳を重ねてからの発熱と寝言にご注意を。