寄り道
どれだけ小説の中の人物に感情移入できるか、いかにそれを作者の考え方のように表すことができるか、に挑戦した短編です。感情移入してくださった方がいたら幸いです。
時間って言うものは、やっぱり誰もが言うように止まってくれないもので。
ああ、あの時こうしていれば、なんて思っても、時間はそんな私たちなんてほっといてさっさと先へ進んでしまう。それを横目で見て、追いかけようか追いかけまいか迷っているうちに、いつの間にか取り残されてしまうんだ。
時間っていうのは殺生なもので、私が望んでも止まってくれないくせに、私を取り残すことはできる。ある一定の時間に閉じ込めて、そこから出てこられないようにする。
だけど私は知っている。学んだ。
時間は止まってはくれないけれど、私を閉じ込めることは出来るのだから、何度も何度も振り返ったって問題ないということだ。
ちゃんと時間の流れに沿って一緒に進んでいる彼らとは違って、私には時間がある。少なくとも閉じ込められている間は、どれだけの時間を要してもそこを振り返って、見渡して、じっくり観察することができるのだ。
その間にふらりと寄り道したって、これ以上ほって行かれることはないのだ。
だから、私はちょっとだけ立ち止まって、振り返ることにした。
そして、次にそこから抜け出せた時に、戸惑わないように練習するのだ。
どれだけ不自然で、今までと全く違う時間の流れに入ってしまったとしても、平然と構えていられるように、人生の分岐点を無視して。決して踏み入れてはいけないよと、わざわざ草で覆い隠された道を探し当てて、そこに一歩、慎重で大胆な一歩を踏み出すのだ。
どんどん加速する時間の中で、ちょっとだけ寄り道。