エピローグ4/5
「……カイのおかげだな。改めて、お礼を言わせてくれ。ありがとう」
「んだよ今更?」
「いや……きちんと礼を言っていなかったかもと思ってな……それでだ……その……話は変わるが、カイはクリス姉さんが生き返る可能性を、初めから考えていたんだよな?」
ここでなぜか、こちらから視線を逸らして、ルーラが躊躇いがちにそう尋ねてきた。ルーラの態度を訝しく思いながらも頷いてやると、彼女がきゅっと唇をすぼめる。
「えっと……断っておくが、私はこれで六年前の罪が許されるとは思ってない。思ってはいないが……少しほっとしたのも事実だ。少しだけだが救われたような気がした」
「そいつは何よりだ」
ふっと微笑みを浮かべる。笑い掛けるこちらを、ルーラが顔を逸らしたままチラチラと覗き見ている。気のせいだとは思うが、どことなく彼女の頬が赤い。
「……それでその……勘違いなら別に良いんだが……カイが危険を冒してでも神聖樹を過去に戻そうとしていた理由の一つに……その……私のことを気にしてとか……あったりするのかと……いやもちろん一番の理由は子供たちなんだろうが……少しぐらいは……」
「何言ってんだお前? そんなの――あるに決まってるだろ」
ごくごく当然にそう答えてやると、「本当か!?」と勢い込んだルーラが、前のめりに顔を近づけてきた。頬を赤らめて瞳を輝かせるルーラに、カイは困惑しながら頷く。
「お……おお。そりゃあな。確証がなかったから話せなかったが……お前がずっと罪悪感に苦しんでいることは分かっていた。だから少しでも軽くできればとは思っていたぞ」
「カイ……お前そこまで私のことを?」
ぱあと顔を華やがせるルーラ。カイは怪訝に思いながらも、「当たり前だろ」と笑う。
「お前は俺にとって、大切な妹でもあるんだからな。妹の世話は兄の役目――ぐほっ!」
話をしている途中で突然、顔を近づけていたルーラに頭突きをかまされた。カイはズキズキと痛む鼻頭を押さえると、ベンチから無言で立ち上がったルーラに声を上げる。
「――てめ……いって……何しやがる!?」
「……喜んで損した」
「は? 何のことだ!? おいルーラ――」
「うるさい! いつもお前はそうなんだ! こっちが勇気を振り絞っても、的外れなことばかり言いやがって! もう知らん! カイの鈍感野郎! ああああああああん!」
よく分からないことを口走りながら、施設の建物へと駆けていくルーラ。若干涙を流していたようにも見えるが、まさかこれまで頑なに泣くのを堪えてきた彼女が、そんなことはあるまい。何にせよベンチに一人取り残されたカイは、呆然と首を傾げる。
「……何だ? あいつ」
それからしばらく、カイはルーラがあれほど憤慨した理由を思案した。だがやはり皆目見当がつかない。カイは考えるのを諦めて小さく嘆息した。すると――
「隣に座っても宜しいですか?」
背後から女性の声が聞こえてきた。
カイはぱちくりと目を瞬き、背後を振り返った。彼の視線の先には、腰まで伸ばした金色の髪と、濁りのない金色の瞳の、高貴を身にまとった女性――
マリエッタ・ヴァルトエックが立っていた。




