エピローグ1/5
第五層主要都市アレクシアはとある大きな災害に見舞われた。その災害とは神聖樹の暴走だ。神聖樹より生まれた樹々が森となり、多くの人と土地を呑み込んだのだ。その被害は甚大であり、数百人もの命と、総面積に対して五パーセントもの土地が失われた。
災害の傷跡は大きく、特に人口の過密化が問題視されていた街にとって、膨大な土地を失ったことは致命的でもあった。多くの人が住むべき場所を失い、財産を失った。追い詰められた人々は犯罪に手を染めるようになり、街の治安は急速に悪化していった。
この問題に対して、地下世界の支配者でもあるヴァルトエック家は手をこまねいていた。地下世界にとって、土地とは有限であり、貴重な資源だ。失われた土地の代替など容易には用意できず、どうしたところで対策は後手に回らざるを得なかったのだ。
詰まるところ根本的な問題は――地下世界における絶対的な土地不足にあった。
そして、神聖樹暴走より六年の歳月が経過した。未だ問題解決の糸口が見えてこないその最中に、誰も予想し得なかっただろう出来事が唐突に起こる。
なんと――人や土地を呑み込んでいた神聖樹の森が、忽然とその姿を消したのだ。
なぜ神聖樹の森が消滅したのか。それは誰も知らない。或いはヴァルトエック家ならば、何かしらの情報を掴んでいたのかも知れないが、少なくともそれが公にされることはなかった。何にせよ、人類は神聖樹より奪われた土地を取り戻したのだ。
否。人類が取り戻したのは土地だけではない。神聖樹より奪われた数多の命。それもまた、人類は取り戻すことになる。それこそ誰も予想し得なかっただろう出来事だが――
神聖樹の暴走により死亡した人々が、生き返ったのだ。
もはやただの幸運では済まされない。奇跡と呼ぶことさえ憚れるだろう。だが事実は事実だ。困惑しながらも人々は、そのあり得ない現実を受け入れ――
前に進み始めた。
ヴァルトエック家の対応は素早かった。神聖樹の森が消滅しただけで、神聖樹の森に呑まれていた土地は、人が暮らしていける状態にはない。ゆえにヴァルトエック家は、生き返った人々を中央区に避難させると、土地の復興作業に着手した。
ガスや水道、電気などの生活に必要なインフラの整備や、地下世界では欠かすことのできない街灯の修理。道路の補正や、重要な公共設備の立て直し。等々。それら補整作業が急ピッチで進められた。さらに神聖樹の森を封鎖していた塀も取り除かれ、人々をその土地に受け入れる準備を整えていく。
そして瞬く間に――半年が過ぎた。




