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地中の森  作者: 管澤捻
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第四章 過去の邂逅1/11


 空のある世界。


 そこには六年前、神聖樹の暴走により森に呑み込まれたはずの、南区中心部の街並みと人々の姿があった。彼らは神聖樹の暴走よりこれまでの間、この空のある世界で、以前と変わらない穏やかな生活を送っていたのだ。


 閉塞された地下世界とは異なる、開放された空のある世界。頭上に映し出される広大な空間は、街に暮らす人々の視界を遮ることもなく、その声をどこまでも届かせていく。それはまるで、自分自身がどこまででも手を伸ばすことができるかのようだ。


 空のある世界では、明確な昼夜が存在していた。午後六時には太陽が沈み、午前六時に太陽がまた昇る。明暗の変化は街の雰囲気をがらりと変えて、別の街がいきなり目の前に現れたかのような錯覚をさせる。街灯により二十四時間照らされて、暗闇にぼんやりと浮かび上がる地下世界。その世界とは異なり、空のある世界は表情が豊かなのだといえる。


 人類が地下に移住したのは、三百年以上前だと伝えられていた。なぜ人類が地下に移住したのか。その理由については多くの仮説があるも明確ではない。だが何にせよ、それよりも以前、つまり人類がまだ地上で暮らしていた頃の生活は、残されている文献により知ることができる。そこから判断する限りで、この空のある世界はまさに――


 地上世界(・・・・)だといえた。


 神聖樹の森に呑み込まれた街や人々。それを内包した地上世界。三百年以上前に失われたはずのその世界が存在している理由。それはある理に反した力(・・・・・・・・)によるものだ。


 地上世界は魔法(・・)により生み出されている。


 その魔法とは、物体に記録されている時間軸を読み取り、特定の位置から再生する魔法だ。簡潔に述べるならば、過去を作り出すことができる。地上世界は、六年前に神聖樹の森に呑み込まれた街や人々の過去から、作り出されたものなのだ。


 魔法が存在する以上、それを扱う術者もまた存在する。地上世界を生み出した魔法。それを扱う術者とは、空を含めたその地上世界の記録を、内包した存在となる。


 その存在とは――神聖樹だ。


 神聖樹の魔法により地上世界は生み出された。その理由や目的などは分からない。そもそも確信のあることですらない。だがそれら推測が正しいとなれば――


 神聖樹の魔法を止めることで、地上世界からこれまでの地下世界に戻れるはずだ。


 魔法を扱うには、対象と接触する必要がある。だとすれば、地上世界のどこかに神聖樹がいるだろう。それもまた推測に過ぎないが、現状はそれを信じて動かざるを得ない。


 だが地上世界で神聖樹を探し出すことは、ひどく難儀した。そもそも神聖樹が、この地上世界においてどのような姿で存在しているかも分からない。少なくとも、神聖樹が立っていた南区のその場所は、ベンチが一つあるだけの広場となっていた。


 唯一の手掛かりは神聖樹の腕だけだ。神聖樹の腕は、神聖樹の魔法に干渉されることがない。つまり地上世界において、神聖樹の腕に触れられる存在があれば、それは神聖樹の魔法で生み出されたものではない、神聖樹本体である可能性が高いということだ。


 あとはその神聖樹の腕を頼りにして、神聖樹の可能性がありそうなものを、地上世界から手分けして探すしかない。だが一通り地上世界を見て回ったところ、神聖樹のような大木はおろか、身丈二メートルを超えるような植物すら存在していなかった。


 地上世界において神聖樹は、植物とは異なる形をしているのかも知れない。だがそうなると、神聖樹を探し出すことは絶望的だ。地上世界に存在する全てを、神聖樹の腕で確認するわけにもいかず、街の捜索を続けるも、ただいたずらに時間だけが過ぎていく。


 そして地上世界を訪れてより――


 七日が経った。



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