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地中の森  作者: 管澤捻
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第三章 空のある世界2/11


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 ドミニク・ブラウンは二年前に警備兵となった。数ある職業の中から彼がなぜ警備兵を選択したのか。それはただ単に、父親が警備兵であり、身近な職業であったためだ。


 ドミニクの配属先は、南区にある神聖樹の警護であった。六年前に暴走を起こした南区の神聖樹だが、今はその活動を停止しており、基本的に危険はないとされている。


 ドミニクは南区出身であるが、生家が南区でも北側で、神聖樹の暴走による直接的な被害を受けてはいなかった。それでも彼は、神聖樹の警護に配属された当初、強い不安を抱いていた。しかし彼がいくら恐怖に震えていようと、神聖樹はただ沈黙して鎮座するだけだ。月日が経つにつれ不安も薄まり、彼は神聖樹に不安を抱かなくなる


 最近になり、ドミニクはよく神聖樹を眺めている。アレクシアの広大な地下空間。それを照らすには、街の灯りはあまりに貧弱だ。地下空間の大部分は薄闇に支配されており、地下空間の天井を支える巨大な神聖樹でさえ、遠目ではその姿の把握が困難となる。


 だがそれでも、薄闇の中にぼんやりと浮かび上がる巨大な神聖樹と、その神聖樹を中心として広がる直径二キロにもなる広大な森は、壮大な力強さを感じさせた。その感覚を言葉で説明することは難しい。ただみなぎるような生命の活力がそこにはあったのだ。


 いつしかドミニクは、神聖樹の警護を気に入っていた。暴走さえなければ、神聖樹の警護は危険も少なく、神聖樹を封鎖した塀を巡回するだけで、やることも多くない。穏やかで平凡な人生。それを送るに、この任務は最適ではないかと、思えてきたのだ。


 だがその平凡な人生を過ごしていたドミニクに、最大の修羅場が訪れることとなる。


 ことの始まりは奇妙な一本の連絡だった。何でもヴァルトエック家の次女であるマリエッタ・ヴァルトエックが、この南区の神聖樹を訪ねてくるかも知れないというのだ。


 ヴァルトエック家といえば地下世界の支配者だ。当然ながら、ドミニクのような平民が関わり合いになれる存在ではなく、話したことはもちろん、その姿を見たことさえない。


 そのヴァルトエック家の次女が、どうして南区の神聖樹を訪ねるのか。その理由について、上層部からは何も伝えられていない。ただそのヴァルトエック家の次女が何を命令しようとも、彼女を塀の中に決して入れるなというのが、上層部からの指示であった。


 その要領を得ない指示に、ドミニクは困惑した。だがとりあえず、疑問を抱きながらも日々の業務をこなしていた。するとそこに、上層部から事前連絡を受けていた通り、ヴァルトエック家の次女と思しき金髪の女性が、警備兵詰所に姿を現した。


 だがその女性の状況は――ドミニクの抱いていた想像とは大きく異なっていた。



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