第二章 神聖樹1/11
地下世界の資源は常に不足している。これは仕方のないことでもある。地下世界は物理的に行動範囲が制限されている。ゆえに獲得できる資源もまた制限を受けることとなる。地下世界も徐々に拡大が進められているため、その有限なる資源の絶対量は年々と増加しているが、それは人口の増加率と比べて、あまりにも緩やかだ。
不足が深刻化している資源として、頻繁に話題に上るのが食材である。人が生きる上で必要不可欠な食材だが、その生産方法は畜産や農産など多様にある。だが往々にして、それら産業には多大な敷地面積を必要とする。有限な地下世界でそれほど広大な敷地面積を確保することは容易ではなく、それが生産量拡大の弊害と常になっている。
先に挙げた食材の他にも、不足が嘆かれている資源は多数存在する。それら資源もまた、様々な要因から生産量拡大が難儀であり、常に打開策を模索している状態にあった。
だがしかし、それら資源の生産量拡大を妨げる要因の一つとして、とある資源の不足が共通して取り立たされることが多い。そしてその資源こそが、この地下世界において最も不足が深刻化しており、何よりも貴重なものであった。
その資源とは土地だ。
人が生きていくうえで、土地とは食材以上に重要なものとなる。人が生活をする場所としてはもちろんそうだが、先に述べた資源の生産も、それを行う土地そのものが存在しなければ成立しない。少量の食糧で腹を空かせながら生きることはできても、足の踏み場もない場所で人は生きることなどできない。
地下世界のあらゆる資源の不足問題。その抜本的な問題点が土地不足に起因する。それはつまり、土地こそがあらゆる資源を支えている土台であり、あらゆる資源の中で最も価値のある財産であると、言い換えることもできる。
そんな貴重かつ限りある地下世界の土地は、現在とある業者により占有されていた。その業者とは、地下世界が創設されてより土地の管理を一手に担ってきた自営業者だ。
その業者とは――ヴァルトエック不動産。
地下世界の土地の大半は、ヴァルトエック不動産の管理下にあり、財産となっている。地下世界の人々は、ヴァルトエック不動産に賃料――一般的に税金と言い換えられる――を支払うことで、生活するための土地を確保しているのだ。
とどのつまり地下世界とは――ヴァルトエック不動産を大家とした広大な借家なのだ。
また地下世界の土地を管理するヴァルトエック不動産は、そこで生活を送る人間の管理も担うこととなる。ゆえに地下世界の治安維持組織である警備兵を始めとして、各種生活に必要な行政は全て、その管理を目的にヴァルトエック不動産により考案、設立された。
ゆえに地下世界は、ヴァルトエック不動産により支配されていると言えるのだ。
そんな地下世界の支配者であるヴァルトエック不動産は、数多く提携業者が存在するものの、その主体は家族経営となっている。つまりヴァルトエックの姓を持つ人間は、例外なくヴァルトエック不動産の関係者であり、地下世界の支配者の一人となる。
その地下世界の支配者の一人――
マリエッタ・ヴァルトエックが今――
子供の玩具にされていた。




