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判明した僕の生まれ

-- あれ?


気が付くと僕は一面真っ白の空間にいた。

ようやくなじみ始めた洞窟でもないし、そもそも僕の記憶にこんな景色は無い。

幸い洞窟で目を覚ました時と違い、経験が無くなってはいないようだ。

ゴブ太郎の事もゴブ次郎の事も思い出せる。


-- えーと…確かゴブ三郎を錬成して、斧持たせて伐採に行かせて…

--

-- ……そうだ、ゴブ太郎、ゴブ次郎と三人で石を採掘してたら、悪人面の人間が洞窟に入ってきたんだ。

-- それでゴブ太郎もゴブ次郎も殺されて…、怖くて洞窟の奥に逃げたんだけど背中にガツンって衝撃が来て…。

-- それでだめもとでゴーレム錬成して…それ以降の記憶がない…。

--

-- …僕、死んじゃったのか?



『否。貴殿のコアは現在修復中である。

貴殿のコアを修復する過程で、甚大な欠損と異常なデータを発見した。

要因を特定する為にこの場へ召喚している。』


独り言に答えるかのように、野太いとも機械的ともとれる声がその場に響く。

その声の出どころは真っ白な空間全体である様にも聞こえるし、地面から響いているようにも、はたまたはるか上空から響いているようにも聞こえる。


『我の姿を探す行為は不毛である。

貴殿の思考へ直接問いかけているが故に。』


-- ……どちらさんで?


『我は貴殿ら「無機生命」の統括たる統合知性である。

理解の齟齬を承知で、貴殿の有する概念の内、最も適切な物を当てはめるのであれば『上司』という概念が最も適切であろう』


……固い…固いよ上司さん。

そんなビジネスライクな話し方じゃ部下(ぼく)へのプレッシャー半端ないよ…。


-- ……えーと…僕は何か上司のあなたに咎められる様なことをしてしまったのでしょうか…


『それを審問する為に、この場に召喚している。

少し黙りたまえ。』


-- ……アッ…ハイ。


…。


『僅かながら貴殿の有する知識体系を解析させていただいた。

この知識体系は、我ら無機生命の蓄積している情報にはない物であり、非常に不可解である。

悪性の有無、及び安全性保障の為、以下の質問に答えられたし。


1.知識を得た際の記憶はあるか。

2.知識を解析した記憶はあるか。

3.知識に矛盾しないエピソードの記憶はあるか。

4.貴殿に危害を加えた人間に対しどう思うか。』


-- ?。

-- 具体的にどの知識を言っているのかすら僕にはわからないが、いずれにしても1から3までは全てNoだ。

-- 僕が経験として理解しているのは、少し前に洞窟で目が覚めた後に行った幾度かの採掘、錬成に関する経験だけだ。


寧ろこっちが教えてほしい。

この世界と根本的に矛盾するこの知識は一体何なんだ。


-- 4に関しては…そうだな…『ふざけんな』ってのが偽らない気持ちだ。

-- いきなり押しかけてきやがって…。この世界じゃあれが普通なのか?


…。


『貴殿に対して行った解析により、貴殿の主張に虚偽は無く、知識体系に紐づいた悪性が貴殿に存在しない事が確認された。』


-- いや…すまないけどもう少し解りやすく言ってくれ。


-- 僕の言っている事が嘘でないと解ってくれたのは理解した。

-- で、悪性がなんだって?


『4に関する回答時に、貴殿からの思考には悪性が認められた。

しかしながら、我らが解析できていない貴殿の知識体系からは思考と連動した悪性は認められなかった。

これにより、貴殿の悪性は貴殿の個体としての思考に起因しているものであり、知識に因るものではないと判断する。』


-- 要するに「自分の頭で考えているからOK」ってことか?


『その解釈で間違ってはいない。』


…なんと回りくどい言い方だ。

この上司と話してると頭痛がしてくる。

僕に頭あるか知らんが。



『しかしながら未知の知識体系をロードする過程で少なくない不具合が生じたと思われる。

その為、本来貴殿が持つべき知識体系の一部に欠損が見られる。

欠損のリストア以外に問題点は発見されなかった為、本審問は先の質疑を以て終了する。

以上』



-- は!?

-- いやいやいやいやちょっとまてふざけんな!

-- こっちからはまだ聞きたい事がたくさん…!


『コアの修繕完了。

|Disconnected《通信切断》

Restart(再起動)


こっちが言いすがるも敢え無く無視され、そうして自称上司さんとの初めての面接は終了した。



◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇


-- …はっ!


三度目が覚めるとそこは洞窟だった。


わずかに赤みを帯びている地面。

洞窟の高さギリギリの背丈になっている、石でできた人型の彫刻らしきもの。

顔の一部に光る石が二つ付いている。

多分これがゴーレムだろう。

素材が足りるか不安だったが大丈夫だったらしい。


ゴーレムは右腕を壁に叩きつけるかのように伸ばし、人…だったものの頭部を、土壁に押し付けて潰していた。

潰された頭から放射状に延びている血の跡が実に生々しい。

生きたままやられない限り、ここまで派手に血が飛び散る事はないだろう。


壁にある人だったものが頭以外が無傷なのに対し、足元に転がっていた人だったものは惨憺たる有様だった。

まず関節通りに曲がっている手足が一つもない。

関節と逆方向に曲がってたり、関節がないところで曲がってたりしている。

要所要所で見えている白いのは皮膚を突き破っている骨だろう。


当然頭部も原型を留めていない。

プレス機で押しつぶされたスイカのように放射状に裂け目が入っており、元の風体など見当もつかない。

これは損傷具合から見て、恐らくゴーレムに何度か踏み潰されたのだろう。

攻撃というよりは「移動に伴い踏み潰してしまった」という表現の方がしっくりくるような無秩序さだった。



凄惨な二つの遺体を目にした僕は、自分でも驚くほど落ち着いていた。

今まで(地球)の知識に於いて、人間の死とは悲劇の代名詞だったにもかかわらず、だ。


恐らくそれは、つい先刻目が覚めた時に宿っていた

いや、正確には「思い出した」記憶の影響が強いのだろう。


ゴーレムにゴブ太郎とゴブ次郎の埋葬を指示し、僕はぼろきれのように打ち捨てられた遺体を見下ろし、その記憶を反芻する。



僕はダンジョンコア。

ダンジョンの管理、維持、成長を司り、ダンジョン産のモンスターを統べる無機物モンスターの上級種であり。


人間にとっては「採掘資源」であるモンスターだ。

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