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スキル『錬成』

錬成と声に出して唱えた瞬間、錬成ウインドウに表示されていたスラッシュの右側の数字がきっかり5kgマイナスされ、目の前に複雑な図形が浮かび上がり、そこから何か生物が落ちてきた。


落下時の姿勢が悪かったらしく、足元からくぐもったカエルの鳴き声に近い音が聞こえてきたが、恐らくはこれがゴブリンなのだろう。


僕の知識にあるそれの姿と大きな違いはない。

体表は緑、耳は尖って長く、二手二足で体格は小さく、頭髪は無い、目はつり上がり、口は裂け、歯は漏れなく乱杭歯で、如何にも悪そうである。

予想を裏切らない実にステレオタイプなゴブリンだ。


彼の生き物は僕と目が合うや否や姿勢を正し、気をつけの体勢で僕を凝視している。



-- えーと…。僕の声、聞こえてる?


「ギャッ!」


頷いた。



-- ……僕の言ってる事、わかる?


「ギャッ!」


頷いた。



-- 右手上げて。


「ギャッ!」


右手上げた



-- 左手上げて。


「ギャッ!」


左手上げた



-- 3+5は?


「ギャッギャッギャッギャッギャッギャッギャッギャッ!」


八回鳴いた



…。


うん。

まぁ意思疎通は出来るから、いっか!



-- よし、よく聞けゴブリン君。

-- 君には重要な任務をお願いしたい。


「ギャッ!」


-- ここの土からゴブリンが錬成できるのは解った。

-- で、他にも錬成素材になる物があるかもしれないので、洞窟の外から色んな材料を集めてきてほしい。


「ギャッ!」


-- とりあえずは木と石だな。

-- それらを洞窟の外から集めてきてほしい。


「ギャッ!」


-- よし!じゃあ頼んだぞ、ゴブリン君!


「ラギャー!」


そう鳴くとゴブリンは何の苦も無く洞窟の外へ駆け出していった。

なんとなく予想はしていたが、例の見えない壁は僕にしか働かないらしい。


要はゴブリンは土くれで何体でも作れるのだから、洞窟外の採取や調査はゴブリンにやらせろという事なのだろう。

どこの誰の差し金で何が目的なのか未だ計り知れないが、実にご丁寧な事である。ぺっ。


ともあれゴブリンが一体こっきりじゃ心もとない。

幸い洞窟を掘進する事は問題なく出来そうだし、崩落しないよう気を付けて頭数を増やそう。


◇--◇--◇--◇--◇--◇--◇--◇--◇--◇--◇--


錬成

■ 土: 5kg/32.2kg → ゴブリン

■ 木: 1kg/4kg → 木板

■ 木: 1kg/4kg → こん棒

■ 木: 1kg/4kg → 木のころ

■ 木: 1kg/4kg → 薪

■ 木: 2kg/4kg → 木槌

■ 木: 2kg/4kg → 木剣

□ 木: 5kg/4kg → トレント

□ 木: 5kg/4kg → 建築木材

□ 木:10kg/4kg → 木製格納庫

□ 石: 2kg/1kg → 石板

□ 石: 2kg/1kg → 石のころ

□ 石: 6kg/1kg → かまど

□ 石:20kg/1kg → 製錬炉

□ 石:20kg/1kg → 石製格納庫

□ 石:60kg/1kg → ゴーレム


一次合成

□ 木剣 + 石板 → 石剣

□ 木のころ + 木板 → 木のコンベア

□ トレント + 木板 → ウッドアーム

□ 石のころ + 石板 → 石のコンベア

□ ゴーレム + 石板 → ストーンアーム


土30kg弱、木4kg、石1kg集めた辺りで、練成ウインドウの文字はこのようになっていた。


どうやら今の僕には10kg以上の素材を持つことが出来ないらしく、集める過程で木材格納庫なる設備を錬成する必要があった。

木材に事欠かない立地条件でありながら、木材の所有量が4kg程度なのはその為である。


木材格納庫の見た目はシンプルで、横に大きいクーラーボックスのような箱だ。

幅が広くなった棺と言ってもいいかもしれない。


どうも錬成を行う際には、僕自身が素材を持っているか、こういった格納庫に素材を用意しなければならないらしい。


視界にある錬成ウィンドウの存在といい持てる素材の制約といい、作為をバリバリに感じるギミックではあるが、それを今考えても仕様が無い。

何らかの悪意に端を発するものでない事を祈るのみである。


閑話休題


パッと見気になるのは木を入手した際に新しく出てきた「一次合成」というカテゴリにある名前だ。

いかにも工業機械然とした品物の名前が並んでいる。

コンベアにしてもロボットアームにしても、地球近代ではFAファクトリー・オートメーションを猛烈に後押しした偉大な発明だったはずだ。


何れはこれも大きな意味を持ってくるのだろうが、目下僕の目を引いたのはそこではない。



□ 石:20kg/1kg → 製錬炉



製錬炉。つまり鉱石から金属を製錬するための炉だ。

これが石20kg程度で錬成できるという事は、鉱石も石材の入手と同程度の難易度で可能であり、つまりは今の環境から然程かけ離れずとも冶金に手が出せるという事に…。


おぉぅ…。

これは中々に胸が弾む話だ。


しかし20kgというのは少しつらいように思える。

石材にも《採掘》の呪文は有効なのだが、どうにも崩れるまでかかる時間が土より長いのだ。

僕一人では20kgもの量を集めるのに些か時間が掛かりすぎるだろう。ならば…


-- ゴブ次郎は引き続き木材の収集をお願いする。採取量に関わらず、1時間に一度は必ず帰還する事。採取量が5kgを超えても一度帰還して木材を格納庫に入れる事。

-- ゴブ太郎には木槌を渡すから、僕と一緒に洞窟内から石材を採掘だ。


「「ラギャー!」」


ゴブ太郎は最初に作ったゴブリンで、ゴブ次郎はその次に作ったゴブリンの名前である。

出来れば山の様に用意したかったゴブリン勢ではあるが、そうも出来ない理由がある。


如何せん彼らはあまりに融通が利かないのである。


一番最初にゴブ太郎を屋外へ行かせたときなどは、帰還時刻も限界採取量も指示していなかったので、いくら待っても洞窟に戻ってこず、やむを得ずゴブ次郎を錬成して連れ戻してもらったのだ。


そんな感じにしか動いてくれないゴブリンを大量錬成し、屋外に送り出すというのは流石に怖いし、僕自身持てあますのが目に見えている。


まずはこの二体で使い方に慣れ、その上で徐々に数を増やすべきだろう。


命令に忠実すぎるが故に注意こそ必要だが、ゴブリンが労働力として有用なのは明らかなのだから。

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