隊長の予感
ザイゼル魔王軍総司令官に呼び出されたとき何か面倒なことが起こる予感がした
「第3魔王軍の隊長 黒豹殿。呼び出してすまないね」
「いえ。私に出来ることなら何なりと」
案の定あの方から告げられたのは、訓練指導者の変更と言う面倒ごとだった。そして与えられた情報は、総司令官様の知っている方で腕も称賛されるほどの力が有るってことだけだった
俺は、自分の隊に戻ると指導者の変更を皆に告げた
「それなら、隊長が誰か当てるゲームをやろうぜ」
「そうだな!皆無表情で反応を一切せずにいたらどう反応するんだろうな!!」
何事にも面白い方へ持っていく彼らの言い分に皆が賛同した
ころころ指導者が変わることに誰一人良しとしていないし、実力不足の指導者だと意味がない。それを見極めるためのゲームのはずだった
俺達が午前中に適当に手合わせなど、昼に向けてウォーミングアップをしていたら一人の隊員が
「今、こちらに来るそうです!!」
彼が告げた瞬間門の外に僅かな人の気配がした
俺らは頷き決めていた場所に整列して指導者が来るのを待った
俺が初めに見たのは銀色の髪だった。瞳は青色で魔力も少ない………本当にこんなやつが指導者なのか?服装はどう見ても運動出来るような物ではなく真っ赤なドレス姿の女性だった
迷子か?どう見ても成熟してないよな?ていうとこは15歳以下で、外出できる年齢5歳以上か?それにこいつの種族はなんだ?どれだけあいつの回りにある魔力を視ても全く色に変動がない………いや!魔力じたい外に出ていないのか!?
「初めまして、本日 第3魔王軍の指導を行うリゼル。リゼルレディシオ・ギネカ・マルキシオスですわ」
彼女の自己紹介に俺も例外ではなく驚きを隠せ無かった。そして、ドレスが魔王軍の服装に変化している事に他の者達は再度驚いていたが俺は、それどころでは無かった
マルキシオスだと!?武を重んじるマルキシオス家で総司令官様の一人娘だと!!だか、それなら瞳の色や髪・魔力の量が違うはずだ。一体どう言うことだ?
「こちらの隊長は何方ですか?」
「………」
彼女の問いかけにはゲーム通り何も反応を示さなかった………いや、俺はパニックに陥って話さえ聞こえていなかった
「…………」
「…………」
一体何がどうなってる!?養子でも迎えたと言うのか?何のために?
俺は前からくる魔力圧に卒倒しかけたが隊長としての意地でどうにか持ちこたえた。周りの奴等は青ざめていたり、酷いやつなら意識が飛んでいるやつもいた
「ねぇ、君がこの隊の隊長ですわね」
耳元で聞こえた有無を言わせない声に俺は金縛りにあった気分だった
「皆に教えなさい。時と場合によって仲間を守るためにする行動は、相手を考えなさい。ってね」
諭す様な声色に正気に戻った俺は、魔法剣で彼女に斬りかかった。確かに手に斬った感触と血が噴き出すのを見たはずだった
「さて、今ので大体の事は分かったわ。皆さんには、今から後ろの山中枢まで行ってもらいます。協力し合ってもよし、個人行動をしてもよし。ただし、夕刻の鐘が鳴るまでに中枢に来れなければ………」
彼女は無傷のままで、地面にも何処にも血がとんだ形跡すら残っていなかった
彼女は、ニコリと天使のように微笑むと
「明日から別の特別訓練となりますわ」
と悪魔のような笑みを浮かべて言い放った
俺たちは、ふざけるなよ!!と叫んでいたが何事も無かったかのように
「さぁ、丁度昼の鐘が鳴ったわ。早く行かないと間に合わないかもね」
俺は、本日2度目の予感。特別訓練は避けるべき。に従い選抜組で魔物を減らし残りの20名が副隊長と共に中枢まで目指す様指示を出した
「あっそうだ!もし、途中でリタイアする場合は魔法を打ち上げてくれれば迎えに行きますわ」
後ろから聞こえる彼女からの言葉は、更にこいつらのプライドを傷つけた
俺は出来る限り来る魔物を遠距離で射止め他の隊員にかかる負荷を減らしながら山を進む
時々後ろから悲鳴が聞こえ振り向くが副隊長が進むように合図を出す。その時に一人の隊員が初級レベルの魔物の群れにより重傷を負い、出血量や魔力量の減りすぎにより他者からの回復を拒み自分の回復も間に合わず死ぬのが目に見えている隊員から目を背け進もうとしたその時
その隊員の傷がすべて塞ぎ体じたいには異常は無さそうだった
何が起きた?
俺はふと空を見上げると漆黒の羽を広げ空を自由自在に飛び、直立に空の上を立っている人物に目がいった
………あれは!!彼女なのか!? 彼女は鳥の種族?いや鳥なら治癒系の魔法は使えないはず
俺は答えの出ない問いを繰り返すことを一旦やめ全員で中枢に辿り着ける方法を考えた
彼女はあれからも隊員が死にかければ治癒し即死しそうな場合は彼らに気づかれない様に補佐をしたり、あくまでも俺達誰一人欠けないようにしてくれていた
俺達が中枢についた頃、彼女は足を組 何処からか持ち出してきたのか一人優雅にティータイムをしていた
彼女は俺たちにたった今気づいたように懐中時計を見て
「意外と速かったわね。それに誰一人欠けずによく登って来れたわね」
彼女は出していた物全て片付けると俺の肩を叩き小声で
「これを使って戻ってらっしゃい」
と言って人数分の移動魔法が組み込まれた魔石を俺に渡しさっさと彼女は移動した
彼女の言う通りに皆で魔石を使って戻ってくると当番制で食事を作ってるため食事は遅くなるなと覚悟していたが、共通リビングのテーブルには疲れにきく食事と飲み物が置かれており手紙には
『ゆっくりの休みなさい』
と書かれていた
俺は彼女の不器用さに苦笑いを浮かべた