実技は廃墟の市街地へ
ベルが鳴るなかリゼルは空を見上げていた
「これから5人一組で陣取りを行う」
実技の男性教師が今日の授業内容と目的を話すなか最後列にいるリゼルは配られた地図を見ながら地形と策略を即座に練っていた
五人一組と言うことは一組は3人班になると言うことなのだから城を建て守る人が1人で残りは攻撃に回すのが一番よね。この場合、私が城を建て籠城しながら残り二人を援護した方が確率的に安全かしら?
「と言うことだ。好きにグループを組めば良いがアスターとリゼルは、バラバラで組むか3人班で行動しろ」
解散とばかりに男性教師が椅子に座りサングラスをつけ雑誌を読み始めた
………相変わらずやる気の無い人ね
リゼルは男性教師に冷めた視線を送りつつ、現実逃避をしていた。主に先日の授業で彼が言った言葉のせいで、今まで見向きもせず嫌味のオンパレードだった者たちが手のひらを返し言い寄り始めた
あぁ~だからここに通いたくなかったのよ
囲まれているのはあの授業で名前をあげられた五人(本人はいつものごとく)だ。突然のことであたふたする3人を横目に見ながら念話で彼に話しかけた
『この始末は貴方がどうにかなさってくださいな』
『お前も手伝えよ!』
『嫌ですわ。例え普段は魔王様の臣下であっても今は同じクラスメイト。ですので命令は一切聞きませんわ』
リゼルは一方的念話を切ると
「皆様のお誘いはとても嬉しいことですが、私のパートナーはアスター様なので私の一存では………」
と彼の方に視線を向けるとリゼルに集まっていた人集りはアスターの方へ行った
彼から『覚えてろ!』と言う視線が来たが何食わぬ顔で微笑み誰の目にも触れない死角に入り込むなり
彼女は上空を旋回している烏に向けて手を伸ばすと、その烏はリゼルの腕に降り立ち
「リゼル様。あなた様が仰有った通りでした」
「そう。ありがとうございますアトモスフィール様」
「ですから僕のことはフィールとお呼びくださいと何度も申し上げたはずです」
「あら、ごめんなさい。つい癖が出てしまったわ」
「………それで、あの方はまだお遊びを続けるつもりで?」
リゼルは視線を軽く落としながら
「えぇ、卒業まで続けそうよ」
「困ったものです。重臣達が騒ぎ始めていると言うのに暢気なものです」
「そうね。これ以上私達ではどうしようも出来ないわね…………せめて夏期休暇まで、いいえ人間達との交流会が無事終わるまで持つといいのですが」
「……もう少し我々の方でも手を打ってみます」
「ありがとうフィール」
『おい、リゼル戻ってこい!!』
彼からの念話にリゼルはフィールに腕を上げ
『………』
「では、失礼します」
飛び去るフィールを見ながら彼のもとへ戻った
今回のフィールドは市街地だった。誰もいない廃墟の中にリゼルとアスター……そしてディナンの3人がいた
「さて、リゼル。何故こうなった?」
彼女は頭を押さえ
「はぁー。だから貴方と行動するのは嫌なのですわ」
「……た、助かるんですか??」
ディナンはその場でしゃがみこみ不安そうにアスターではなくリゼルに問いかけた。その問いにリゼルは周囲を把握するなり
「少し厳しいわね」
珍しく彼女は困惑していた
「俺の記憶にも無いが、お前はここがどこか分かるか?」
アスターも困惑しているため魔王としての本来の口調と色彩を戻していた
リゼルは考えるそぶりをしながら
「おそらく人間界と魔界の間で、2000億年前に四天王達が争った場所かと」
「四天王………。何故そう思うっのだ?」
「理由は3つありますわ。1つ目は漂う魔力が乱れすぎていること。2つ目は周囲にいる魔物が古代文献に残されていた資料と合致する事。………最後に私たちや魔物以外の生命が感じられないことですわ」
「ふむ。では、お主の魔法でも帰れぬのか?」
「えぇ。はっきり言いますと私の魔法では、大気中に漂う残留魔素により阻害されますわ。もし成功したとしても良くて他国に……」
「悪ければ命すら危ういと?」
「ええ。そうです」
彼女は神妙にうなずいた
「あ、あの。な、な、何か来ます!?」
声を上げたディナンにリゼルは敵策魔法を広げると遠くから魔物の群れが向かってきていた
「絶望的ね」