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収束

「他の聖騎士団の方たちは?」


「今は王国の演習所にてアルハザード様が新たに作られた騎士団の指導にあたっています」


「リアさんはどうしてここに……?」


 リアはシオンの質問には答えず、遠い目で空を見つめた。


 色々あるのだろうと察し、シオンはメイド服の件も合わせて追及するのをやめる。


「さあこちらへ、アルハザード様がお待ちです」


 庭門を通され、そのまま屋敷内へと案内される。


 そして、玄関ホールに着いて、シオンは目を疑った。つい先日、没落貴族となったばかりの男が、何食わぬ顔で執事服に身を纏い、玄関ホールの清掃をしていたからだ。


「な……なんでここに?」


 声を震わせながらシオンはダグラスへと問いかける。ダグラスはシオンに気付くや否や、清掃の手を止めて丁重に頭を下げる。


「ようこそいらっしゃいましたシオン様」


「え……気持ち悪い」


「お召し物をお預かり致します。すぐにアルハザード様をお呼び致しますので、そちらの椅子に腰を掛けてお待ちください」


「……気持ち悪い!」


 息を荒くしながら上着を要求するダグラスに身の危険を感じ、シオンはあとずさりながらリアに視線で助けを求めた。


「ダグラス殿、あまり度がすぎるとアルハザード様に怒られてしまいますよ?」


「そんな服装で凄まれても怖くないんだが、閃光の姫君様?」


 ダグラスに嘲笑を受けてリアは顔を赤くする。


「シオンもそんなに嫌がることねえだろう? 俺たち学友じゃねえか?」


「友達になった覚えはないけど、仮に学友だったとしても、いきなりそんな風に迫られたら誰だって気持ち悪いって思うよ。息も荒いし」


 そんな顔を赤くするリアを盾に、シオンはダグラスから距離を取った。


「どうしてここにいるのさ……王国の地下牢に今回の件の責任をとらされて幽閉されてるんじゃなかったの?」


「誰が言ったんだそんなこと?」


「この一週間学院にも来てなかったし……噂になってるよ」


「今回の件の責任は親父がとった……まあ、無関係ってわけにもいかねえから、こうやって罰も受けている」


「罰って……アルハザード家に仕えることが?」


「ああ、アルデロン・アルハザードが俺に下した罰がそれだ」


 今の自分の立場を主張するように、ダグラスは礼儀正しくおじぎをしてみせる。しかし罰を受けているという割には嫌そうではなく、シオンにはむしろ乗り気でやっているように見えた。


「アル先生に……恨みとかないの? お前にとってはハルバード家をめちゃくちゃにした本人だろ?」


「そりゃあるさ、ない方がおかしい」


「ならどうして……君の父親だってあんな姿にされたのに」


「あれは自業自得だ。むしろ好都合だったぜ……あんな馬鹿を放置していたら、もっと悲惨なことになっていただろうからな」


「自分の父親に対して……そんな言い方」


「父親だからといって、必ずしも尊敬に値する大切な存在とは限らねえ。その口ぶりだと、お前の両親はご立派なんだろうがな?」


 心底どうでもよく思っているのか、あっけらかんとした態度でダグラスは答えた。


 ダグラスの父親、キールは現在、今回の騒動の責任を取らされて王国の地下牢へと幽閉されている。とはいえ、肉体の時を止められては裁くこともできないため、ただ形式としてそこにいるだけ。


「そもそもこっちが仕掛けたんだ。遺恨は残っても、こうなるのは仕方のないことだ……俺は負けたんだからな」


 そうなるのが当然と、ダグラスはハッキリとそう告げた。


 あまりにもサッパリしすぎた態度に、シオンも呆気にとられてしまう。


「潔いだろ? キールさんところで育った坊ちゃんとは思えないくらいに」


 その時、ソフトハットを被った銀髪の男が玄関ホールを覗くように二階から姿を見せる。


 そのまま二階から飛び降りると、シオンの目の前へと着地した。


「ようこそ我が友よ。急に呼び出してすまないな」


「アル先生……どうしてダグラスがここに?」


「帰る家もないだろうから執事として雇ったんだ。遊郭で使われている一室を自由に使っていいというおまけつきでな」


「どうしてそんなことを? ありえないですよ……自分に牙を向けてきた相手なのに」


「ハルバード家は既に没落し、キースさんという大黒柱を失っている。充分痛みは味わっている。ダグラス少年にこれ以上何かするつもりはないし、この間のことを今後引き合いに出すつもりもない」


「だからって……雇わなくても」


「ダグラス少年は俺の生徒だ、生徒が困っていたら協力してあげるのが教官ってものさ。勿論……次、俺を殺そうと思うなら誰にも迷惑かけない形式でやるように説教はしたがね」


 そう言いながらアルが視線を向けると、ダグラスは「反省してますよ」と薄ら笑いを浮かべる。


「おいおい落ち着けシオン。変に距離を置いて、また同じようなことをされるよりも、近くに置いて常に殺されそうになった方がマシだろ?」


 それでマシと考えられるのはアルだけだったが、言ったところで何も変わらないのだろうと諦めてシオンは「ソウデスネ」とだけ返す。


「それにダグラス少年には今後、色々と協力してもらいたいこともあるんでね、ダグラス少年は俺の見立てでは優秀な人材のはずだ……恐らくだけど」


 期待を裏切るな、そんな意味の込められた視線に念を押され、ダグラスも「わかってますよ」と少したじろいだ。


 戦いを挑み、戦いに敗北したダグラスが、アルの家で働き始めたのには理由があった。


 無論、プライドの高いダグラス自身、負けた相手の下で働くなど、心の底からの屈伏を意味するような真似はしたくはなかった。たとえこの相手には絶対に勝てないと、二度と関わらないと心に誓うほど敗北を感じていたとしても、それだけはするつもりはなかった。


 だがアルは、そんなダグラスの下へとわざわざ赴き、一つ提案を出した。


「殺そうだなんて物騒なことしませんよ。今となっちゃ感謝しかない。元々、俺も親父の作ったあの街の環境は好きじゃなかったんで。一掃してくれて逆に助かりましたよ」


「お前……よくそんなこと言えるよな」


 はたから聞けば、領民を巻き込んで仕掛けた喧嘩に負けて、喜んでいるようにしか見えず、シオンは顔を引きつらせる。


 アルが提案したのは、今後のハルバード家の領地についてだった。


 内容は単純で、新しく作り直すハルバード領地をいずれダグラスへと返還するという約束。


 アルがハルバード家の領地を欲したのは、今後、世界を救うための活動に本腰を入れるために人材と土地が必要だったからだ。しかし、世界を救ったあとはアルにとって領地なんてどうでもよくなる。自分と、自分の大切な存在の居場所さえ確保されるのであれば。


 故に、アルはダグラスを引き込み、いずれ不必要になる土地の管理を譲り渡す約束をしたのだ。


 無論、その対象にダグラスを選んだのも、今後のあとくされを無くす意味でも、ダグラスが元々時期当主として教育を施された適任者であるというのも含めている。


 適当な人材を選んで、全てが終わったあとに厄介事を起こされても面倒だからだ。

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