創造神に呪われし者
「創造神は俺を間違えて生み出した。でも、俺を殺そうとはしなかった……逆に、死ねない身体にしてな。それが……俺という存在に課せられた罰だ」
それは、アルの肉体がまだ12歳の頃。アルはかつて、創造神と対面したことがあった。
見た目は他の神々とさほど変わらない。だがそれは、恐怖心すら覚えるオーラを放っており、アルにはそれが他の神々とは違う、明らかに性質の異なる神であることに気付いた。
何よりも、他の神々と違ったのは『無関心』であることだ。
世界が滅びようと、世界が救われようと、誰かが苦しもうと、誰かが幸せになろうと、手を加えようとは決してしない。そうなるのが当然であると、己が作った運命のままに放置する。
そう、何もしない。それこそが創造神にとっての『平等』だった。そして、自然のままに訪れる未来を『運命』と呼び、それは一つの生命が単体で変えられるものではない。
「運命を変えてしまうこと……それが俺の罪」
しかしアルは、たった一人で運命を変えることができてしまった。
神すら含めた自然の成り行きを捻じ曲げる力を持っていた。
だからこそ、無関心であるはずの創造神はアルの前へと現れた。
「創造神は、俺を殺すことができなかった」
最初は、アルを殺そうと創造神は試みた。だが、死ななかった。創造神ですら、『法則無視』を持つアルを仕留めきれなかったのだ。創造を試みても、全てが無視されるが故に。
だから、創造神は考えを変えた。
「だから俺に死ではなく、生による罰を与えた。俺が法則を無視して死のうとしても、その度に新たな法則が作られるため俺は死ねない。この法則は、どうあがいても無視できない」
肉体の年齢は成長を終えると共に止まり、劣化することなくアルを生かし続けた。
死ねない。それは、アルの精神に絶大な効果をもたらすことになる。
アルもそれまでは、何も考えず、言われるがまま、世界を救ってきた。
だが、考えるようになる。その世界は救うに値する価値のある世界なのか? と。
長い時の果てに、同じことを繰り返すだけなのではないか? と。
ここで手を加えることも、何もしないことも、同じなのではないか? と。
世界という存在を相手に、取捨選択をするようになったのだ。
何よりも、自分が長い時間を得て過ごすことになる世界を、変えてよいのかと。
「きっと、そうすることで創造神は俺を平等な存在に数えるようにしたんだろうな」
そして疑問に思い始める、神々の存在を。
自分の都合の良い形に作り変えようとしている神々は、その世界に住む生命と何ら変わらないのではないかと思うようになっていった。
そう、終われない生を与えられたことで、少しずつ、少しずつだったが、アルの精神は創造神と同じ高みへと昇り始めていたのだ。
何も感じず、全てがただなるようにしかならないのだと、手を下すべきではないのだと思えてしまう精神の高み、『無関心』へと。
「俺は嫌だった。俺が、俺という存在が少しずつ崩壊していくのがわかったから」
アルは求め続けた。自分にはなかった新しい感覚を。楽しい、面白いという感覚を。
一喜一憂してきたあの頃の自分を。
悪を憎み、正義を愛していた自分を。
揺さぶられる感情を、翻弄されるがままぶちまけていた激情を。
「でも逃れられなかった」
待っていたのは、「やっぱり」という変わることのない日常。
どの世界に行っても、何ら変わらない人々の醜い心にがっかりとする自分、いくら変えても無駄なのだと残念に思えてしまう自分。
それなら初めから関わらないか、潰してしまった方が早いと思える自分。
心が薄れていく自分。
「昔の俺なら、迷わず怒り狂ってあんたたちを殺していただろうさ……でも、今はこんなことをされてもガッカリして、残念に思うだけで、自分の死を優先する自分がここにいる」
そんなアルも、少しだけ心が躍った。
スペシャルを封じられれば、アルもただの人になる。
ならば、不死の呪いから逃れられるのではないかと。
しかしやはり死ねなかった。アルの法則無視が無くなったところで、それまでの記録が無くなるわけではないから。
わかっていた。わかっていたが故に、アルも「やっぱりか」というつまらない感想しか浮かばなかった。
「でも、今回は少しだけ嬉しいことがあった……中にはやっぱりいるもんだ。それも、俺の身近にいるんだからこんなに嬉しいことはない」
アルは、シオンに視線を向けて笑みを浮かべる。
普通とは異なる、稀なる心を持った少年との出会いに、アルは久しぶりに心が躍った。
久しぶりに、「捨てたもんじゃない」と思えたから。
「ちょっとだけ、君のために心の底から頑張ってあげようと思えたよ。そう思えたことが……何よりも俺は嬉しい。そこの女神様にガッカリはさせられたけどね」
直後、アルの全身から禍々しい力が漏れ出す。それは、マナでもなく、魔力でもなく、神の力でもなかった。どんな力にも当てはまらない力の渦を纏わせて、アルは少しずつ宙へと浮いた。
「さて…………法則無視を封じれば俺に勝てると勘違いしたお前たちへの答え合わせだ」
突如、アルの力の渦に感化を受けてか、闇夜に薄い紫色の光の放つ暗雲が垂れ込める。
「ぁ…………ぁあ」
その瞬間、アルに挑もうとした全ての者が後悔した。触れるべきではなかったと。
「俺が……法則無視なんてどう使いこなせばいいかもわからない力を、最初から扱えていたと思うか? 最初は、何をどう無視すればいいかもわからなかった俺が……どうやって異世界を救ってきたと思う?」
暗雲を切り裂いて現れた想像を絶する物体を前に、そう思うしかなかったからだ。
「最初は、何もできなかった。だから強くなるしかなかった……必死に元の世界に帰るためにその世界における力を学ぶしかなかった」
暗雲から顔を見せたのは、この国を、この世界を、一瞬で消し飛ばせるほどに巨大な隕石。
「そうやって、俺はあらゆる世界の、その世界特有の力を学ぶことで生き抜いてきた……法則無視を使いこなせるようになったのなんて、かなり後のことさ」
それが、一つだけではなく、二つ、三つと、次々に暗雲を切り裂いて顔を出す。
「さて、俺がどれだけの時間、異世界で戦い続けたかだが……答えは―—――」
誰もがその瞬間、世界の終わりを想像した。
「3789年間だ」
ただ一人、ラムエだけが「それ俺の技」と口惜しそうに空を眺めるのみ。
「法則無視なんてなくとも、お前たちがどうあがいたところで俺には勝てない」
気付けば、空は迫る隕石で覆い尽くされていた。あまりにも突然すぎる世界の終りの瞬間に、その場に居た者たちだけではなく、王国中、世界中のありとあらゆる生命が絶望で心を染める。
「3789年間の重みを覆せるだけの力が……お前たちにはない」
その力を前に、絶大な力を誇るニルファさえも表情を歪め、身内であるルミナもアルのここまでの力を目にするのは初めてのことだったのか、驚愕のあまりに腰を抜かす。
「さぁ…………選択の時だ」
ただ一人、宙に浮くアルだけが狂気じみた笑みを浮かべていた。
次回更新は2/14予定です




