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最強すぎるが故に

「ひ、怯むなあぁぁぁあ! スペシャル封じは効いている! ダメージは通っているはずなんだ! やれ、やるんだ! やらなきゃ……殺られるぞ⁉」


 死を予感した時、ダグラスは叫んでいた。


 それは、恐怖をも凌駕する、生存本能が放たせた魂の叫びだった。その声を聞き届けた騎士団たちも、生存本能にただ従い、再び雨のような攻撃の連打をアルへと浴びせる。


 しかし、アルは死ななかった。


「う、う、うわぁぁぁぁぁああああ!」


 アルを目の前にしたファティマも、初めて経験する死の恐怖を前に、無我夢中で神の力をアルへとぶつけ続けた。アルは、ラムエとの戦いの時とは違い、それを一切回避することなく受け続ける。


 確かに一度は肉体が傷つき、血が噴き出すが―————気付いた時には元通りになっている。


 わけがわからず、生存本能に従って再度攻撃を始めていた者たちは絶句し、遂に無駄と悟ったのか攻撃の手を止めてしまう。


 ファティマでさえも、どうしようもないと悟ったのか、眼を見開いて震えあがった。


「どうして……どうして⁉ スペシャル封じが……効いていないのですか⁉」


 表情一つ変えずに見つめ続けるアルに、ファティマが叫び散らす。


「効いているさ……効果はないがな」


「どういう……ことなのです」


「スペシャルとはマナを消費して発現する特殊な力。それを封じる力なのであれば、そもそものスペシャル発現の法則を少しだけ無視すればいい。おとなしく効いたままでも良かったんだが……そうなると、俺の大切な友人であるシオンが大変なことになるのでね」


 そこで、ファティマは間抜けな自分に気付く。


 すぐには力を吸い尽くされないだろうと踏んでいたのと、アルに意識を向けすぎてすっかり忘れていたが、いつまで経ってもシオンが苦しそうな顔を見せていないことに。


 法則無視が封じられたのであれば、ニルファと主従契約を結んでいるシオンはマナドレインによって、マナを吸い尽くされて死に至るはずなのだ。


「馬鹿な……結果的に心変わりしたとはいえ、シオンとニルファはあなたの命を狙おうとしていたのですよ! どうして守ろうと……⁉」


「俺はシオンを信じた。そしてシオンは俺の期待に応えた。それだけだ」


 それは、神である自分がしなければならなかったことだった。


「おかしいだなんて言うなよ? 俺は……あんたも信じていたんだ」


 それを、殺そうとした相手がしていた。


 その事実に、ファティマは「そん…な」と、顔を俯かせる。


 同時に、ダグラスとハルバード家率いる騎士団たちはそれを聞いて勝利を諦めた。


 この作戦の全ては、アルの【法則無視】を封じられる前提で行われているものだからだ。


「とはいえ、俺が法則を無視していたのはシオンを守ることに対してのみだ。それ以外は……俺は別に法則無視を使ってはいない」


「…………どういう、ことだ?」


 不可解な言葉を吐くアルに、既に勝機を無くして憔悴した顔つきのダグラスが問いかける。


「スペシャル封じを一応は受けている今の状態なら……もしかしたら、と思ったのさ」


「意味が……わからん! あんたの受けた傷が治っていたのは……法則無視の力を使っていたからなんだろう? そうでなければ……説明がつかない!」


 だが、確かに不可解ではあった。法則無視が使えるのであれば、わざわざ攻撃を全て受けなくても、もっと楽に対処する方法はいくらでもあったはずだからだ。


「そもそも、法則無視は創造神が定めた法則を無視する力であって、法則を作り出す力じゃない。時の法則を無視して俺以外の時が流れないようにすることはできても、時を巻き戻すようなことはできない……故に、死んだ人間を生き返らせることも無理だ」


 それを聞いて、ダグラスは恐怖に満ちた顔を浮かべた。


「ならば、どうやって傷を元に戻したのか?」と。


 何故かはわからなかったが、それが【法則無視】とも違う、得体の知れない別種の力である予感がした。


 聞くのが怖い、でも知りたいという欲を抑えきれずダグラスは「どういう…………こと……だ?」と声を震わせながら問いかける。


 すると、アルはどこか皮肉めいた笑みを浮かべた。


「知っているか? 異世界は……この世界と時間の流れが違うことを」


 そしてアルは語り始める。不死身めいた身体の真相を。


 それを語り始めると同時に、ニルファは再び憐れむような目をアルへと向けた。


 同じ境遇を経験した者として。


「この世界での三秒間が、異世界での数年間だったなんてことはざらにある」


「どういう……ことなのです?」


 その事実を知らなかったのか、ファティマが驚愕した表情で問いかける。


「あんたが知らなくても当然さ、神同士は基本的に他の世界に干渉しないし、神同士の交流も時間軸が同一の、異世界と異世界の間の世界……次元の狭間で行われるからな」


「……ご主人、どういう…………ことッスか?」


 驚愕した顔を浮かべていたのはファティマだけではなく、ルミナも同じだった。


「そういえば、お前たちにも言ったことがなかったな」


 ルミナも、ずっと気にはなっていた。アルは、まだ十八歳と自分よりもそう歳は離れていない。なのに、どんな状況でも落ち着いていて、どんな相手に対しても達観した口ぶりで接する。


 その謎が、今、解けた。


 それに対して、ルミナは「どうして教えてくれなかったッスか」と怒りたくなった。でも、叫べなかった。それが、アルの心配をかけまいとする優しい気遣いなのだとすぐにわかったから。


 何故なら、そんな素振りを、これまで一度も見せたことがなかったから。


 一度たりとも、異世界から戻ってきた時に、弱音を吐いたことなんてなかったから。


 ずっと、優しい顔で、異世界からのお土産を持ち運んでくれていたから。


「でもな……俺も、もう疲れたんだ。だから、全てをさらけ出すつもりで、もしかしたらの可能性にかけてみた。あんたたちの行為は許されないことだが……それでも、もしかしたらの可能性を確かめずにはいられなかった」


 残念そうに、アルは呟く。その目論見は、失敗に終わったからだ。


「俺は……これまで数多の世界を救ってきた。数百……いや、千は超えているか? そしてその世界の全ては、この世界よりも時間の進みが圧倒的に早い」


「……ば、馬鹿な」


 アルの言葉が信じられず、ダグラスは恐怖に震えあがった顔のまま固まってしまう。


「さて、ここで問題だ。俺は今……何歳だと思う?」


 目の前にいる人物が、どこからどう見てもまだ成人していない、幼くも大人の雰囲気を纏わせる若者にしか見えないからだ。


「あなたは……まさか」


「そう、俺は……死ねないのさ。老いることも、傷つくことすらもできない。俺の死は、創造神によって封じられている……この法則無視の力を生まれ持ってしまったが故に」


 アルの秘密に気付くと共に、ファティマは思い出す。


 この世界にアルを連れ戻し、アルの屋敷へとロップイを呼び出して向かっている道中、アルがロップイに投げ掛けた不可解な言葉を。




『俺はどれくらいの間、不在にしていた?』




「……やっぱり」


 そして、ニルファは同情するような悲しそうな顔を浮かべた。


 死にたくても死ねない。その辛さを知っているが故に。

次回更新は2/11 予定です

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