密談
「冷たいなぁ~? お爺ちゃん寂しくて死んじゃいそうだなぁ~?」
「かわいそうッスねぇ~」
「じゃあ死んでくださいッス」とは言えず、ルミナはレイモンから視線を逸らしながら注ぐ。
「そろそろいいかい? レイモンさん」
「おお……そうだったな、本題に入ろうか」
「どうだったかな? バイクの乗り心地は?」
「最高だな……馬車を使うよりも圧倒的に早い。燃料さえあれば走り続ける……こいつは化け物だぜ? 流通すれば、他国とのやり取りも、他種族とのやり取りも楽になるだろう」
「それは良かった」
報告を聞いて安心したのか、アルはニッコリと優しい笑みを浮かべる。
「商業区を全て乗っ取る。力を貸してほしい」
直後、硬直してしまうほど鋭い視線でレイモンを見つめた。
「はん……やっぱりアルの旦那は話が早くて好きだ。今回は随分と思い切るんだな」
「俺のこれからの目的に必要なったんでね、とりあえずは商業区からいただこうと思って」
「どうして今更? アルの旦那なら、その気になればこの国……いや、世界を支配することすら簡単にできるだろう?」
「力での支配なんて、つまらないことはしないさ」
それを聞いて、愚問だったとレイモンは鼻で笑う。
「つまりはこのバイクを使って、現在、他国、他種族から流通している品を更に安価で仕入れて販売するってことか?」
「ご明察、こちらこそ話が早くて助かるよ」
バイクを使えば、大量の仕入れも可能になり、また、仕入れに掛かる時間が削減されるため人権費も大きく掛からず、安く販売することができる。
そうなれば現在、他国他種族の品を販売している大通りで買うよりも安くなるため、大通りの存在意義が薄まり、大通りの領地を持て余すことになってしまう。
必然として、成果をあげられない者に領地と権利を与えたままにするわけもなく、王国は大通りを管理しているシュナイダー公爵に領地の譲渡を言い渡すだろう。
いくら爵位が上の者といえ、ユシール王国は実力主義社会。爵位を下げられることはなくても、特定の条件を下に領地の譲渡くらいは言い渡されてしまう。
そして、ユシール王国において、国王の命令は絶対。逆らえば爵位の返上は当然の如く、領地を追いやられ、場合によっては処刑となる。
これまでに、逆らって生き延びた者はアルハザードのみ。
そのアルハザードに対しても、現状子爵の立場が維持されているように、牙を向かずに成果をあげさえすれば、褒美は与えられるのだ。
「しかしまた、なんでこんな面倒なことを?」
「異世界の文明を使われて領地を奪われたんじゃ、嫌でも王国……少なくともシュナイダー公爵は異世界の文明に目を向けざるを得ないだろう? 奪い返しに来たときはそれでもいいのさ、その時は異世界の文明をシュナイダー公爵も使っているはずだからな」
「なるほど……異世界の文明を広げるのが目的か、だとしてもえぐいな。異世界の文明なんて出されたんじゃ、どの区画も勝てっこないだろう? ハルバード伯爵のとこは別だろうけど」
「別にいいじゃないか、俺を殺そうとさんざん仕掛けてきた連中だ……復讐されたからといって文句を言える立場でもないだろう?」
「そりゃそうだ」
自分で言っていてもおかしいと感じたのか、レイモンは噴き出して笑う。
それだけ、アルハザード家は何度も命を狙われ続けてきた。
子爵に爵位を下げられた後も、隙あればと何度も何度も仕掛けられ、その度に地獄を見せてきた結果、誰も手出ししなくなった。
「だが、ちょっと問題がある」
「問題?」
「アルの旦那の頼み事だ。聞いてやりたいのは山々だが……割ける人員がなくてな」
「ほお? またどうして? 何か新しいシノギでも始めたのかな?」
「いや、ハルバード家が管轄する区画のマフィア共が、最近やたらとちょっかい出してきてな、アルの旦那が怖くないのか……それとも、何か手に入れたか」
「例えば?」
「アルの旦那の首元に届く……刃」
探るような視線をレイモンがぶつけると、アルは寒気のする嬉しそうな笑みを浮かべた。
「不思議な話じゃねえだろ? アルの旦那もただの人間で、スペシャルが特別だからそこまで強いんだ。同じような奴が現れても変ではない」
とはいえ、アルのような存在が二人もいては困るのか、レイモンは苦笑する。
「安心していい。俺と同じような人間は絶対に現れない」
「ほお? どうして言い切れるんで?」
「俺は間違って生まれたのさ、創造神は……二度も間違えない」
言葉の意味がわからず、その場にいた全員が首を傾げた。揃って同じ反応を見せたのが面白くて、アルも顔を逸らして笑ってしまう。
「まあとにかくだ……その件に関しては近いうちに方がつく、本格的に動くのはそれからでいい。むしろ好都合さ……元々、最初に何か仕掛けてくるとは思っていたんでね」
「へぇ……なんで?」
「そりゃ、異世界から戻って来る度に因縁をつけられていたからさ……それに加えて今回はハルバード家が多額の出資をしている学院に手を出したんだ。何もしてこないわけがないし、何かしてくれないと困る」
「旦那……最初から狙ってやがったな?」
「奴隷の扱いはシビアだからね、ルートの確保もそうだが、信用がないとどうしようもない。一番乗っ取るのが厄介だから……元々あった敵意を利用するのが一番早いだろう?」
そう言ってニッコリと笑みを浮かべたアルに、レイモンに付き添っていたギャングたちは引きつった顔で身震いした。つまりは相手に仕掛けさせて、全てを奪おうとしているのだ。
そこに一切の躊躇がなく、また、絶対に思い通りになると確信した笑みを浮かべるアルの底が見えず、どんな魔物よりも恐ろしく感じてしまう。
次回更新は本日21時頃予定です




