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アルハザードの余裕

「ちょ、ちょっと待ってください。僕はまだ協力するなんて言ってないですよ!」


 何やら話が纏まりそうになって、シオンが慌てて割って入る。


「さすがに……躊躇います。まだこの世界に何かしたわけじゃないですし、ファティマ先生が命は平等だから殺しては駄目という指示も、ちゃんと聞いてくれていたじゃないですか」


「そういう問題ではないのです。この世界が滅びる危険性があるというのが問題なのです。仮に……あの男が異世界を滅ぼしたことがないのであれば様子見でも良かったですが……」


「口で言っているだけかも知れないじゃないですか」


「私は神ですよ? それくらいの確認は……既に終えています」


 滅びた世界を実際に目にしてきたのか、ファティマの顔が険しくなった。


 それだけで、どれだけ本気で言っているのかが伝わり、シオンは残念そうな顔を浮かべる。


 神とは、世界を守るためになら、こうも無慈悲になれるのかと、悲しくなったからだ。


「ニルファちゃんも、折角手に入れた自由をそんな簡単に手放そうとしちゃ駄目だよ!」


「…………構わない」


「どうして……! ニルファちゃんもアル先生を倒さないとまずいと思ってるってこと?」


「……違う」


 その理由を、どう言葉にしていいかわからないのか、ニルファは困った顔を浮かべた。


「どういうこと? ニルファちゃんは、アル先生が世界を滅ぼすとは思っていないってこと?」


「あの人が……これから先、世界を滅ぼす可能性は…………ある」


 シオンの問いに、ニルファは首を振って否定する。


「あの人はきっと……私と同じ苦しみを抱いている」


「……苦しみ?」


「…………多分、ううん……きっと、強すぎるが故に」


 言葉の意味がわからず、聞いていたファティマとシオンは首を傾げた。


「同じ苦しみなら、救われるのは…………私じゃなくて、あの人の方がいい。ファティマに頼まれたからじゃなく、私はそう思った。だから、協力する」


 既に意志は固いのか、ニルファはシオンの眼を真っすぐに見つめる。


「ぼ……僕は」


「ここまで話を聞いて、協力しません……は無しだぜシオン? もし断るなら、アルハザードの耳に入らないよう、暫くお前を監禁させてもらう。終わったあとに……腰抜け野郎っていう評判も出回るかもな」


「人を殺すんだぞ⁉ いくら相手が相手だからって……!」


「相手は王国が倒せずに禁忌となった男だ。殺したところで王国は何一つ文句は言わないさ」


「なんで僕なのさ……! スペシャルを封印できるなら、僕がいなくてもいいだろう?」


「さっきも言ったが、念には念を入れるためだ。アルハザードも力を貸し与えたお前になら油断するだろうし、ニルファだったか? こいつの力がどうしても欲しい」


「シオン……お願いするのですよ。この世界のためにも」


「…………僕は」


 現実を見れば、アルを殺すことはこの世界にとって正しいことなのだろう。


 だが、それが正義の行いだとは、どうしても思えなかった。スペシャルを封じられるのであれば、滅ぼそうと考えた時に止めればいいのではとも考えたが、相手は強さの概念の外にいる存在。始めてしまえば、止める暇もなく終わる可能性もある。


 だからこそ、『止める』ではなく、『殺す』なのだ。あの力を完全に止めることなど、不可能に等しいから。


 そう思ったとき、シオンは何故かアルの言葉を思い出した。


「……それぞれの、正義がある……か」


 そして、シオンは恐る恐る頷いて、協力の意を示した。


 もしも、全てを理解したうえであの言葉を吐いたのであればと、アルを信じて。


――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――


「ご主人~? 何をニヤニヤしているッスか?」


「いや、女神様が良い表情をしていたんでね。少し楽しみができたと嬉しくなってな」


「お~、ご主人も隅に置けないッスねぇ~」


 学院での授業工程が終わり、面倒なレポートや書類まとめなどをマルモに押し付けて、アルは日が暮れ始めた通学路を通って自宅へと帰ってきていた。


 久しぶりに気分がいいのか、年代物のワインボトルを開け、個室のソファーで腰をかけながら、鼻歌混じりに窓から見える外の景色を眺めていた。


 外は遊郭街の明かりで全体的にピンク色の雰囲気に染まっており、決して良い風景ではない。


「ご主人……それはズバリ、エッッッッチ! なことでござるな?」


「急に現れて変なことを言うのはやめろ。あと、ちゃんとドアから入ってこい」


 その時、聞き耳を立てていたのか、天井からヨシーダがゲートを通ってヌッと現れる。


 この屋敷にはアルを除いて基本的にはヨシーダとルミナしかいないため、二人は仕事をしている時以外はとにかく暇だった。故に、昔からアルから異世界での体験を含めて話を聞こうと、何かとアルの部屋へと勝手に侵入する癖がついている。


 なお、現在。ラムエはブリブリ言わせていた自分に精神的ショックを受けたのか、与えられた個室でふて寝中。


「女神様が良い表情をしていたから、ご主人に楽しみができる。こんなのもう……エチエチな話以外ありえないっしょ? 遂にご主人に跡取りが……感動した!」


「兄貴ってどうしてそう……頭悪いッスかね?」


「はぁ? なら学院を首席で卒業してくれよマイシスター。かつての俺のように」


「そういうことを言ってるんじゃないッス!」


「お前ら、折角気分がいいのに騒ぐなよ」


 ソファーの目の前にぶら下がってるヨシーダと、ソファーの後ろで前のめりになっているルミナに挟まれながら、アルは引きつった顔でワインを口に運ぶ。


「そういえば、ファティマ様はどうしたッスか?」


「俺と違って明日のためのプリント作成とかがあるとかで、まだ学院に残っている。シオンも同じように何か用があるとかで学院にまだいるから、ニルファもまだだ。あとで一緒に連れて帰ってくるとさ」

次回更新は1/9の21時予定です

※すみません、お出かけマンするので一日お休みいただきます

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