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裏切り

「盗み聞きとは……いい趣味とは言えないですね」


「お前にだけは言われたくない」と思いながら、シオンは気まずそうにファティマへと顔を向ける。


 まだ返答していないとはいえ、アルを殺害するかどうかの話をしていたのには違いなく、報告されるのではないかと不安になったからだ。


「まさか、こんな早くに計画がおじゃんになるとは」


 ダグラスも、まさかこの時間のこんな場所に、ファティマがいるとは思っておらず、観念して両手をあげる。


「アルハザードに監視するよう命令されてたんで? どこまで化け物なんだ……あの野郎は」


「勘違いしてはいけないのです。私も聞きたいというのは、単純にあなたの話に興味があるからなのです」


「どういうことです……? ファティマ先生はアルハザードの恋人だったはずでは?」


「あ、あんなのと恋人なわけがないのです! 私はこの世界の神なのですよ⁉」


 とは言いつつ、ファティマはしっかりと慌てふためく。


「神……? あんた何言ってるんだ? 頭大丈夫か?」


「正真正銘、この世界の神なのですよ……シオンに聞けばわかるのです」


 そう言うと、神と信じてもらえるように精一杯かっこつけて、長い髪をかきあげながら、シオンに視線を送った。


「え……僕もファティマ先生が神様ってまだ信じてないんですけど」


「んなぁ……⁉」


 しかし、その表情はすぐに崩れる。


「とにかく……私はこの世界の神として、あの男を……このままにしていいとは思えないのです」


「俺と目的は一緒ってことか? ファティマ先生?」


 ダグラスの問いに、ファティマは頷く。


「あなただけ、あの男を見る視線が他と違ったのでマークしていたのですよ。もし……下手に手を出そうとしているのならば、やめておいた方がいいと忠告するために」


「と……思ったら、何か考えがあるようなんで気になったってところですか?」


「その通りなのです。あなたは……あの男の力を知った上で考えがあるのですか?」


「ええ、親父から聞いています。【法則無視】とかいうなんでもありの力でしょう?」


 それをわかっている上で考えがあるのであれば、聞く価値があった。


 ファティマはダグラスを見つめると、自分のせいで中断してしまった内容を話させる。


「単純な話ですよ。それを封じる術がある」


 とても信じられないのか、ファティマとシオンは顔を見合わせて目を見開く。


「……あなたは、あの男の力を実際に目にしていないから変に希望を抱いているだけかもしれないのです。【法則無視】を封じられる力があるとは……どうにも思えないのですよ」


「そうだよ、隕石を片手で止めるんだぞ……あの先生は!」


 シオンの言葉にダグラスは「隕石を片手で……?」と顔を引きつらせる。


「まあ確かに、【法則無視】ならそんなこともできるんだろうな。なんせ、俺たちの常識が通用しないんだ……でも、アルハザードがそういう桁外れのスペシャルを持ったように、それを封じるスペシャルを持った奴が現れてもおかしくはないだろう?」


「あなたの手駒にいると?」


「そうじゃなかったら、こんな恐ろしい話は持ってこないですよ」


「それは、間違いなく、本当に確実に封じられるのですか?」


「随分と疑い深いですね。信じられないんですか?」


「一度の失敗が、確実な死に繋がる相手です。慎重にもなるのですよ」


 どれだけ万全を期しても、不安は除かれない。アルは、ただの神をも超え、創造神の首元に牙を向けられるほどの存在だからだ。


「本当に……いいんでしょうか?」


 そこで、罪悪感に襲われたのか、シオンは困った顔を浮かべた。


「確かに……あの先生を放置するのは怖いですが、別にまだ何かしたわけじゃ……」


「おいおい……何言ってんだよ? 何かされてからじゃ遅いから、殺るんだろ?」


「ダグラスの言う通りなのです。既に異世界は……あの男によって滅ぼされています。この世界も……同じ運命を辿らないとは限らないのですよ」


「ですが……アル先生は滅ぼしもしたのかもしれませんが、救っても来たんでしょう?」


「その境目がわからないから、なんとかする必要があるのですよ」


 わかってはいる。だからこそ、シオンもダグラスの話を聞こうと思ったのだ。


「あなたの気持ちもわかりますよシオン。私も……この世界を既に一度救ってもらっていますから……正直なところ、人道的とは言えない行為なのです」


「確か……まだこの世界には問題が残っているんですよね? それはいいんですか?」


「力で解決できることではないのです。……あの男にしか解決できないことは既に解決してもらいました。あとは……あの男じゃなくてもできます。私が文明を伝えればいいのですから」


 光明は既に切り開かれている。あとは、アルでなければならない理由はない。異世界の文明を知っている者であれば、誰でもいいのであれば、女神自身が伝えればいいからだ。


 たとえそれが、禁忌を犯す行為であったとしても。


「この世界を守ること、それが私の全てなのです。あの男は……危険すぎるのです」


「随分と薄情な神様なんですね?」


「なんとでも言うがいいのです。私も自覚はしています……これは私の永遠に消えることのない罪として残り続けるでしょう。毎日……あの男に祈りも捧げるつもりでいます。そこまでしてでも、あの男が何かをする前に、終わらせなければ……この世界のためにも、異世界のためにも」


「まさしく神も恐れる男というわけか……まあ、あなたが神だとはまだ信じてませんが?」


 しかし、目的は一致している。ファティマが本物の神かどうかはさておき、ダグラスは協力者がいるに越したことはないとファティマと手を交わした。


「…………シオン」


 そんな中、ニルファは少し不安そうにシオンの服の裾を掴む。


 アルを倒すということは、ニルファを元の生活に戻すということに繋がるからだ。


「ニルファ……あなたの心中は察しますが、どうか協力してほしいのです。あなたも見たでしょう? あの男の恐ろしさを……あれは、放置してはいけないのです」


「……でも」


 アルは確かに危険だったが、劣らずニルファも危険な存在には変わりなかった。


 とはいえ、自分を殺せる力を持ったラムエの攻撃を全ていなし、隕石を片手で受け止めた圧倒的すぎる力を持ったアルの姿は脳裏に焼き付いている。


 その姿は、死を望んでいたニルファでさえ、表情を崩してしまうほどに恐怖するものだった。


「俺の作戦を完璧にするには、お前の力も必要になってくる。正直笑ったよ、自分で引き込んだ力が、自分の命を奪うことになるなんて……アルハザード思いもしないだろうからな」


 だが、アルが死ねば、ニルファはまた元の生活に戻ることになる。


「ニルファ……この世界のために力を貸してください。あの男をなんとかしたあとも、必ず私があなたを救うと誓います」


 全てが終わってしまう前にと、ファティマは懇願するようにニルファの手を掴む。


「…………短くて、甘い夢だった」


 そして、ニルファは寂しげな表情を浮かべたあと、遠い目で空を見つめた。


「…………約束してほしい。私をいつか必ず……殺すと」


「……約束、するのですよ」

次回更新は明日21時頃予定です

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