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シオンの試練

 ファティマの頭が痛くなるのも無理もなく、シオンは同情して顔を引きつらせる。


「おい……アルデロン。本当にこんなので敵は近寄らなくなるのか?」


 さすがに自分でやっていてもおかしいと感じたのか、ラムエが一度中断して問いかけに来た。


「なるなる。今の君は最高に意味不明で恐ろしいぜ」


「そうか……こんなので? 力のあり方というのは色々あるのだな」


「なんでそこで騙されちゃうのですか」


「アルデロンの力は俺以上だ。そんな男の助言を嘘と断定してしまうのは、愚かだろう?」


 自分よりも強いからと言って、なんでもかんでも信じるのはもっと愚かだったが、もうめんどうになってファティマは口を閉じた。


「シオン…………おはよう」


「ニルファちゃん……大丈夫だった? 昨日は変なことされなかった?」


「うん…………ご飯美味しかった」


 あまり表情の変化はなかったが、それでもやんわり嬉しそうに笑みを浮かべるニルファを見て、シオンは気が付く。これまで過ごしてきた環境以上に、酷いものなんてないことに。


「そっか……よかったね」


「うん」


 恐らく些細な幸せでも、ニルファにとっては体験したことのない喜びなのだろう。


 そう考えただけで胸が痛くなったが、これから色々と体験させてあげればいいと考え直し、シオンは笑みを浮かべる。


「それでアル先生……僕を呼び出したのは何の用で? とは言ってももう時間もないし……早く学院に行かないと、そんなに時間は残されてませんよ?」


「少し頼みたいことがあってな」


 呼び出した理由を聞くと、アルは急に真剣な顔になってシオンに視線を合わせた。


「恐らく今日くらいに……動く奴がいる」


「動く……やつ?」


「アルデロン・アルハザードが大嫌いなやつがいるのさ、この商業区には」


「それはわかりますが…………なんで今日ってわかるんですか?」


「いつもなら一々俺が帰ってきたなんて報告しないが、今回は俺が学院の教官になったんでね、一日もあれば生徒を経由して俺のことが嫌いなやつの耳にも入る」


 学院は、貧民から貴族に至るまで生徒が属している。


 故に学院は、ユシール王国内全土に情報が伝達しやすい場所でもあった。そのため、良い噂も悪い噂も一瞬にして広がるため、下手な行動をするものは少ない。


「それで、僕に頼みたいこととは……?」


「頼みたいことは何もないが……先に忠告しておこうと思ってな」


「……忠告? 何を?」


「迷わず俺の敵になれ、全力で……だ。一切の慈悲はいらない、俺を殺すつもりで暫くは学園生活を過ごすといい。それがシオン少年のためになる」


 言葉の意味がわからず、シオンは動揺する。


 敵になれと言われても、こんな恐ろしい相手の敵になろうなどと思えるわけがなかったからだ。


「……どういうことですか?」


「それはシオン少年が考えるといい。強くなりたいんだろう? なんでもかんでも聞いていちゃ強くはなれない。自分で考え、そして行動し、結果を得ることが一番の経験値になる」


 アルはハッキリとそう言うと、手に持っていた太鼓を叩くためのバチをヨシーダへと投げ、帽子を深く被る。そしてそのままアルハザード邸の敷地外へと出ると、学院へと向かい始めた。


「ヒントは賢く生きることだ。頑張れよ、シオン少年」


 最後にそれだけ言い残して。


 置いていかれた同じ教官の立場にあるファティマが慌ててアルの後を追い、あとにはシオン、ニルファ、ルミナと、ブリブリ叫び続ける魔人族のプリンスと、テンション高くバイクを走らせるパリピだけが残った。


「……どういうことなんだろう」


「きっとご主人は、シオン君がお気に入りなったんスよ」


「どういうこと? お気に入りなのに敵になれって……ますます訳がわからないんだけど」


「きっとそのうち分かるッスよ。頑張れシオン君!」


 ルミナは既にアルの意図に気付いているのか、シオンに笑みを向ける。


「さあさあ、ここで考えていても時間が潰れるだけッス。折角来てくれたのにおもてなしができなくて申し訳ないッスけど、遅刻しちゃうから行くッスよ」


「そうだね…………って、え?」


 そして何故か、ルミナはニルファの手を引いて学院へと向かい始めた。


 すかさずシオンがルミナの肩を掴んで動きを止める。


「どうしたッスか?」


「どうしたじゃないよ、どうしてニルファちゃんまで連れて行こうとするの⁉」


「だってニルファちゃんはシオン君の魔物じゃないッスか、学院は主従契約を終えた魔物と一緒に学院を過ごしていいはずッスよ? 学年上の実力のある先輩たちも連れてきてるッス」


「そ、そうだけど……それってロップイアスカイラビットとか、キティドラゴンとかでしょ⁉」


「何が問題ッスか?」


 問題はなかった。だが、シオンは世間体的な面で心配があったのだ。


 エルフにしか見えない美少女を連れて学院に登校すれば、奴隷を連れて登校しているようにしか見えず、気持ち悪がられ、周りに口うるさく言われるだろう。「自慢か?」などと。


 弁解するためにニルファが魔物だと言えば、学院内でどよめきが生まれるだろう。


 少なくともニルファの存在を、昔から学院で働いている教官であれば知っているはずだからだ。


 最強の魔物をシオンが連れているとなれば、どんな目で見られるかわかったものじゃなく、嫉妬や、妬みは確実。ただでさえいじめられているシオンは、極力目立ちたくないのだ。


「男は度胸! どっちにしろいずれバレることッス! 早いか遅いかだけッスよ!」


「……学院、楽しみ」


 しかし、ニルファは行く気まんまんだった。


 ここで連れて行かないとなれば悲しい顔をさせてしまうのではないかという懸念と、ルミナにかっこ悪いところを見せてしまうという不安から、シオンは溜め息を吐いて諦めると、とぼとぼとした足取りで、そのまま学院へと向かい始めた。


 そして後には、ラジカセを肩に朝っぱらからテンション爆上げのパリピと、ラジカセから鳴る音楽のリズムに合わせてブリブリする魔人族のプリンスだけが残る。


「俺は…………一体何をやっているんだ?」とラムエが気付くのは、一時間後の話。

次回更新は1/2日の12時予定です

今年もLV999の村人を含め、一年間ありがとうございました!

来年ですが、また色々と報告できそうなことがありますので、ぜひともよろしくお願い致します!

来年も星月子猫を何卒よろしくお願い致します!

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