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模索

 嫌な予感しか、しなかった。


「なんでもあり」という印象しかない男からのお願い。


「なんで……僕に頼むんだろう。あの人ならなんでも一人でやれるだろうに……」


「そんなことないッスよ? ご主人だって、できないことはあるッス」


「うそだぁ……例えば?」


「人の心はどうにもできないって……いつも口癖のように言ってるッス」


 シオンは、どんな言葉が出ても、「嘘だ」と言おうと思っていた。だが、不思議とすんなりそれが本心で言っているものだと受け入れられた。


 自分がまず、こうしてアルを信用していないからだ。


 どれだけ強く、相手を従わせようとしたところで、その多くは恐怖によって従うだけ。


「だからアル先生って……力をひけらかすようなことはしないのかな」


「どうッスかねぇ……なんかもう一つ、悩みがあるみたいッスから、そっちが理由かもしれないッスよ?」


「それは……どんな理由なの?」


「私もわからないんスよ。時々寂しそうな顔で溜め息を吐くので聞くんスけど、なんでもないって教えてくれないんス」


 その顔には、覚えがあった。


 思えばアルと出会ってまだ間もないというのに、寂しそうな顔を何度も見ている。


 それが一体、どういうタイミングで浮かべていた顔なのかを思い起こそうとしながら、シオンとルミナはアルハザード邸のある遊郭街へと足を運ぶ。


 夜とは雰囲気の違う遊郭街を前にして、シオンはすぐに思いだすのを止めて周囲を見渡した。


「なんていうか、さすがに朝は怪しい雰囲気はないんだね」


「みんな寝てるッスからね、昼夜逆転してるッスよ」


「ルミナちゃんはよくこんな場所で…………って、ウワ! なになになに⁉」


 暫く歩いたところで突如大きな爆発音が鳴り響き、シオンが慌てふためく。


 あまりの音の大きさに、眠っていた娼婦やギャングが飛び起き、出窓を開いて何事かと確認する。そして、アルハザード邸の方角から煙が噴いているのを見て、ヤレヤレといった顔で戻っていった。


「多分ご主人ッスね」


「冷静だね……ルミナちゃん」


「よくあることッスよ?」


「……よくあることなんだ」


 大げさに反応せず、すぐに戻っていったギャングたちに納得しながらシオンはアルハザード邸へと向かう。


「アル先生は……昨日の今日で一体何をやっているの?」


「それは見ればわかるッスよ~」


 話をしている間に、二人はアルハザード邸へと辿り着く。


 そして辿り着いてすぐに、シオンは真顔になった。もうなんと言葉にしていいか、全然わからなかったからだ。


「ヒィアウィッゴォオオオオオ!」


「はぁぁぁぁああああああああああああああああああああああああああ! ブリブリブリブリュリュリュリュリュリュ! ブツチチブブブチチチチブリリぃいいい!」


「…………楽しい」


 バイクに跨り、庭を滑走するヨシーダと、無表情でヨシーダの後ろに座るニルファ。


 長芋が設置された木で作られた謎の装置のハンドルをグルグルと回し、奇声を発しながらドロドロとした白い物体をブリブリ放出させる魔人族の王子ラムエ。


 ズンドコズンドコと太鼓を叩き「っは!」という掛け声と共に小さな爆発を発生させて何かのお祭りを始めようとしているアル。


 そんな一同を、シオンと同じく真顔で玄関先から見ているファティマとロップイ。


「で、どういう状況なのこれ? ファティマ先生が諦めきった顔してるんだけど」


「シオン君も同じ顔してるッスよ?」


 とりあえずアルハザード邸の門の前で立ち話もなんだと、二人は中へと入る。


「やあ、来たか……シオン少年」


 アルはシオンに気付くや否や、太鼓を叩くのをやめてシオンの下へと近付く。


「やあ来たかじゃないですよ、朝っぱらからうるさすぎでしょ。近所迷惑ですよ」


「何を言う、周囲の奴らは夜中にうるさいんだからイーブンだろう」


「その周囲の奴らの稼ぎで国に上納金を収めているのでは?」


「気にすんな少年、おやっさんたちはこの程度のうるささでご主人を恨んだりしねえからよ」


 シオンが来るや否や、ロップイが頭の上へとパタパタと移動する。


「シオン!」


 直後、同じく救いを見つけたかのような顔でファティマがシオンへとタックルをぶつけた。


「ああ……やっとまともな常識人が!」


 勢いよくぶつかられて朝ご飯がピュルッと出そうになったが、シオンは気合を入れて耐え抜いた。それなりに痛かったが、美人に抱き着かれて悪い気はせず、頬を赤らめる。


「聞いてくださいなのです! この馬鹿どもを何とかしてほしいのですよ!」


「人聞きが悪いねぇ女神様。こんなにも女神様のために働いているというのに」


「やり方が、アホすぎるのですよ! 何が力の支配無しに相手を怯ませる方法を考えるですか!」


「力を失ったラムエの頼みじゃないか。今後どうにか力が回復するまでの間、生き残る方法はないかと相談してきたから、ついでに模索してるんだろう? 一石二鳥じゃないか」


「それ自体は問題ないのですよ! どうしてその考えた結果がこれなのですか!」


「最強と謳われる魔人族の王子が、奇声をあげながら長芋をぶりぶりとすりおろしてたら、とりあえず何事かと警戒するだろう? しかもこの世界にはない文明で作られたハンドル式の擦りおろし器でだ。俺なら一体何が起きるんだ⁉ って警戒する。人はな、理解の及ばない脅威に恐怖を感じるものなのさ」

次回更新は明日12時予定です

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