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神殺しの力

「……そろそろ終わりにしよう。満足しただろう?」


 同時に、ヤレヤレと首を左右に振りながら、アルも口を開いた。



「次が君の、最期の攻撃になる」



 そして、ラムエにとって最大の屈辱が与えられる。


 何をやっても倒せないのではないかと思いかけた瞬間に吐かれた一言、だからこそラムエの心の奥底に響いた屈辱的な言葉。


 何をやってもどうせ届かない、そう考えているからこそ見せられる余裕。


 最期の一撃をわざと放たせ、受けきってやるという宣言。


 遠く及ばない相手だとわかっていても、ラムエのプライドが、その屈辱を許せなかった。


 なんとしてでも、一泡吹かせたい。そんな思いだけが脳内に満ちた。


「だったら…………!」


 ここで全てが終わってもいい。その価値がある男だと判断した。


 だから、ラムエは体内に残っていたほぼ全てのマナを魔力へと変換させる。


 言葉通り「最期の一撃」を放つために。


「避けられないようにするまでだぁぁぁぁああ!」


 全身から放出された濃密な魔力が、アルではなく、上空へと吸い込まれるように注がれる。


 上空へと注がれた魔力は、霧が如く天を覆い、暗雲となって太陽の光を遮った。


 ラムエにとって、最大最高の一撃が注がれる。その予感をその場にいた全員が感じ取った。


「神をも…………殺せる力?」


 そして、ファティマに吐かれた言葉を復唱しながら、シオンは息を飲んで魔力によって覆われた暗雲を見つめる。


「ええ、彼にはその力があります」


「ファティマ先生は……女神なんですよね? 言っちゃうと申し訳ないんですけど、ファティマ先生って……さっき落下している時も慌てていたので、特別な力がないと倒せないとは思えないんですけど……」


「……確かに私は割と簡単に誰でも殺せちゃうのです」


「どういう……ことですか?」


「私は神ではありますが、厳密にはあなた方にとっての神ではないのです」


「いや意味がわからな…………⁉」


 シオンが言葉の真意を問い返そうした時だった。


 シオンは、目の前の光景が信じられずに言葉を失い、ただ肩を震わせて恐怖した。


「避ければ貴様の仲間が犠牲になる……避けられるものなら、避けてみろ!」


 ラムエが叫ぶと同時に、暗雲の雲が一瞬にして切り開かれ、そこから――――



 この土地一帯を埋め尽くし、大陸全土を焦土にしてしまう力を秘めた、巨大な、巨大すぎる炎を纏った隕石が落下してきたからだ。



「これが……魔人族の王子の力」


 この世界の外、宇宙に漂う星すらも操り、この地に降らすことのできる力を前に、それまで楽観視していたヨシーダとロップイも「まさかここまでとは」と、さすがに肝を冷やす。


 仮に、ここにアルがいなければ、本当に終わっていたと感じて。


「この世界を潰すつもりか?」


「安心しろ。貴様を消し飛ばしたあと、星の衝撃はこの大陸で収まるように俺が防いでやる。まあ……この大陸は消えてなくなるかもしれんが、貴様が消えるのであれば安いもの!」


 最早、アルを倒すことしか見えておらず、その単調な思考回路に、アルはハットを深く被り直すと呆れて溜め息を吐く。


 その一挙一動から見てとれたのは、余裕だった。


 一つの大陸、ラムエが威力を殺さなければ世界を終わらせることもできる巨大な隕石を前にしても、それでも慌てた様子もなく、アルは真上から降り注ぐ巨大な隕石を見つめる。


「シオン、あなたにとっての神とはなんですか?」


 そこで、同じく全く慌てた様子もなく、ファティマがシオンに問いかける。


「聞いている場合じゃ…………そりゃ、なんでも思い通りにできて、どんな願いでも叶えてくれて…………この世界を作った人、です」


 少しでもここから離れようとシオンは逃げ出そうとするが、落ち着いた様子のファティマを前に、戸惑いながらもその場に踏みとどまった。


「だからこそあなたは……私を最初、素直に女神であるとは思わなかった。あなたのイメージと、随分とかけ離れていたから」


「どういう……ことですか?」


「私という女神が実際にいながら、人々が考える神の姿がこうも違っているのは……どうしてだと思います?」


「どうしてって……僕たちが考える神様が居て、大地や、海や、気候や、スペシャルという仕組みや、生物を作ったからこそこの世界があるはずでしょう? なら、必然的になんでも作れて、生みだせるのが神様って思うんじゃ……?」


「ええ、そうでしょうね。ですが、私にはそんな力はありません。この世界を守護するために、ちょっとした特別な力と強さ、そして……永久を生きられる寿命があるだけなのです。死者を生き返らせたり、生命を突然産みだすことなんてできないのです」


「じゃあ……誰が、この世界を作ったんですか?」


 言葉にしながら、シオンは腰を抜かしてその場に座りこんでしまう。


 空がもう、隕石で覆われているほどに近付いていたからだ。もう、数秒もしないうちに、自分たちの命は消えてなくなってしまうだろう。


 そんな状況のはずなのに、ニルファを除く一同は、落ち着いた様子だった。


 上空で待機している真っ先に隕石の被害を受けるはずのアルも、何も脅威と感じていないのか、両手をコートのポケットに入れた状態で待ち受けていた。


「あなたの言う神の存在は、間違っていないのです。それが、私たち神々にとっての【神】と同じ。私たち神々の指す【神】とはそれなのですよ………つまりいるのです、あなたの考える神……創造神が」


 そして遂に、摩擦熱によって炎を纏った巨大な隕石は、目と鼻の先にまでアルへと近付いた。


「アルデロン・アルハザードは、創造神をも殺せる力をもっているのです」


 そこで、隕石の脅威は喪失する。


 アルがゆっくりとコートのポケットから手を取り出し、手のひらを上空の隕石へと向けた瞬間、隕石は音もなく、衝突した音すらも出さず、アルの手に吸い込まれるようにピタリと停止した。


 まるで、隕石に流れる時が、そこで停止してしまったかのようだった。


 衝撃波なかった。ただ、ピタリと、人族の男が、その隕石を片手で受け止めたのだ。


「ば…………馬鹿な…………⁉」


 その光景に最も驚いたのは、隕石を降らせたラムエ自身だった。


 見ていたシオンも、ニルファも、目の前の光景が信じられず、驚愕した顔のまま言葉を失う。

次回更新は明日12時です

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