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魔人族の王子の力

「貴様をいただく……魔人族の王子、ラムエに喰われることを光栄に思うがいい!」


 そして、先程と同じく、瞬時にニルファの下へと近付き、噛みつこうと口を開けた。


「残念ながら、お姫様は我がアルハザード家のご友人が先約済みだ。諦めてもらおうか」


 だが、これまた同じく、動きの挙動なくラムエの目の前へと一瞬で移動したアルにより、頭部を鷲掴みにされて止められる。


「……なんだ?」


 異様な悪寒を感じ取り、ラムエはニルファから飛び退く。


「なるほど……どうやらマナドレインが発動されていないから辿り着いたというわけではないようだ。それなりに戦えるらしい」


 そして、改めて戦うことになる男の顔を見つめた。


 ラムエからは、深く被られたハットのせいで目元がよく見えなかったが、それでも目の前にいる男から余裕が感じとれた。


 それが面白くないのか、ラムエは眉間に皺を寄せる。


「誰と戦うことになるか……わかっていての挑戦か?」


「どうせ俺たちを殺すつもりなんだろう? お姫様を取り込んだ力を試すとか言ってな。なら、今止めようが、後で止めようが……君には関係のないことでは?」


「話が早いな……確かにそのつもりだったが、それは取り込んでからの話だ。少しでも長く生きていたいと思わないのか?」


「変な話をする男だ。君がお姫様を取り込もうが、取り込まないが、俺が死ぬ道理はないが?」


 アルは、心底不思議そうに首を傾げる。それが、ラムエには馬鹿にしているようにしか見えず、ラムエは醜悪な笑みを浮かべた。


 何も考えずに嬲り殺しにしていい相手が見つかったと、アルのその余裕が崩れた時に得られる、最高の悦楽を想像して。


「俺を…………殺せるとでも?」


 高揚のあまり、ラムエは抑え込んでいた力を全身から放出させた。


 あまりにも濃く、禍々しい魔人族特有の魔力が溢れ出し、ルミナとシオンは立っていられなくなる。


「殺さないさ。別に殺す理由がないし……女神様がうるさいからな。なんなら家に招待したいと思っているくらいだ。魔人族の知り合いも一人……欲しかったんでね」


 殺せると『思っている』のではなく、殺せると『確信』しているからこその前提話。


 ラムエにとって初めてのことだった。これまで誰にも負けたことがなく、誰からも恐れられてきたラムエが、ここまでコケにされたのは。


「……馬鹿が!」


 次の瞬間、岩をも砕く魔人族の拳がアルの顔面へと一直線に向かう。


 しかし当然の如く、アルは身体を少し曲げることで回避する。だが、追い打ちをかけてラムエは秒間、十発は繰り出す速度で、殴打と蹴りをアルへと打ち込み続けた。


「ほう……どうやら口だけではないようだな!」


 それでも、アルには一発も届かなかった。


 その場に残像を残し、最小限の動きで全ての攻撃をアルは回避していく。


「うぉおおおおおおおおおおおおお!」


 ラムエが叫んでいる間も、殴打と蹴りはさらに速度を増して撃ち込まれ続ける。


 秒間に十二発、十五発、二十発と速度を上げていくが、それでもアルには一撃も届かない。


「残念ながら、最初の動きでお姫様を君が喰えたのは、君がそんなにたいしたことのない相手だと俺が見くびっていたからだ。大変失礼した……君は強い。だからもう、油断しない」


 そんな速度で攻撃をかわし続けているにも関わらず、アルは汗一つかいていない余裕の表情でラムエへと話しかけた。それがまたラムエには不快で、身体から更に禍々しい魔力が溢れ出す。


「ならば……これはどうだ?」


 直後、ラムエは一度アルから飛び退いた。


 そして、アルを囲むように全方位から避けるための隙間もなく、黒い炎弾が突如機関銃のように放出される。


「魔法はやめておいた方がいい。発動前に回避すればいいだけなんでね」


 だが、放出された時には既にアルはそこにいなかった。飛び退いたはずのラムエの背後に、何食わぬ顔でアルは立っていたのだ。


 炎弾はそのまま互いに衝突し合い、消滅する。


「馬鹿な……!」


 さすがに予想外だったのか、ラムエは顔を歪めた。動いた挙動が何もなく、気付けば後ろに立っていたからだ。むしろ、挙動がなかったからこそ、魔法を発動させたはずなのに。


「す……すごい」


 あまりにも次元の違う戦いを前に、シオンは息を飲む。


 魔人族を相手に戦って死なないだけでも凄いのに、ただの人族の男たった一人が、その魔人族の王子、絶対的な強者を相手に圧倒しているのだ。


 常識を覆す戦闘を前にして、驚愕しないわけがなかった。


「満足したかい?」


 いくらやっても無駄だと伝えているかのように、アルは呆れながらハットを深く被る。


「……ならば、本気で相手をするまでだぁぁぁぁぁぁ!」


 ラムエは叫び、身体中に血管を浮き上がらせる。


 直後、あまりにも濃すぎる魔力がラムエから放出された。


 ラムエはその魔力によって浮きあがり、周囲は重力が何十倍にもなったような感覚に襲われる。


「ヨシーダ! 女神様!」


 誰がどう見ても危険と思える力を前に、アルはファティマとヨシーダにアイコンタクトを送る。


 すぐさまその意図を読み取ると、ファティマは腰を抜かしていたシオンに肩を貸し、ヨシーダもルミナとニルファを両脇に抱えると、広間から早々に立ち去った。


「なるほど、確かにこれは凄い力だな」


 広間から一同が出て行ったのを確認すると、アルは冷静にラムエを見つめる。


 放出された禍々しい魔力はオーラとなってラムエを纏い、マナと魔力の高まりによる影響か、ラムエの髪は黒から白へと変化していた。


「……死ね!」


 次の瞬間、アルの視界は光に包まれた。

次回更新は明日12時予定です

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