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実施訓練その2

「どうしてヨシーダがここにいるのですか」


 教官資格を得たのは、アルとファティマだけのはずだった。


「あいつは元々教官資格を持っていたからな。言っただろう? なんでもこなす凄い奴だと」


「凄いのはわかりましたが、どうしてここにいるのですか?」


「……さあ? それは直接あいつに聞いた方が早いんじゃないか? 俺は少なくとも『来い』なんて一言も言っていない」


 論より証拠だと、二人はヨシーダの元へと移動する。ヨシーダのいる場所では学者の指導の下、スペシャルを扱いこなすための訓練が行われていた。


 外での訓練はローテーション形式になっており、クラス全員が一箇所に集中していない。それぞれ科目ごとに分かれているため、その場にはルミナとシオンを含む、数人の生徒だけがヨシーダの独断行動に巻き込まれていた。


「ウィイイイイイイイッス! ヨシーダでーす! 皆の力になりたくて来たんでよろしくぅ!」


「ルミナちゃんのお兄さん……?」


「ルミナちゃんってお兄さんいたんだ」


「なんていうか……すっごい変わった服装してるよね、この国に住んでないのかな?」


 そして、ルミナにとって耳が痛い噂が飛び交っていた。


「早速だけど、君たちの能力測定情報を事前に見てきたから、スペシャルと身体的能力からみた特別な指導を君たちに施しちゃうよぉ! 君たちはスーパーラッキーだ!」


 一人、テンション高く「FOOO!」と騒ぐヨシーダを前に、生徒たちは無言で本来の指導者である学者へと視線を向ける。生徒たちの視線が集中すると、学者は何も言わず明後日の方角を見つめた。


「弱みを握られているようにしか思えないのですが」


 その様子に、ファティマは疑惑にまみれた顔を浮かべる。


「変な奴とは思っていても、ヨシーダが優秀すぎて何も言えないだけだろうさ」


「学者が思わず黙るほどって……具体的にどれだけヨシーダは凄いのですか?」


「国家が認めてこれ以上教えることがないと、この学院を三年前に卒業しているくらいだ。俺も好きに生きればいいと言ったんだが……結局我が家の執事になった」


 意外だったのか、ファティマは口を開けて呆け顔を見せてしまう。


 とても今の様子からは優秀だったとは微塵も思えず、頭のおかしい馬鹿にしか見えないからだ。


「まずは君と君と君ぃぃぃ! 今度の試験は諦めて次回の試験に備えちゃお?」


 順にヨシーダは指を差して、残酷な宣言を告げる。その中には、シオンも含まれていた。


「な、どうして……!」


「死ぬからですよ」


 さっきまでのパリピはどこにいったと思わず口にしてしまうほどのギャップと威圧感に、立ち上がって文句を言おうとしたシオンはたじろいでしまう。


「試験とはいえ戦場、これまでは運よく、それも安全な場所に配置されていたから生き延びていたかもしれませんが次は確実に死にますよ? 高等部と中等部では、それだけの差があるということをまず理解しなければなりません。既に指摘は受けているはずです」


 シオン以外の指を差された生徒は、既に辞退を受け入れているのか特に驚いた様子はなかった。


 それもそのはずで、能力を明らかに満たしていないと判断された生徒は、既に能力不足と告知を受けていたからだ。無論、参加するかどうかは各個人に委ねられるが、国も、貴重な戦力を無駄に死なせたくはないのである。


 無論、役にも立たない戦力の面倒みるほど国は優しくないため、支援は断たれてしまう。


 免れるためには、ルミナのように座学において優秀な成績を収める必要があるが、シオンの座学における成績は並みであり、支援を受ける条件を満たしていない。


「でも僕は…………!」


「平民の出であるが故に、試験をこなさなければならない重要性はわかりますが、たとえ試験に参加して生き残ったとしても、合格と呼べる成績は残せないでしょう。諦めなさい」


「それで諦められないから、こうして文句を言っているんじゃないですか!」


「そもそも文句を言うのがお門違いです。スペシャルの能力を活かせないと判断したのなら、身体能力を伸ばせば良かっただけの話。努力が足りなかっただけの……ウッ!」


「そこまでだ」


 追い打ちをかけて説教を垂れるヨシーダに、訓練用のゴムボールが腹部へと直撃する。


 誰が投げたのかと視線を追うと、そこには追加のゴムボールを片手にニヒルな笑みを浮かべるアルの姿があった。


「お前は俺も認める優秀な男だが、教育者としてはまだまだみたいだな」


「……ご主人」


「初対面でそれはきつすぎるだろう? それに、無理をなんとかしてやるのが先生ってもんだ。俺がお前に与えた漫画にも、ちゃんとそういうのが描かれていただろう?」


 相変わらず表情はわからなかったが、アルの言葉で少しだけ反省しているのが窺えた。


 無論、二人のやり取りを聞いて、どういう関係なのかと、生徒たちの間でどよめき始める。


「どうしてここに? まずはそれから話せ」


「ノリ」


「なるほど了解した」


「今のやり取りで済ましてしまう意味がわからないのですが」


「そうッス! ご主人もたまには兄貴をちゃんと怒ってくださいッス!」


 そこで、その場で今のやりとりを聞いていたクラスの生徒たちはもれなく、驚愕の表情を浮かべてルミナを見つめた。ファティマに賛同したルミナが、アルを「ご主人」と言葉にしたからだ。


「え……ちょっと待って、ルミナちゃんって学費を稼ぐためにメイドの仕事をしてるって言ってたけど……その勤め先って」


「あれ? 言ってなかったッスか? アルハザード家ッスよ?」


「「「えぇぇ⁉」」」


 校庭に生徒たちの叫び声が響く。ルミナは特に隠していたつもりもなかったのか、あっけらかんとした顔で首を傾げていた。


 そんな中、周囲をおいてけぼりにしたまま、ヨシーダとアルはシオンを交えて会話を続ける。


「で? 結局なんなのですか?」


「暇だったんだろう。理由があればヨシーダはちゃんと説明してるさ」


 そこまで言われてようやくファティマも「なるほどなのです」と納得する。


 実際、家での仕事は二時間もあれば掃除も含めて済ませてしまうため、暇だったのだ。


 そんな中、自分を除いて全員が学院に行くことになったため、混ざりたかっただけだった。


「だが暇潰しとはいえ、教官として指導するならちゃんと責任をもって指導しないとな?」


「あなたがそれを言うのですか?」


「おいおい茶化さないでくれよ女神様?」


 アルはそう言うと、シオンの肩に手を回す。


「シオン少年は確かに力不足だが、才能はある。大方、これまで努力の仕方を間違えていたか……中等部までは伸び悩んでいなかったんだろうさ」


 アルの指摘は当たっていた。


 シオンは中等部の頃は伸び悩んでいなかった。身体能力も平均的で、スペシャルの能力も空を飛ぶ能力と汎用性が高く、むしろ、将来期待されているほどだった。


 だが、遺伝的な問題か、シオンの肉体の成長が14歳になった段階で止まってしまったのだ。


 まるで、女性と変わらない身体つきと身長は、高等部に入った段階で他の男子生徒と大きな差をつけることになってしまった。


「わかっています。ですから適切な指導をこれから与えるつもりでした」


 それには気付いていたのか、ヨシーダも頷いて反応する。

次回更新は明日12時予定です

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