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ダグラスの後悔と成長

「なるほど」


 その一挙一動でアルは理解する。ダグラスがどういった生徒なのかを。


「これはさっさと要件を聞いた方が早そうだ」


「理解が早いな先生。そういう相手は嫌いじゃないが……あんたは別だ」


 ダグラスはアルに顔を近付ける。そして、獣が威嚇するかのように睨んだ。


「シオンと特別な関係だってな……秘密の特訓をしたんだって?」


「それが何か?」


「シオンに余計なことをしないでくれよ……あいつは弱いままじゃないと駄目なんだ」


 そして、ダグラスはこれでもかと怒りを込めたメンチを切った。


 その行動にアルは、噴き出して笑いそうになるのをグッと堪えて真剣な面持ちを保つ。


「どうして弱くないと駄目なんだ?」


「あいつを俺の所有物にするんだよ……だから邪魔するなよ先生?」


「所有物? 意味がわからないが……まあ、シオン君が弱くないと君が困るとだけ覚えておこう……まあ、覚えておくだけだが」


「ああ⁉ 俺の話、聞いてたか先生? あまり聞き分けないとその立場にいられなくするぞ?」


 再び目を見開いて、ダグラスはアルを睨む。するとアルは耐えきれなくなったのか「ばふっ!」と噴き出して笑ってしまう。


「どうしよう女神様、俺、こんな面白いやつ初めてかもしれない」


「それはよかったですね」


「女神様? なんの話だ? 聞いてんのかおい!」


 コケにされていると感じたのか、ダグラスはアルの胸倉を掴む。


「いや、どうしてそこまで強気になれるのか面白くなってな?」


「俺は伯爵で先生は子爵だ……それとこの学院は、俺の親父の多大な寄付金によって支えられている……これがどういう意味かわかるよな?」


「俺はその親父さんを含む、国家の理事会から教官資格を強引に発行させてここにいるんだが?」


「親父たちはあんたにビビりすぎなんだよ。禁忌だとかなんだ騒がれてるが、実際に強いところを見た奴なんて極少数だ。たまたまスペシャルの相性が悪かっただけで……本当はあんた自身、たいしたことないんだろ?」


「どうしてそう思う?」


「異世界の道具を使っていた……そうだろう?」


 自信たっぷりに告げられ、アルとファティマは思わず顔を見合わせる。お互い「蛮勇」という言葉を脳裏に過らせると遠い目を浮かべた。


「ずっと疑問だったんだ。ただの人間が千人の騎士を相手に勝てるわけがない……絶対にズルをしているってな! あんたが今日、その秘密を自分で暴露してくれたんだぜ?」


「つまり、俺自身はそんなに強くないと思うわけか?」


「まあ多少は強いんだろうさ……でも、それは異世界の道具をフルに発揮できるスペシャルがあるから……そうだろう?」


「なら試してみるがいい」


 一切臆した様子もなく、淡々と言葉を吐くアルを見て、ダグラスは一瞬たじろぐ。


「俺は別に、先生……あんたが俺の言うことを聞いてくれればそれでいいんだぜ?」


「おいおい、怖いのか?」


「…………後悔するぞ? 今、あんたは異世界の道具を持ってないみたいだしな。火炎放射器もマルモ先生の手元にある」


 そしてアルが念を押して挑発をすると、ダグラスは意を決し、手元に青白い光を纏わせた。


 その行動に、アルは楽しそうに笑みを浮かべる。


「だ、ダグラス……やめておいた方が」


「そうだぜ……もし、お前の推測が間違ってたらどうするんだ?」


 取り巻きの二人も、まるで臆していないアルの様子を見て不安になったのか、ダグラスの動きを止めようと肩を掴む。


「びびんじゃねえよ……俺の実力は知ってんだろ?」


 だが、もう気持ちが止まらないのか、ダグラスは静止を振り払って構えを取った。


「綺麗な光だな……俺も見たことない珍しいスペシャルみたいだが、どんな力なんだ?」


「先生が身をもって味わえばいい……理解した時には終わってるだろうけどな」


 コートに手を入れた状態で全く身構えていないアルと、闘争心を剥き出して構えるダグラス。


「あ、あのファティマ先生……止めなくていいんですか?」


「私にはどうせ止められないのです」


 そんな二人を交互に見て慌てふためくマルモ。一方で既に諦めているのか落ち着いた様子でファティマが見届けた。


「くらいやがれ!」


 直後、ダグラスは手のひらを前方へと突き出した。


 すると、手元を覆っていた青白い光が霧のようにその場から消え、アルの胴体に衝撃が走る。


 ダグラスの持つスペシャルは【波動】。己から発した衝撃を遠くへとぶつける力である。


 それも、ダグラスの波動は長年の学院生活で洗練され、最初に伝えた衝撃を何倍もの威力にして遠くへと当てられる力となっていた。


 尤も恐ろしいのは、その力の影響範囲が見えにくいところにあり、初見で回避するのはかなり難しい点だろう。多くの相手が、気付かないうちに一撃で仕留められることになるのだ。


 ダグラスが将来を期待されているのは、このスペシャルのおかげでもあった。


「ぐはあぁぁぁぁああああああああああああああああああ!」


 そして目論見通り、ダグラスの波動はアルの胴体へと命中し、アルは叫び声をあげながら後方へと勢いよく吹き飛んだ。


 突きあたりの壁を粉砕し、さらにその奥の壁を粉砕し、粉砕し、粉砕し、粉砕し続け、最終的には校内の外へと飛び出して空高くへとアルは飛んで行った。


 それを、ファティマはアホを見るかのような顔で見届ける。


「す、す、すげぇぇぇぇええええええええ!」


「ダグラス君、やっぱりすげえよ! あのアルハザードを一撃で⁉ やべえ……やべえよ!」


「すごい……まさかダグラス君がここまで凄い生徒になってるなんて……アルハザードを倒したなんて、この国を揺るがす問題ですよ……!」


 あまりにも圧倒的な力を見せつけたダグラスを前に、ファティマを除く三人は興奮気味にダグラスの力を褒め称える。


 近付くことさえ禁忌とされていたアルハザードを一撃で、それも圧倒的な力の差で倒したという事実は、それだけこの国においては凄いことだったからだ。


「……行くぞ」


 だが、ダグラスは勝ち誇ることなく、すぐに背中を向けると、次の授業場所である外へと向かおうする。


「どうしたのダグラス君? あ……もしかして外に吹っ飛んだアルハザードの無様な姿を見に行くとか? あの威力だ……もしかしたら死んでるかもな」


「ちげえよ、授業に行くんだよ」


「……どうしたダグラス? お前……めちゃくちゃ汗かいてるけど、そんなに力を使ったのか?」


 ダグラスの顔中に浮かんでいた汗は、単なる冷や汗だった。


 ダグラスは今の戦いを終えて、勝利したなどとは微塵も感じていなかったのだ。


 むしろ、とんでもない相手に戦いを挑んでしまったと死ぬほど後悔していた。


 千人の騎士たちが負けた噂を、一瞬で納得してしまうほどに。


「ていうか……顔青くね? 大丈夫か? 保健室行くか?」


「いい……別に疲れてるわけじゃねえ」


「じゃあどうしたんだよダグラス君? 勝ったってのに……ダグラス君らしくねえじゃん」


「うるせえ……いいから行くぞ」


 そのまま、三人はファティマたちの元から去ってしまう。


「いいかお前ら……アルハザード先生、あれには絶対逆らうな、ていうか調子に乗るな」


「「は⁉ なんで⁉」」


 そんな会話を最後に残して。


 ファティマを除く三人には、どうしてダグラスがそんなに焦燥しているのかわけがわからなかった。


 どっからどう見ても、ダグラスの圧勝だった。圧倒的な力の差を前に、ダグラスが勝利を収めたようにしか見えなかった。


 そう、圧倒的だった。そして圧倒的すぎたのが問題だった。


 そもそも今のように勝利を収められるのであれば、今実際に戦場で活躍している騎士たちを差し置いてエースになれるほどの力だったのだ。


 ダグラスの持つ波動の力は、軽く相手を吹き飛ばす程度、当たり所が悪ければ致命傷になる程度の力のはずだった。なのに、アルは吹き飛ぶどころかあらゆる壁を破壊して飛んで行った。


 ダグラスは一瞬で気付いた。


 アルが自分の力でわざと吹き飛んでいったことに。


 攻撃を受けたふりをして、あらゆる物体を破壊しながら自分で飛んでいける力を持っていることに。


「なんなんだ……あのやろうの力は?」


 あまりにも底が見えず、どういう能力かもわからず、ダグラスは恐怖した。

次回更新は12/10 12時予定です

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