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少年たちの運命の始まり

「いったい……どういうつもりですか?」


「どういうつもりとは?」


「とぼけないでください! 王家からも貴族からも嫌われているアルハザード家が、学院の教官資格を得られるわけがない! 昨日……世界樹にいた件も含めて、良からぬことを考えているのでしょう?」


 シオンが勢い任せに吐いた言葉に、正式な担任の教官が「え、世界樹に勝手に入ったんですか⁉」と動揺する。


 その隣で、わざわざ追いかけてまで怪しんでいることを伝えにきた少年を前に、アルは「おー……」と何故か呆気にとられていた。恐らくは、怪しんでいるということを伝えることで、抑止力になると考えての行動だったのだろう。


「君は真っ直ぐな少年だな」


 故に、アルは少しおかしくなって笑みを浮かべた。


「え、え?」


 返ってきた言葉が予想外で、シオンは戸惑う。てっきり疑われていることに、どこか焦りをみせると考えていたからだ。


「とりあえず反論させてもらうなら、君の話には何の根拠もない。ただの憶測だ、憶測でしかない以上、それを伝えたところで俺はいくらでもとぼけることができる」


「とぼけたところで、僕の疑いは晴れません! 何を企んでいるのか……必ず暴きます」


「暴いてどうする? 君に何かできるのか?」


 アルの問いに、シオンは黙り込んでしまう。何も言い返せなかったからだ。


「君に力がないのはこの前、世界樹での戦いを見てわかっている。そして、平民の君に俺をどうこうできる権力がないことも知っている……学院登録番号77番、シオン・スコット君」


「どうして……⁉」


「クラスの担任なんだ。生徒の情報を知っているのは普通で当然のことだろう?」


 予想通りの反応を見せるシオンが面白く、アルは少し噴き出して笑ってしまう。


「そもそも、たとえ貴族でも、王家でも、俺が良からぬことを考えていたところで止められない。止めるというのは、その力を持つ者……もしくはその力に匹敵する勢力かき集められる算段がついている者だけがやるべき行為だ……君にその力があるのか? その算段がついているのか?」


「ぼ、僕は……その」


「君がやったのはそういう無謀な行為だ。俺が本当に悪者なら消されている可能性もある。とはいえ、悪事を企んでいる相手を前に何もせずにはいられなかったんだろう? 猪突猛進の馬鹿ともいえるが、そういう真っ直ぐな心は嫌いじゃない……だから褒めたのさ」


 まるで諭すように、アルはシオンの頭をポンッと撫でる。まるでそれは、本当の教官のようで、見ていたファティマも少しだけ感心しつつ「あなたに猪突猛進の馬鹿とか言われたくないのです」と微笑んだ。


「は、離してください!」


 子供扱いされたのか悔しかったのか、それとも予想外な行動をされて戸惑ったのか、シオンは頬を紅潮させて慌てながらアルから飛び退く。


「安心しな、良からぬことなんて何も考えてないさ」


「し、信用できません」


「さっきも言ったが、信用しなかったところで君には何もできないぞ?」


「……そこまで言う先生は、実際どれほどに強いのですか? アルハザード家が近付くのも禁忌とされるほどに強いことは知っていますが、その強さを実際に知らない者は多い」


 強さと聞かれてもどう答えたものかと、アルは少しだけ悩んで首を傾げた。


「そうだな……仮に、この世界の住民を数百単位で簡単に倒してしまう最大の敵をラスボスとして、俺はそのラスボスを百回殺したあと、踏み入れば全身がズタズタになってしまう危険なスポットに行くと戦うことのできるヤバすぎる隠しボス……を倒した後に出てくる千体の隠しボスを全て倒すと出てくる隠しボスを倒した時の一万分の一くらいに姿を現す隠しボスを倒した後に出てくる隠しボスくらいの強さはあるんじゃないか?」


「何を言っているのか全然わからないのです」


 わかりにくすぎる説明に、ファティマも正式な担任の教官も怪訝な顔を浮かべる。


「まあ……そんなに知りたいなら家に来ればいい。お茶でも出してゆっくり教えてやるさ、別に隠しているわけでもないからな」


「ここでは言えないんですか?」


「別に言えなくはないが、次の授業とかの準備もあるだろう? 俺も他のクラスのところにいかないといけないし、君も次は授業のために外に出なきゃいけないんじゃないか?」


 すっかり忘れていたのか、顔を青くしてシオンは「わ、わ!」と慌てだす。


「そうだな……ちょっとだけ話すなら、今この世界は滅んでしまう危機にある。それを救うために俺は行動しているとだけ言っておこう」


「世界の危機…………? 救うため⁉」


 どういうことなのか詳しく聞きたかったが、それよりも次の授業が始まるまでの時間がなく、シオンは慌てて教室へと訓練服を取りに廊下を駆けだした。これ以上成績を悪くするわけにはいかなかったからだ。


「え……あの、世界が滅んでしまうってどういうことですか?」


 話を聞くだけ聞かされて、残された正式な担任の教官が、あまりにも気になりすぎてどういうことなのかをアルに尋ねる。


「よぉ……アルハザード先生、待ちなよ」


 すると、タイミングを合わせたかのように、青髪をオールバックにしてまとめた、従者と思われる生徒を二人ほど連れた男子生徒がアルたちの前へと姿を現す。


 シオンがいなくなってすぐ現れたことから、陰に隠れてタイミングを待っていたのが窺えた。


「誰だ、君は?」


「さっき自分が担当するクラスの生徒の情報を知っているのは普通と言ってなかったです?」


「ふざけるな、一日で全員覚えられるわけないだろう」


「ふざけているのはあなたなのです」


 実際、アルは一度見たことのあるシオンくらいしか調べておらず、ほぼ生徒のことを知らない。


「ダグラスだ、覚えときなよ……子爵の先生?」


 ダグラスはそう言うと、どこか嫌味の感じる余裕の笑みを浮かべる。


「……そろそろ次の授業が始まるし、君も行った方がいいんじゃないか? 俺たちも次の授業があるから移動しないといけないし」


「いいんだよ俺たちは別に……なあ? マルモ先生?」


 ダグラスは再び嫌みのこもった顔で一笑すると、正式な担任の教官へと声をかけた。


 マルモと呼ばれた担任の教官は小声で「……はい」と伝えると、おどおどとした様子で申し訳なさそうに視線を逸らす。

次回更新は12/09 12時予定です

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