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アルハザード流の改革【後編】

「俺からは以上だ、信じるか信じないかはお前たち次第……皆も気軽に相談してほしい。というわけでこれからよろしく頼む」


 アルが話を終えると、今度はファティマが一歩前へと出る。生徒にとってはアルハザード家と違い、誰かはわからなかったが、そのあまりの美貌に全員が息を飲んで言葉を待った。


「は、初めましゅ……初めまして! ふぁ、ファティマなのです」


 そしてあまりにも不器用な喋り方に、男女問わず頭の中で「かわいい」と考えてしまう。その不器用さに誰も、目の前の女性がこの世界の女神であると結びつける者はいなかった。


「アル……アルハザード先生と一緒で気軽に話しかけてくれたら嬉しいのです……それと、できれば姓で呼ばずにファティマ先生と呼んで欲しいのです、よろしくお願いするのですよ!」


「……ゴリマッチョ先生」


「誰ですか! 今呼んで欲しくない方で呼んだのは!」


「俺」


 肩に手を置いて爽やかな笑みを浮かべる隣の男を一瞥すると「あなたには名前ですら呼んで欲しくないのです」と吐き捨て、ファティマも挨拶を終える。


「ファティマ先生はこの世界フェルトを歩き回り、様々な種族と交流をしてきたということで異種族や地理に詳しく、世界情勢の授業を担当してもらうことになっています。アルハザード先生は…………その、よくわかりませんがアイテム学を担当されるとのことです」


 聞き覚えのない単語に、生徒たちはそれぞれ「アイテム学?」と首を傾げた。


「文明の研究開発と考えてくれていい。とはいえ建築技術を開発するわけじゃなく、道具の作り方を専門的に開発していく授業になるからアイテム学と呼んでいるだけさ」


 そうは言われても生徒たちにはイメージがつかなかった。


 既にある文明を教えると言うのであればわかるが、研究開発を授業でするというのがよくわからなかったからだ。


「まあ……授業はやってみればわかるさ。何か質問はあるか?」


「あ……あの、いいですか?」


 生徒たちは顔を見合わせて一瞬戸惑うが、すぐに次々と手を上げる。


「アル先生は……普段は何をされているんですか? どうして学院に? アル先生の噂はよく聞きますが……実際に見て何をしている人なのかは良く知らない気がして」


「なるほど、いい質問だ。確かに俺は、商業区の遊郭街を経営していて、不満を言ってきた者を徹底的にボコボコにするみたいな変な噂しかないものな」


「実際は……どうなのかなと思って」


「実際は遊郭街の経営は知人に任せっきりで、俺自身は異世界に行ったりきたりしていた。だから俺はこの世界に普段はあまりいないのさ」


「「「「異世界⁉」」」」


 これまた聞きなれない言葉を吐かれ、生徒たちはどよめき、それぞれ「本当に……あるんだ!」と異世界に夢を抱き始める。


 アルの隣ではファティマが慌てながら小声で「ちょ、言っていいのですか?」と耳打ちするが、アルは「どうせもう異世界に行くことはないから留守中を襲われることもないし、異世界を隠しているわけではないだろ? どうせ言ったところで行けないしな」とあっけらかんとした態度を見せた。


「異世界なんて……あるんですか⁉ どんなところなんですか⁉ 行ってみたい!」


「異世界は星の数ほどはあるからな……どんなところと聞かれても答えずらい、もちろん異世界によって雰囲気は違う。魔物がいない世界なんかもあるしな」


 普通では絶対に聞けないような話に、生徒たちは目を輝かせる。


「だが……行くのはおススメしない。というか行くな、絶対に死ぬから」


「し、死ぬ?」


「たとえそこに自由で安全な領地があったとしても、俺以外が行けば死ぬ。これは絶対だ」


 異世界に一瞬、夢を抱いたがすぐに打ち壊され、質問をした生徒はがっかりとしてしまう。


「まあそう暗い顔をするな。異世界には行けないが、異世界の文化を知ることはできる。アイテム学っていうのはつまり、その異世界のアイテムを実際に作ってみようという授業なのさ。この世界にはない道具になるわけだから……研究開発という題目になるわけだ」


「異世界の……道具ですか?」


「そう。誰もまだ見たことがないアイテムをお前たちの手で作るんだ。とまあそんなわけで、異世界の素晴らしい文化を教えるために、俺はこの学院に来たのさ……理解したか?」


 そう言ってアルがウインクを見せると、生徒たちは顔を明るくさせて「異世界の文化を知る授業って……面白いかも」と賑わい始める。同じく話を聞いていた担任の教官でさえ「……私も聞きたい」と興味を示しているほどだ。


「それじゃあ早速、親睦を深める意味合いもこめ、一限目は予定を変更してもらってアイテム学の授業になっているから、どんなものなのかはそれで確かめてくれ」


 異世界の文化を知る機会を得たことで、アルに最初に抱いていた恐怖が多少なりとも取り除かれたのか、生徒たちは目を輝かせた。


 そんな中、ファティマだけが不安そうに、いつも通りの自信に満ち溢れたアルの顔を見ていた。

次回更新は12/7 12時更新予定です

※今回ページ少なくてすみません。明日から3000文字以上の投稿に戻します

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