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アルハザード流の改革【中編】

 そもそも、教えるのであれば国の顔をたてなければならなかった。貴族を差し置いて平民に教え込めば、貴族よりも大きな力を手にいれたと勘違いした者たちが、異世界の文明を何かとこじつけて異端扱いする可能性があるからだ。


 それだけ、この世界の貴族たちは自分たちの身分の保持に躍起になっている。


 教えるのであれば貴族から、しかしそれだと貴族だけの特別な道具としても扱われる可能性もあるため、なんとか平民にも知識を与えられる機会を設けなければならない。


『まあ……貴族がなんかうるさく言ってきたら、俺がボコボコにすればいいだけなんだろうけど』


『それだとご主人、意固地になった貴族たちが道具を使わなくなる可能性があるだろ? 俺たちは道具を使わせないといけないんだぜ?』


『めんどくさいな貴族』


 考えなしに力づくで解決するのは得策とは言えず、ロップイはやれやれと首を振った。


 ベストは、貴族が作り方を手に入れ、貴族がその道具を流行らせ、平民や貧民もその道具を当たり前のように使える環境。


『人族はそれでもいいかもですが……他の種族に広めるのはどうするのです?』


『それは次のステップとして考えましょう。まずは……人族に広めることが優先です。人族が独占しようとしても、我々が動けばいいのですから』


『では……どうするのですか?』


 しかし、その方法は簡単なようで難しかった。貴族というプライドの高い者たちがどうしてもネックになってくる。たとえ、貴族が作り方を知ったあとに平民が作り方を覚えた場合でも、貴族は「平民以下は作るの禁止」と言いかねないほど、腐っているからだ。


 それを、これまで散々ただのメンツのために嫌がらせを受け続けてきたアルハザード家は痛いほど理解していた。


 それなのに、異世界の文明を、貴族も平民も貧民も、当たり前に持っているようにしなければならないというのは困難を極める。


『立場なんて関係なく、当たり前のように教えられる環境か……』


『学院で教えるのはどうッスか? あそこは学費さえ払えば、身分なんて関係なく教育を受けられる場所ッスから』


 そこで、閃いたかのようにルミナが手をポンッと叩いて提案をだした。


 王国の学院、争いの絶えないこの世界では常に戦力を必要としている。


 そして、スペシャルは身分など関係なく人に宿る力のため、たとえ貧民であっても強力な力を秘めている場合があり、そういった貴重な戦力を戦場へと送り出すために作られた学院である。


 それ故に、学院は試験として戦場に向かうことを義務付けているのだ。それを免れるのはよほど他の分野で優秀な成績でなければならない。


「そ、それでは……お二人共、自己紹介をお願いします」


 だが、国で唯一身分を問わずに人が集まる場所でもある。しかも、教育の一環として自然に教えることができるため、これ以上ないうってつけの場所だった。


 そうと決まればと、アルは早速学院へと殴り込み、ほぼ無理やり教官資格を発行させ、学院の教師として雇われなければ暴れまわると脅した結果、現在に至る。


 異例の事態ではあったが、アルハザード家の脅威は学院にも知れ渡っており、とりあえずは王国側が対処するまでの時間を稼ぐという目的で、教官として無理やり認めざるを得なかったのだ。


『そういえば女神様って、ファティマって名前だけなのか?』


『当然なのです。あなた方のようにだらだら長い名前ではないのです』


『でもさ、身分を隠して人族に紛れるには姓がないと不便だろ? 教官資格の登録にも性は必要だし……とりあえずファティマ・ゴリマッチョとして登録しておくぜ』


『何故そんな意味不明なチョイスを』


 そしてそんな感じで現在に至る。


「きっと皆、俺の顔は知らなくても名前くらいは聞いたことあるだろう……アルデロン・アルハザードだ。親しみを込めてアル先生と呼んでくれ。年齢も君たちと二歳しか変わらないんでね」


 教室内は、ルミナの元気な「はーい」という返事があるだけで、静まり返っていた。


 下手なことを言えば殺される。まるで、殺人鬼を目の当たりにしたかのような怯えぶりで、全員顔を俯かせていた。


「おいおい、そんなんじゃこれからやっていけないぜ? どんな噂を聞いたかは知らないが、噂は噂だ、自分の眼で真実を確かめるべきじゃないか? 俺はお前たちに危害を加えることは絶対にないし、何か相談があれば積極的に乗ってやりたいと思っている」


 そう言われても信じられるわけがなく、教室は変わらずルミナの「はーい」という気の抜ける声しか返らない。むしろ、どうしてアルハザードを前にそんなあっけらかんとできるのかと、改めてルミナの評価がクラス内で上がっていた。


 ちなみに、学院では当然ながら、ルミナはアルハザード家のメイドであることを知らない。知れば、恐らく今のような状況になりかねないからだ。


「本当だぜ? なんなら一番後ろの席にいる金髪の女の子みたいな少年に俺は昨日の段階から色々とアドバイスをしたくらいさ」


「「「「えぇ⁉」」」」


 アルがそう言った瞬間、クラス中の視線が先程から顔を隠すように俯せていたシオンへと注がれる。


「ば……ばれてる」


 シオンも自分のことを言っていることに気付くと、苦い顔を浮かべながら恐る恐る顔を上げた。


「俺が愛を込めて指導したのさ。彼の持つ飛行能力のスペシャルを最大限に活かせるように……今日も、彼と一緒に特訓の予定だ。もうすぐ試験も近いからな」


「そ、そんな予定……」


 何故か勝手に予定を入れられていることにシオンは戸惑い反論しようとするが、すぐに教室内がざわつき、声がかき消されてしまう。


「シオン君……アルハザード家の人と特訓してたって…………凄い」


「よく生きてたな」


「危険な人物かはともかく、強さはこの国一番なんだろ? そんな人に教えてもらってたのかよ」


「実はアル先生って、言われてるほど怖い人じゃないのかな」


 そして噂が一人歩きを始める。

次回更新は12/6 0時予定です

追記:すみません、微熱出てしまったので12/6 12時までお待ちください

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