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アルハザード流の改革【前編】

 アルハザード、その名を知らない者はこの場にいない。


 ユシール王国で最も危険視されている男が目の前にいるというだけでも大きな話題を生むが、さらに自分たちの担任となると聞かされて動揺しないわけがなく、生徒たちは不安そうにする。


担任の教官が暗くなるのも納得がいくほど、アルは危険人物とされているからだ。


「先生……どういうことなんですか、アルハザードって……あのアルハザードですよね?」


 全員が顔を恐怖に染める中、一人の生徒が恐る恐る手を上げて問いかける。


「皆さんが驚くのも無理ありませんが……急遽、本日よりこのクラスの担任となられました。教員資格を取られたばかりということで、暫くは私がサポートすることになっていますが……ゆくゆくは皆さんの正式な担任となることが決まっています」


「「「「ええええええええええええええええええええ⁉」」」」


 裏があるとしか思えない急すぎる展開に、再び生徒たちは声を揃えて驚く。


「どうして……こんなことに」


「私は別に……悪くないかも、なんかすっごいイケメンだし」


「馬鹿! あの見た目でとんでもない狂暴なのよ? 目を覚ましなさいよ」


 早くも生徒たちの顔は、暗いものへと変化していく。危険人物が担任で、まともな学院生活を送れるとは思えないからだ。


 そんな中、ルミナだけはいつもの笑顔でアルを見つめていた。


「嫌われすぎではないですか?」


 アルハザード家というだけで絶望する生徒たちをまえに、ファティマは顔を引きつらせる。


「面倒だから噂を流しっぱなしにしていたからな、まあ所詮……噂は噂さ、ちゃんと接すればすぐに解ける些細な問題だよ。それより自分がちゃんと教官を勤められるかを心配してなゴリマッチョ先生」


「次にその名で呼んだら遠慮なく叩くのです」


 だがアルは、想定通りなのか余裕のある笑みを浮かべる。


 先日、この世界に異世界の文明を浸透させることが決まったあとのこと、では実際にどうやって浸透させていくかの話が行われた。


『テンションあげあげで決めてこうぜぇぇぇぇぇえ! 意見ある人ぉ!』


『はーい』


『ヒュー! さすがご主人、ご意見ぉぉぉぉおおおお……どうぞぉおおおお!』


『ギャングたちに作らせて、それを商人に売り込むのはどうだ? ここは商業区で他の種族も集まる……文明が広がるのも早いんじゃないかどうだ?』


『それは堅実とは言い難いですね、確かに広がりは早いですが……リスクが大きすぎます』


『パリピ忍者として会議するのか執事としてするのか、ハッキリしてほしいのです』


 異世界の文明を知っているのは他でもないアルだけ。となれば作り方も、作るアイテムの使い方や効果を教えられる者もアルしかいない。ただ完成された文明の利器を渡すだけでは、作り方を教えたことにはならないため、教えて作らせる相手を選ぶ必要がある。


 その相手を誰にし、どうやって教え広めていくかが重要だった。


『ギャングたちは基本的にご主人様に厚い信頼を預けてはいますが、ギャングはギャングです。いざとなれば私利私欲のために使う者が多いでしょう』


『まあ確かに、おやっさんは信用できるが、他の若い連中は血の気も多いしな』


『一番近くでギャングたちを見てきたロップイがその意見であるなら、ましてや止めておいた方がいいでしょう。他の種族に内緒で売り込み、のし上がろうとする者もいるかもしれません。そうなれば、我々の預かり知らないところで勝手に異世界の文明が広がり、ファティマ様が危惧した事態にもなりかねないかと』


『じゃあ俺たちで作って売り込むか?』


『売るとなれば買うのは商人です。異種族であればほぼ間違いなく人族の産物を買い付けにきた商人でしょう。同じ理由で私欲のために使われるので我々のコントロールが効かなくなります』


 目的は全ての種族が平等に、かつスムーズに異世界の文明を受け入れることである。


 そこに、差があってはならない。差があれば、不遇を強いられたものが変わらずスペシャルの力に頼ることになるからだ。

『魔晶石よりも安価に、ちゃんと全員平等に行き渡るようにしないと駄目ってことか』


 というのも、スペシャルの力を封じ込めることで、一度だけマナを消費して封じ込めた者のスペシャルを使うことが可能な魔晶石と呼ばれるアイテムがこの世界には存在するからである。


 そしてそれが、この生活の基盤となっていた。


 異種族の商人を受け入れる商業区があるのも、エルフの火を起こすスペシャルを封じ込めた魔晶石など、スペシャルがまばらで安定していない人族の生活を支えるためである。


『そういうことです。目指すべきは誰もマナを使用しないで済む世界になりますから。なので、異世界の文明が魔晶石よりも不便であってもいけません』


『それは大丈夫さ、一回使い切りの魔晶石よりかは便利なはずだ……あーでも、文明の利器によっては使うのに専用の資源が必要だったりするな』


『ならば、その資源を確保するルートが必要になってきますね。どんなものが必要なのかは知りませんが……場合によっては異種族の土地から手に入れなければなりません』


『でもそれって結局、文明が発展しても資源を奪い合うために争うことにならないッスか?』


 問題は山積みだった。


『まあ争いをどう止めるかはこの際一回置いておこう、どうせ今も争ってるわけだし、争いを止めるために文明を発展させるのが目的でもないからな。まずはマナを使わなくても良い環境を整えるという目標だけを達成しよう』


『そうですね。とりあえずはまず、どうやって異世界の文明を広げるかという点に絞りましょう。期限も五年と短いです。淡々と作業的に広めるのであれば……国に認めさせるのが恐らくてっとり早く、その国内にいる者たち全体に行き渡らせられるでしょう』

次回更新は12/05 7時予定です

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