1:選定されし者
そこは見た事のない場所であった、ベッドに寝かされていた者は覚醒し、見知らぬ天井を見つめていた。
確かに俺は死んだはず、死んでも意識があるって変じゃないか? しかも俺の体じゃない体だし、どうやったらこんなことが出来るんだ? 人とは違う高次元の存在が介入したのか?
「如何にもその通りだ早乙女良一よ、我は神とも呼ばれる存在」
突然現れたかと思ったら心を読まれた? いや、意識を引き寄せて別の体に入れられる様な存在なら神と言われても違和感が無いか。
「貴方が神だと言うのも大体理解しましたが、ここは何処です?」
「とりあえず此方に座って話そうぞ、緑茶で良かったかの?」
「ええ・・・」
「そう警戒するな、まずは自己紹介といこうかの、儂はそなたの住んでおった地球を管理しておった者じゃ、名をカイエルと言う。
先の質問に答えるならば、管理人室とでも言うべきか。
そなたの事は知っておるので紹介は必要ないぞ」
なるほど、地球を管理していたと理解すれば良いのか、自己紹介が不要なのは当然か、何かの基準で選ばれたのだろうし。
「まず今の状態を説明しようかの。
そなたは一度病で死亡し、魂のみを此方に連れて来られた、納得はできんでも理解してくれたら助かる」
「はぁ、そもそもなぜ俺がこの様な場所に?」
「そなたの人生が不憫での、もう一度人生をやり直してみないか? 同じ星に転生させる事は不可能だが別の星なら可能じゃ、むろんそのまま放り出す事はしない、それなりのスキルなどを与える。
ここから先は心して聞くんじゃぞ、これからの説明終了後、転生までの時間が短ければ短いほど有用なスキルなどを与える事が出来るからの。
行先はアルタールと呼ばれてる星、語源や生態系や生活環境など色々な事が違うからの、会話や読み書きに関するスキルはどんなに時間が長引こうと与えるからの、有用なスキルが与えられるかはおぬし次第じゃ。
生態系としては人族や獣人などの意思疎通可能な種族や、意思疎通出来ず他者の命を狙う魔物が蔓延しておる。
魔物は害にもなっているが資源にもなっておる。
対抗手段として武器や魔法が発達しておる、そこで質問じゃ、転生するか?」
これが本当なら話に乗るのも手だよな、散々な人生だったからなぁ、車では引き殺されそうになったり、PC壊されたり履物ボロボロにされたり、あの糞親父にお返しすら出来なかったから後悔しかない。
やり直せるならやり直したいな、それに凄いスキルを貰った方が後々の為だからな、最低でも聞くべき質問はあるけどなるべく最短で決めよう。
「転生させて下さい、お願いします」
「即決か、良い返事じゃ、それでは次じゃ、攻撃手段として物理攻撃か魔法攻撃、それともバランス良くか、スキルを与える基準にするからの」
どん臭いってほどじゃないが、球技は苦手だったんだよな、未知の魔法にも興味があるし、MMOだと魔法使いキャラに馴染みがあるからな。
「運動神経鈍いので魔法のみでお願いします」
「了解した、質問はないかの? 無ければアルタールの管理者の元まで送り届けるからのどうじゃ?」
行った先の種族説明がザルすぎて不明な段階だからな、この質問だけは外せないだろう。
「色々な種族の方が暮らしている事は理解しましたが、特に嫌われてる、迫害を受けている様な種族ってありますか?」
「強いてあげれば魔族とダークエルフであろうか、特に前者は突出してるであろうな、他に質問はあるか?」
種族が強制ではなく選べるのなら外しておくか、ある程度の強さを持って転生なら良いが、最弱の状態で送られでもした場合、品を売ってくれないとなった場合死にかねないからな。
「特に有りません、よろしくお願いします」
「そうか、では行くとしよう、与えたスキルに関しては転生後に【コマンド】と声に出すなり考えれば一覧が出るからのそこから見てくれればええ、では行くぞ」
コマンドか、RPGのゲーム染みてきたな、その方が慣れてるから好都合でもあるが。
視界が歪み新たな風景が映し出され、別の場所に移動した事が窺える、そこに女性が現れ話しかけられた。
「カイエル久しいわね、その子が例の早乙女良一? 私はエウシオンよ、よろしくね」
さっき言ってたアルタールの神って事かな。
「早乙女良一です、よろしくお願いします」
「久しいな、元気そうでなりよりじゃ、儂の用事は済んだからの、後はお願いする、それでは早乙女良一、達者での」
説明もろくにしないまま、エウシオンに預けられる良一だった。
「ありがとうございました、失礼します」
「手短に済ませるわね、カイエルから聞いてると思うけど転生までの時間が短ければそれだけ恩恵があるわ、心して決めて頂戴ね。
転生後の種族、年齢、性別や容姿や体型を決めましょう、先ずは種族ね、候補は人族、犬族、狼族、猫族、エルフ族、ドワーフ族、竜人族ね。
戦闘スタイルは各個人違うけれど大まかな得手不得手があるわ、それを考慮して決めた方が良いわね」
先ほど聞いた種族は最初から選べる対象じゃなかったか、それは助かったな。
MMOで馴染みのある種族が大半か、だけどその知識を鵜呑みには出来ないな。
エルフが筋骨隆々の前衛職の適性が高い、とかだとしたら致命的だしな。
ここは最低限でも質問しないと後が怖いな。
「魔法を主体にと考えてますが、体の頑強さもほしいです、そうなると候補はどうなりますか?」
「魔法に慣れ親しんでるのはエルフね、ただ体が細身だから物理防御面では劣るわね。
頑強さだとドワーフ族と竜人族、敏捷から考えると竜人族がお勧めかしら、魔法主体ならドワーフは候補から外れるわね」
この返答内容ならMMOの知識で大丈夫だろうな、足が遅いとか戦闘では致命的な弱点になりかねない、ドワーフは除外だな。
エルフだと敏捷が高く魔法適正も高い、細剣とか弓の名手だな、だが物理防御がなぁ、魔物の知識が無い以上、この選択も外すとしたら竜人族か。
体表を鱗で覆われてるとしたら物理防御面ではトップクラスだろうな、それにブレスとか出せたら火力面も最強だろ?
「竜人族でお願いします」
「わかったわ、次は年齢ね、ちなみに冒険者ギルドへ登録するなら最低でも15歳は必要よどうします?」
冒険者ギルドか、魔物討伐の斡旋やら護衛任務の斡旋をする組織と認識すれば良いのかな? 魔法主体で戦うとすればそちらでお金を稼ぐのが最も生活しやすいだろうな、登録は当然としても年齢が低すぎると嫌がらせ受けそうだな、高すぎるのも遅い登録だとこれも悪目立ちするか、低すぎず高すぎずか。
「16歳でお願いします」
「わかったわ、次は性別と容姿や体型ね、平均的な顔にするとか高身長や横幅とかね、後は髪の色ね」
元の身長が違和感無く馴染めるだろうな、後は好みか。
「性別は男で顔は種族として平均より良い程度で、身長は175cmで、体格は前衛職として平均からやや痩せ気味で髪の色は白銀でお願いします」
「これで全て決定ね、質問は有るかしら?」
魔法の発動方法を聞いておかないと、これまた詰むな、最低でも攻撃魔法を1種類は覚えないと覚える手段が無くなってしまう。
「魔法の発動方法をご教授頂いても宜しいですか?」
「魔法は詠唱と無詠唱の二通り、貴方には無詠唱のスキル付与が決定してるから詠唱の説明は省くわね。
無詠唱はイメージをはっきり思い浮かべて発動させる事、この応用で複数の属性を混ぜる事も可能だわ。
後はあなた次第ね、他に質問はあるかしら?」
転生場所を決めておかないと、送られて即死亡じゃ洒落にならないからな、お願いしてみよう。
「質問ではありませんが、転生場所の指定をお願いして宜しいでしょうか?」
「賢明な判断ね、良いわよ、ある程度の融通はしてあげる」
「有難うございます、現在の気候が暑すぎず寒すぎず町から3km圏内で初心者用の敵しか出ず、町まで障害無く行ける場所にお願いします」
「結構細かく要件を出すのね、だけど最適な要望ね、了解したわ、他にあるかしら?」
「以上です、有難うございます」
「後はあなた次第ね、頑張って、それでは転生させるわね」
「ありがとうございました、エルシオン様」
こうして早乙女良一は転生するのだった。