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暗黒街で鴉と呼ばれた男と精霊術師  作者: イチコロイシコロ
第4章 策謀交錯の暗殺行
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氷界の白き獣

クロードがミュハトやリットン達、照霊騎士団と戦っている丁度その頃。

ドルバック・ガルネーザは護衛の中でも腕利きの者を8名だけを連れて市街地にある行きつけの酒場まで来ていた。

この街では珍しい地下1階に作られた店は落ち着いた雰囲があり、そんな静かな酒場のカウンターではドルバックが1人でグラスを傾ける。

その隣には黒のスーツにサングラス姿の護衛が1人。

他にも同じような格好をした護衛達が、店の入り口付近にドルバックを囲むように店内のあちこちに散らばっている。

何故この様な妙な席配置なのかというと、ドルバックは1人飲みが好きな人物だからだ。

しかし、今の組織の情勢から考えて1人で出歩くのは身の危険が多い。

そこで護衛をつける代わりに飲む時は1人の雰囲気だけでも味わえるように極力護衛を離れた位置に配置にしている。


「お前も飲むか?」


1時間近く黙ってグラスを傾けていたドルバックが不意にそんな事を言いだす。

水を向けられたのは彼の隣で水の入ったグラスを弄ぶ黒スーツの男。

声を掛けられた黒服はしばし思案する様な動きをした後、無言のまま首を左右に振る。


「・・・そうか」


申し出を断られた事に特に怒り出す事もなくドルバックは手にしたグラスの中、半分ほど注がれた琥珀色の液体を一気に煽る。

空になったグラスをテーブルの上に置くと、バーテンが慣れた動きで新しいグラスを差し出す。


「こんな所まで連れて来られて不満かもしれんがこれが約束だ。結果が出るまでは一緒に居てもらうからな」


ワザとトゲのある物言いをして突き放すドルバックに黒服は黙って頷く。

控えめな黒服の姿を横目に見つつドルバックは新しいグラスを手に取る。

そうしてドルバックが静かに酒を楽しんでいる最中、彼の居る店に忍び寄る複数の影があった。

全員が闇の溶ける様な揃いの黒いローブを纏った一団。

彼等を率いていると思しき先頭を歩く1人が店の入り口を指差す。


「標的は今この店の中にいる」


そう口にしたリーダー格の男の言葉に付き従う9人の男達。

総勢10名の男達はキャトル・マキウィがわざわざ地元である第三区画から秘密裏に呼び寄せた暗殺者達だ。


「ドルバックをはじめ店内にいる者は皆殺しにしろ」

「了解だ。まあ今回は護衛も大した事ないから楽勝だな」

「キャトルも珍しく楽な仕事を回してきたな」


口々に所感を述べる部下達を前にリーダー格の男は鋭い視線を向ける。


「油断はするな。計画通りに事が運ぶとは限らん」

「分かってやすよ」

「半数がやられた時点で撤退。死体は回収。それが無理なら魔法で完全焼却」

「了解」


とはいえ今まで味方に死人が出た事等一度もない。

作戦前に行っているいつもの確認。これは作戦を成功させるために行ういわば儀式だ。

これを行う事によって全員の意識を完全に戦闘モードへと切り替える。


「全員。突入開始」


感情を感じない言葉を合図に全員が階段を駆け下りて店の中に突入する。

階段を駆け下りてくる複数の足音を聞いて入り口付近に待機していた護衛達が席から立ち上がる。

懐に隠し持っていた武器に手を伸ばす護衛達。


「二代目!敵襲です!」


分厚いナイフを構えた護衛が叫ぶのとほぼ同時に、店の扉が勢いよく開かれ黒い影が一斉に飛び込んでくる。


「馬鹿が返り討ちだ!」


ドルバックのいる奥のカウンターまでは一本道。

その道に立ちはだかる様に迎え撃つ護衛達が暗殺者達と激突する。

互いの持つ短剣がぶつかり合い、金属音と共に火花が散る。

壁となって進行を食い止める護衛達に暗殺者の足が止まり達膠着状態に陥る。


「テメエ達リットンの差し金か!」

「・・・・・」

「ガルネーザファミリー舐めんなオラァ!」


流石に選りすぐりの護衛達だけあって暗殺者達に押し負けていない。

それもそのはず護衛達はそれぞれ力に優れた亜人族である。

ジリジリと力で謎の一団を押し返していく。


「なんだぁ?乗り込んできた割りに大した事ねえな!」

「全員捻り潰してやるぜ!」


このまま力で押し返せる護衛達がそう思って前に出た時、暗殺者の1人が小声で呟く。


「力だけのデクノボウ。お前達は終わりだ」


その言葉が彼らの耳に届いた時、足元に拳大の大きさの宝石が2つ転がりだす。


『風の結晶石よ。力を放て剣刃疾風(ブレードガストルム)


誰かが呟いた一言で転がり出た2つの宝石から真上に向かって風が吹く。

風圧で形成された刃が店の奥に向かって走り、棚に並んだボトルや店の調度品等を粉々に粉砕していく。

そして近距離でその猛威に晒された護衛達は全身を斬り刻まれて倒れる。


「うぐぅああああっ」

「こんな狭い場所で・・・・魔法だと」


一応対魔法の道具を身に着けていたので即死は免れたが、至近距離で魔法の攻撃を受けた護衛達は重傷を負い満足に動く事が出来ない。

一方、同じ様に魔法の影響を受けた筈の暗殺者達は無傷。

恐らく纏っている黒のローブに高度な魔法対策が施されているのだろう。

一瞬にして形勢が入れ替わった。

いかに屈強な亜人族といえどこれでは身動きが取れない。

そして暗殺者達は身動きが取れなくなった亜人達を草花を手折る様に次々と命を奪う。


「この程度とは、腕利きが聞いて呆れる」

「第八区画の護衛ってのは大した事ねえな」


転がった護衛の死体を蹴とばした暗殺者達が奥にいるドルバックに視線を向ける。

あまりにも呆気なく蹴散らされた護衛の者達の亡骸を見て、ドルバックの額に汗が伝う。


「こんな簡単に・・・」

「ドルバック・ガルネーザだな。その命、貰い受ける」


愕然とするドルバックにリーダー格の男が手にした刃の切っ先を向ける。

刃を向けられ後退るドルバック。

そんな彼を守る様に隣に座っていた黒服が椅子から立ち上がる。


「味方がやられたのにまだやる気か」

「なら速攻狩りとってやるぜ!」


暗殺者2人が短剣を構えて一直線に黒服へ特攻をかける。

他の者と違ってまるで凄味を感じない相手だから一瞬で片が付く。

全員がそう思っていた。

そんな彼らの前で予想外の事が起こったのはその直後だった。

迫る暗殺者の前で突如、黒服が手に持った水の入ったグラスを砕く。

飛び散った飛沫(しぶき)が空中で凝結し氷の飛礫(つぶて)と化す。


「雹撃」


外見とまるで異なる少女の声が響いた直後、氷の飛礫が2人の暗殺者に降り注ぐ。


「効かねえよ!」


対魔法効果に優れたローブを纏った彼らに魔法攻撃は効かない。

そう思ったのも束の間、2人の歩みがピタリと止まる。


「なんだ!」

「足が動かん」


何が起こったのか分からず足元に目を向けると靴の裏が凍りつき床に張り付いていた。

如何にローブが優れていても靴の裏まではカバーできない。

必死に地面から靴を引き剥がそうとする暗殺者達。

そんな彼らの目の前で黒服の姿が揺らぎ、ノイズが走った様に崩れる。

やがて黒服の男の姿が掻き消え、1人の少女が姿を現す。

まるで儚げな雪の様なその美しい姿に暗殺者達は一瞬心を奪われる。


「ヒサメ・・・レコルティ・・・登場?」


どこを見ているのか分からない目で首を傾げるヒサメ。

名乗りを聞いて相手を認識したリーダー格の暗殺者が声を震わせる。


「どうしてクロード・ビルモントの連れである貴女がここにいる」

「人質・・・兼・・・護衛?」


首を傾げたまま両立しない2つの言葉を並べるヒサメに暗殺者達は言葉を失う。

何故、彼女がこの場にいるのか。

その理由を説明するには前日のドルバックとクロードの会話まで時を遡る。

人質としてヒサメを身近に置く事になったが、それには一つ問題があった。

あまり堂々とヒサメを連れているとリットンサイドに要らぬ疑いを掛けられる。

ドルバック達としてはそれでも良かったが、クロードはそれを良しとしなかった。

そこで考え付いた方法が、精霊術『偽装領域フェイクフィールド』を使った偽装工作。ヒサメの姿をドルバックの手下の1人に偽装しドルバックの護衛の中に紛れ込ませた。

ちなみに今クロードの部屋にはドルバックの手下が2人おり、偽装領域フェイクフィールドを使ってクロードとヒサメの姿に化けさせている。

一体いつ入れ替わったのかというと昼間クロード達が視察に出かけている間、見張りが居なくなった隙にクロードの部屋に手下2人を部屋に潜り込ませて風呂場に潜伏させていた。

そして夕食に呼ばれ部屋を出たタイミングで本物と入れ替わり、不在の間のアリバイ作りをさせている。


「危ない・・・から・・・部屋の・・・隅に」

「言うな。女、子供に庇われているようでは次期首領は務まらねえんだ」


ドルバックは懐に携えていた魔道武器を握り締めて前に出る。

だが、そんな彼の言葉をヒサメは首を左右に振って否定する。


「違う・・巻き添え・・・になる・・・から」


そう言ってドルバックが前に出る事を拒むヒサメ。

その間に動けなくなった味方の間を抜けて暗殺者の1人が突っ込んでくる。

気配を察知したヒサメは咄嗟に突き出された短刀を躱し相手の腕を取る。

その小さな体を巧みに使って相手の懐に潜り込むと遠心力で敵を浮かせて投げの態勢に入る。

同時に相手の服の袖と襟首を掴んで固定し、ただの投げ技から殺人技の態勢に入るヒサメ。


「あっ」


このままの態勢で落下した場合、脳天から叩きつけられた相手は確実に死ぬ。

それではクロードと交わした約束を破る事に気付いたヒサメは慌てて技の軌道を変えて相手を背中から床の上に叩きつける。

綺麗に決まった投げの衝撃に耐えられず暗殺者は一撃で気を失う。


「あぶな・・・・かった」


つい暗殺者時代の癖でうっかり殺してしまいそうになった。

まだクロードとの間で交わした条件は満たされていないので殺しは出来ない。

とはいえこのまま相手をしていると手違いでやらかしてしまいそうだ。

どうすべきか思案したヒサメは一つの方策を思いつく。


「来て・・・スズシロ」


そう呟いたヒサメの前に突如大きな氷の鏡が現れる。

現れた鏡の向こうには反射する暗殺者達の他に白くて大きな獣の姿が映り込んで見える。

獣はゆっくりとこちら側に向かって歩いてくると鏡を抜けて暗殺者達の前にその姿を現出させる。

それはまるで雪の様に白い毛並みに闇のような黒の模様を纏った美しき白虎だった。


「グルルルルルルルッ」


低い唸り声を上げ顔を上げた白虎のクリスタルの様に青い瞳が暗殺者達の姿を捉える。

白虎が放つ圧倒的な威圧感の前に暗殺者達は一歩も動く事が出来ない。

それはさながら蛇に睨まれた蛙の様相を呈していた。

百戦錬磨の暗殺者すら恐れおののかせた白虎の傍らに雪のように白き乙女が寄り添う。


「ヒサメ。今日はコイツ等を全員喰い殺せばいいのか?」

「殺さ・・・ない。それが・・・クロとの・・・約束」


そう言ったヒサメはその細い指を暗殺者達に向ける。


「だから・・・半・・・殺し」

「半殺しか。手加減ってのは苦手なんだが鴉男の言いつけじゃ仕方ねえか」


そう言うとスズシロはその大きな体を揺らし暗殺者達に一歩近付く。

スズシロの踏みしめた前足の下で氷の割れる様なバキバキという音が響く。


「久々の出番だ。少しは抵抗して見せろよ弱者共」


遂にこの登場。精霊スズシロ。

その能力は一体!


しっかし第八区画編長引いてるな~。

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