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暗黒街で鴉と呼ばれた男と精霊術師  作者: イチコロイシコロ
第4章 策謀交錯の暗殺行
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狂える信仰の使徒

第八区画の都市部から離れ、周囲を山々に囲まれた場所がある。

人目を遮る様に周囲を林に囲まれた場所に星明りに照らされた古びた教会が建っていた。

リットン・ボロウは護衛の兵士に囲まれ、その教会の中へと足を踏み入れる。

こんな寂れた場所に建っている割には随分と広い講堂の最奥、祭壇の前に1人の男が佇んでいる。

室内を照らす薄明りで判然としないが顎髭を生やしたその顔を見るに歳の頃は大体40半ばといった所だろうか。

国の役人にしては不自然な程のガッチリとした体格をしている。

リットンはその男の姿を確認すると真っ直ぐに講堂の中を進み、男のいる祭壇の前まで来た所で立ち止まってその場で片膝をつく。

そこでようやく祭壇の前にいた男がリットンの方へと視線を向ける。


「相変わらず時間通りだな。リットン・ボロウ」

「ハッ、恐れ入りますミュハト様」


頭上から響いた声にミュハトと呼ばれた男の声にリットンは軍人の様な返礼で応じるとゆっくりと顔を上げる。

その瞳の中には相手に対する深い畏敬の念が見て取れる。

まるで己の信じる神を前にしたかの様なリットンの姿。

自分より格上の幹部や首領であるナレッキオでさえ彼のこんな表情は見た事がない。

ミュハトと呼ばれた男の方はリットンから向けられる視線を当然の事と受け止めている。

実はリットンとこのミュハトと呼ばれる男との関係について多くの者が勘違いしている事がある。

それは国の官職に就いているミュハトをリットンが取り込んだと思っている事。

だが真実は全く違う。リットンはマフィアになるよりもずっと以前からこの男ミュハト・リーガに心からの忠誠を誓っている。

彼にとって自分の上に君臨する事を許しているのは信仰する神と目の前の男だけだ。

そんな彼にとって神にも等しい男が落ち着いた口調で問いかける。


「計画の進捗はどうなっている?」

「その件についてですが・・・」


何か言いにくそうに口ごもるリットンの態度から男は自分達が進めている作戦の状況が芳しくない事を悟る。


「その様子だとあまりうまくいっていない様だな」

「申し訳ありません。思った以上に相手の守りが手堅く少々手こずっております」

「失態だな。我等が神が嘆いておられるぞ」


俯いたまま恥じ入る様に目を伏せるリットンにミュハトは厳しい言葉を投げかける。

気落ちするリットンを前にミュハトはそのまま言葉を続ける。


「しかしお前がここまで手こずるとはな。無法の者の集まりであるマフィアなどすぐに乗っ取れると思っていたが敵も存外やるものだ」


自分に言い聞かせるように呟いたミュハトは自分の前に跪いたリットンを見下ろす。


「貴様の手に余る様ならこちらで手を回すが?」

「いえ、それには及びません。既に手は打っております」


勢いよく顔を上げたリットンは、先程までとは打って変わって力強い調子で進言する。


「今回は三流の殺し屋やゴロツキではなく我が"隊"の者を動かすと同時に、金を使って外部協力者と腕利きの刺客を雇い入れて動いております。失敗する事はありません」

「その言葉信じて良いのだな?」

「ハッ、近い内に吉報をお伝えできるかと!」

「そうか。では次に会う時には良い報告が聞ける事を期待しておこう」

「お任せを!」


片膝をついたままビシッと背筋を伸ばしたリットンは右手を直角に折ると、ピンと立てた5本の指先を天に向け肘で十字を切る。

この国ではあまり見る事のないどこか儀式染みたその動きにミュハトはただ黙って頷く。

部屋の中にいる護衛達も誰もが2人のやりとりを不自然だと思っていない。

そんなどこか異質な空気が漂う中、2人のやり取りに視線を注ぐ者が居た。


「アレはアーデナス教の聖典騎士団に伝わる最敬礼だね」

「ああ、俺も何度か見た事がある」


相棒の言葉に小声で答えながらクロードは苦々し気に表情を歪める。

視線の先にいる2人のやりとりを見ているだけで忌むべき過去の記憶が脳裏でフラッシュバックし、胸糞が悪くなる。

まさかこんな所で思い出したくもない過去と対面するとは思わなかった。


「リットンがアーデナス教徒だという事はラビの報告で知っていたが、まさかあの悪名高い聖典騎士団の人間だったとは思わなかった」

「そうだね」


聖典騎士団。

アーデナス教団が悪を打ち滅ぼす為の神の軍と呼ぶ精鋭部隊。

大層な名で呼ばれているが、基本的には異種族を殺すことを目的とした虐殺部隊。

それこそ女子供、老人であろうと一切の容赦なく殺すよう者の集まり。

彼らが通った後には積み上げられた屍の山と廃墟しか残らないと噂されており、亜人や魔人の国では悪魔の集団として長く恐怖の代名詞となっている。


「まさかアーデナス教の連中がレミエステス共和国のマフィアを乗っ取ろうと画策してたとは思わなかったよ」

「さて、そいつはどうだろうな」

「どういう事だい?」

「アイツ等は既に聖典騎士団じゃないかもしれない」


そう言ってクロードは以前に国外の情報に詳しい知り合いから流れてきた話を思い出す。


「何年か前に聖典騎士団の一つが解体されたって噂があったのを覚えているか?」

「う~ん・・・。あったようななかったような?」


いまいち記憶がはっきりしない相棒に溜息を吐きつつ、クロードはその時に聞いた話を相棒に語って聞かせる。


「解体されたのは聖典騎士団の1つ照霊騎士団。聖典騎士団の中でも信仰心に厚く、そして信仰の為なら何をしても許されると勘違いしたイカレたサイコ野郎の集まりだ」

「いつになく感情が篭ってるね」

「気のせいだろ」


素っ気なく答えるクロードだが、その声にはどこか怒りの感情が滲んでいる。


「で、そのナントカ騎士団ってのはどうして解体されたんだい?」

「真実かどうかは知らないが、何でも魔人族の子供を1人匿った咎でそこに住む自国民もろとも街を焼いたらしい、結果、地図から街が1つ消えた」

「うわ~、テンションが上がってやりすぎちゃったんだね」

「まあ、恐らくそんな所だろうな」


とはいえ流石にその1回だけで国の歴史に長く貢献した騎士団を解体するとは考えにくい。

これは推測だが表に出ていない所で他にもいろいろとやらかしていたのだろう。

結果として教団本部から以上は庇いきれないと判断され、結果として解体された。


「なるほど。つまりクロードは彼等がその解体された騎士団の人間だと思っているだね」

「思っているではないな。間違いなくアイツ等がそうだ」


迷いなく言い切るクロードにはそう断言できる理由がある。

何故ならクロードはリットンと一緒にいる男の顔に見覚えがあるからだ。


「俺は昔、照霊騎士団の団長ミルハット・リガルに会った事がある」

「ミルハット・リガル?ミュハト・リーガって名前となんか似てるね」

「ああ、恐らく偽名だろうな、奴とヤツの部隊の悪名は各国政府に知られている訳だから本名のままだとどこの国に行っても国境の検問で入国拒否されるのは目に見えている」


そうして流浪の果てに行き付いたのが移民を広く受け入れているこの国という事なのだろう。


「国家発展の為にいくら移民を受け入れているといってももう少し相手は選んでほしい所だな」


正直、この手の連中はマフィアや街のゴロツキなんぞよりも遥かに性質が悪い。

何せ神の言葉というありもしない妄言で、好き勝手殺しまくる連中だ。

しかも一度火が付くと言葉を覚えたての3歳児よりも聞き分けが悪い。


「奴等の事だ。どうせこの国でもロクでもない事をしでかすつもりだろう」

「どうしてそう思うんだい?」

「この国には奴らの大嫌いな異種族と彼等と共存する人間で溢れているからな」

「なるほど。納得だね」


きっと今も表沙汰になっていない所で、大勢を手に掛けているだろう。

聖典騎士団というのはそういう風なるよう教育され、作り上げられた人間の集まりだ。

そしてこのまま彼らを放置すればより凄惨な出来事が起こるのは目に見えている。


「まさか敵対する第八区画で連中を見つける事になるとはな」

「不服かい?」

「いいや、むしろ奴らが何か事をデカイ事を起こす前に見つけられて良かった」


今ならば何か起こるより前に自分の力で奴らの存在ごと全てを闇に葬り去る事が出来る。


「アジール。周辺の状況は?」

「敵性の数は建物の中と外で合わせて54.その内元照霊騎士団と思しき対象の数は34。全員が"範囲内"。その他10km圏内に民間人等の反応は無し。いつでもいけるよ」

「了解だ相棒」


アジールの言葉で全ての条件がクリアされた事を確認した今、目の前のクズ共を一秒だって生かしておく理由はなくなった。

後はただ力のままに狩り取るのみ。


「それではアーデナス教が生み出した狂信者という名のクソを片付けるとしよう」

「オーケーだよクロード!」


クロードの肩に乗っていたアジールが勢い良く天井に向かって上がり、両手に革手袋を装備したクロードがゆっくりと座っていた椅子から立ち上がる。

直後にクロードの周囲で景色を"偽装していた"魔力が大気中に霧散する。

結果、講堂の真ん中に突如姿を現したクロードに中にいた全員が驚愕する。

中でもリットンの驚きは最たるもので思考が停止したように固まっている。


「貴様!何者だ!」

「一体どこから入った!」


衝撃から立ち直った護衛の男達が武器を手にクロードの周囲を取り囲む。

鎧と剣というなんとも古風な彼等の出で立ちを一瞥したクロードは、彼等を無視して祭壇の前にいるミュハトとリットンの方を見る。


「なんで・・・どうして貴方がここに!屋敷からは何の連絡もないのに」

「さあ、どうしてだと思うリットン・ボロウ?」


まるで嘲笑うかの様に問い返すクロードの言葉にリットンの顔が急激に青ざめる。

もちろんリットンにその答えが分かるはずもない。

そうしてすっかり血の気の引いたリットンから今度はミュハトの方へと視線を移す。

リットンとは対照的にこの状況にあってもまるで動じる様子がない。

流石は世界を震え上がらせた悪名高き照霊騎士団の団長様だ。


「魔術師。いつからそこにいた」

「最初からと言ったらアンタは信じるか?ミルハット・リガル。いや、今はミュハト・リーガとお呼びした方がよかったかな?」

「フンッ、何者か知らんがふざけた真似を」


不快気に鼻を鳴らしたミュハトは腰の辺りから剣の柄の様な短い棒を取り出すと両手でもって体の前に構え、何やらボソボソと唱え始める。


「偉大なる我らが神よ。悪しき者に裁きを下す為の刃を我が手に」


言葉の後、ミュハトの持った棒の先端に魔力が集約し、分厚い光の刃を生成する。

聖典騎士団御用達の高威力で知られた魔道兵装。その名も聖光刃剣。

しかも前線指揮官用に特別なチューンの施された特別性らしく一兵卒の物とは形状や出力が桁違いだ。


「何者か知らんがその余裕ぶった態度が気に入らんな。叩き斬って後悔させてやる」

「最初から生かして返すつもりなどない癖によく言う」


そこまで言ってクロードは口の端を吊り上げて笑う。


「もっとも、それはこちらも同じ事なんだがな」

「何?」

「聞こえなかったか?ならばもう一度聞かせてやろう」


そう言うとクロードは右手を頭上に掲げ、天井を指差し宣言する。


「喜べ信仰に溺れたクズ共。今日お前達全員をこの場所から神ってヤツの所へ送ってやる」



本日2作目投稿、蚊が湧く季節になってきた

虫刺されにはご用心。


好評(?)に預かっております本作ですが、

現在、あるキャラクターのスピンオフを計画中。

あくまでも本編の進行優先ですが、

そっちの方も順次書いていこうと思います。

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