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暗黒街で鴉と呼ばれた男と精霊術師  作者: イチコロイシコロ
第4章 策謀交錯の暗殺行
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動き出す者達

夕刻、西日を浴びてより一層に眩い輝きを放つナレッキオ・ガルネーザの屋敷。

関西にある有名な某野球場並みに広い敷地を持つ邸内の一室には窓から外を眺めるクロードの姿。

窓の外を向いてはいるが特に外の景色を眺めるでもなくクロード口に咥えたタバコに火を点ける。

その左肩にはいつの間にか実体化したアジールが居た。


「クロード。君がそんな顔をするなんて珍しいね」

「そんなに今の俺は変な顔をしているか?」


相棒からの言葉に、吸い込んだ煙を吐き出しながらクロードは目の前の窓ガラスに映る自分の顔を確認する。

とはいえ自分の顔などそれ程気にして見た事が無いので、イマイチ普段との違いが分からない。

敢えて上げるとするならばいつもより少しだけ目元に力がないように見える気がする程度。


「いつもと変わらんように見えるが・・・」

「何言ってるんだい。いつもより顔に生気がないよ」

「そうか?」


そう言われても自分ではあまりピンとこない。

ピンとはこないが、もしかしたら先程まで行われていたナレッキオ達との会談で多少は疲労が溜まっているのかもしれない。

何せ大組織の幹部全員を相手に1人で立ち回る等、クロードとて初めての事。

自覚しない内に精神へ過剰な負荷が掛かっていたとしても不思議はない。


(たかが1時間程度の会談で疲れが顔に出るとは、俺もまだまだだな)


力だけなら負けるはずのない相手ではあり、ガルネーザファミリーの幹部の半数には交渉でも負ける気がしないのだが、ナレッキオや一部の幹部達はクロードが1人で相手にするには少々荷が重い。

クロードも同世代のマフィアの中では頭一つ飛び抜けており、決してナレッキオ達に劣る訳ではないのだが、それでもこの業界ではまだまだ若造の部類。

積み重ねた歳月の壁はそう容易く超えられるものではない。


(だがそれでいい。それぐらいの方がやり甲斐があるというものだ)


自分はこれからファミリーの幹部になるのだから、むしろこれぐらいの試練はあってしかるべきだと考え意気込むクロード。

本人は自覚していないが国内でも一大勢力を誇るマフィアの幹部に囲まれてこの程度で済んでいるだけでも実は十分驚きに値する。

少なくともこの国にいる大多数の悪党がクロードと同じ状況に直面したとしても、クロードと同程度の精神状態を保てる者等一握りだ。


「ねえ、クロード」

「なんだ?」

「交渉とか根回しとか回りくどい事せずに今すぐこの場にいる全員倒さない?多少腕が立つのもいるみたいだけど"アレ"を使えば済む話だし」


呆れた様な声でそう告げるアジールにクロードは憮然とした表情で答える。


「それが出来ない理由についてはここに来る前に話したはずだが?」

「それについては確かに聞いたけどさ~。そこまで気にする様な事なのかな?」


クロードのやる気に水を差す様なアジールの言葉。だが彼の言いたい事も分からないではない。

この国のマフィアが一国の兵隊などよりも遥かに強いといってもやはり限度というものがある。

例え国内すべてのマフィアを敵に回したとして、全力を出せば一国の兵力だって相手に出来るクロード達の敵になりえるとは考えにくい。

しかし、現実はアジールが考えている程単純には出来ていない。

まだ確認中の情報だが、この国の裏社会には自分とアジールに対抗しうるだけの力を持った者達が存在する可能性がある。

それが区画番号保持者セクションナンバーホルダーと呼ばれる暗黒街最強を噂される者達。

番号保持者が全員同じだけの力がある訳ではない様だが、少なくともその内の3人についてはクロードと同格の力があると確実視出来るだけの情報を得ている。

万が一にもその様な者達を一度に相手する事になればクロード達とて敗北は必至。

ならば必要に迫られない限り、大きなトラブルは避けて彼等との戦いは避けるべきだ。

最悪いずれやり合う事になったとしても、なるべく一対一の直接対決に持ち込みたい所。


「お前が言いたい事も分からなくはないが、要らぬリスクは背負いたくないからな。しばらくは方針を変えるつもりはない」

「分かったよ。まったく人間っていうのは色々面倒臭い生き物だね」

「精霊というヤツが能天気過ぎるだけだ」

「そこは"自由"って言って欲しいな」


そう言ってケタケタと笑うアジール。自由を謳う精霊様は悩みが無さそうで実に羨ましい限りである。

そんな事を考えながらクロードはタバコを一息吸うと、近くのテーブルの上に置いてあるガラス製の灰皿へとタバコの灰を落とす。


「ところでだアジール」

「なんだいクロード?」

「お前、さっきあの大部屋の中に幹部連中が居る事を知っていて黙っていただろ」

「さあ、どうだったかな?色々ありすぎて忘れたね」


ワザとらしく恍けてみせるアジールだが長い付き合いだ。

この反応だけでアジールが見た目通りの真っ黒である事などお見通しである。


「まったく、お前というヤツは・・・」

「別にいいじゃないか。どの道あそこにいた男達じゃ僕らの敵とは呼べないよ」

「それでも一言ぐらいはあってもいいだろう。俺の心臓に悪い」


おかげでしなくていいはずの動揺をする羽目になった。


「アハハハッ、よく言うよ。でもまあそうだね。奥の方に座っていた2人なら掠り傷の一つぐらいは付けられたかもしれないね」

「それは問題だな。お前にとってその程度でも俺達にとっては十分脅威だ」


どうもアジールは情報を小出しにしすぎるきらいがある。

こういう時、魔力だけでなく情報も共有出来ればと思うが個々の自我というものは別々に切り離されたものであり、そのような事は不可能だ。

もっとも万が一情報を共有する手段があったとしても、止めた方がいいとアジールは言う。

精霊と人間では世界の観測方法が根本的に違う為、仮にアジールが見ている世界を情報に置き換えてクロードが得た場合、その圧倒的な情報量にクロードの脳が耐えられず廃人になる可能性が高いそうだ。

流石にそこまでの危険を冒してまで試したいとは思えず、早々に断念した。


「お前の話が本当ならガルネーザファミリーと殺り合う時が来たら、ナレッキオとバルキーの2人は俺達が相手した方が良さそうだな」

「なんだい?いずれそうなると思っているみたいな口振りだね」

「さあ、どうだろうな」


アジールの問い掛けをはぐらかすように答えるクロード。

協定が結ばれて以来、9つの組織同士で同士で大規模な抗争は起こっていない。

起こってはいないのだが、逆にそれ自体がいつか来る戦いの予兆に思えてならない。

これは自分だけでなくこの国の暗黒街に生きる多くのマフィアが同じように感じているのではないだろうか、そんな気さえしている。


「いつか来るなら今やっちゃってもいいんじゃない?」

「それは単にお前が暴れたいだけだろう」

「う~ん、それもあるかもね。ここしばらくは雑魚相手の喧嘩ばかりで出番はなし。久々の大一番だったアルマ戦も僕はルティアのお守りで大して力も使わなかったからね」

「当然だ。あそこで"アレ"を使っていたらルティア嬢の精霊は跡形もなく消滅していただろうしな」


アジールの力は強大すぎる故に扱いが非常に難しく使いどころを選ぶ。

小規模の術はまだいいが、規模の大きい術となると途端に加減が効かずコントロールが難しくなる。

そのせいで契約したばかりの頃は術者であるクロード自身が何度か死にそうな目に遭ったほどだ。


「分かってるよ。でも今回は少しぐらい楽しみにしてもいいだろう?」

「楽しみにするのは勝手だが保証は出来ないぞ」


とはいえ今回は既に想定外の事がいくつか起こっている。

状況次第ではあるが、恐らくこの第八区画でアジールの希望は叶えられる事になるだろう。


「そう言えば監視の方はどうなっている?」

「監視っていうのはどっちの事だい?」

「分かってるだろ。両方だ」


言ってクロードがカーテンを閉めて相棒の方に視線を向ける。

クロードの言う監視とはナレッキオが屋敷内に配した見張りともう一つある。

第七区画に居た時から毎日クロードを尾行してきた他組織の追跡者の事だ。


「どっちの話から聞きたい?」

「そうだな。先に屋敷内からだ」

「ここの監視だと今は部屋の前に2人、廊下の端に4人。他にも屋敷内を何人か手下がウロついているみたいだね」

「なるほど。それ以外の連中は?」

「屋敷の外にうまく隠れてるよ。もっとも僕からは丸見えだけどね」


そう言ってアジールは得意気に鼻を鳴らす。


「ここまで何人残ってる?」

「6人だね」

「なんだ。思ったよりも少ないな」

「これでも頑張った方じゃない?。駅の騒動で全員が一回僕らを見失ってる訳だし」

「そういえばそうだったな」


むしろあの霧深い駅で見失ったクロード達をもう一度補足しただけでも大したものだ。


「ついでに言うと駅の騒動で3人が追跡を諦めて脱落。2人がガルネーザファミリーの連中に捕まったね」

「そこまで分かるのか?」

「もちろん。ついでに捕まった連中がどうなったか教えようか?」

「いいや、それはいい」


それついてはわざわざ答えを聞かなくても大体の察しはつく。

元より敵が送り込んできた連中がどんな目に遭おうと下手を打った彼等の落ち度なのでクロードの知った事ではない。


「全て予定通りとは言い難いが、計画に支障が出る程でもないか」


強いて不安要素を上げるとするならば、あのキャトル・マキウィと名乗った男とその取り巻き達だろうか。

現状、彼等だけがクロードの当初考えていた計画の外にいる。

キャトル達について会談の席でナレッキオにも一応尋ねてはみたが、数日前からここに滞在しているという事以外の情報を得る事は出来なかった。


(流石にこちらの動きに併せてガルネーザファミリーが呼び寄せたという事はないと思うが、ヤツ等の目的が分からないせいでどう動くのかがまるで予測がつかないのは厄介だな)


少なくとも初対面でいきなりクロードに呪いを仕掛けてくるような男なので、ガルネーザファミリー側ではあってもこちらの味方ではないだろう。


「アジールはヤツをどう見る?」

「そうだね。人の事はよく分からないけど術者としての能力は恐らくリットンって男と同じぐらいかな。戦う分には脅威じゃないね」

「なるほど。ならば警戒すべきはその頭脳か」


本人もロビーで会った時に頭脳労働が専門だとか言っていた気がする。

だとしたらこちらの動きに併せて何か仕掛けてくる可能性は十分にあるだろう。

その事を踏まえた上でこれからどう動くかを検討する必要がある。

窓際に突っ立ったまま1人で考え込むクロード。

その背中を部屋の中央に置かれたベッドの上から黙って見ていたヒサメが口を開く。


「クロ・・・考え事?」

「ん?まあ、そうだな」

「何か・・・手伝う?」

「いや、大丈夫だ」


クロードの返事にどこか不満そう頬を膨らませてヒサメはベッドの上に顔を埋める。

どうやら彼女としてはクロードの役に立ちたいらしい。

ここまで一緒に来たのは彼女なりの目的もある様だが、そちらは恐らくついでだろう。

もちろんクロードもそんな彼女の気持ちは理解しているつもりだ。

それでも出来れば最後まで彼女の手を借りる事は避けたい。


(ここまで連れてきておいて今更それを言うのも虫のいい話だな)


自身の身勝手な考えに辟易しつつ、クロードは持っていたタバコを灰皿に押しつけて火を消し、窓の傍から離れる。

その時、不意にアジールが顔を上げると廊下へと続くドアの方へと首を向ける。


「どうしたアジール?」

「クロード。お客さんだよ」


アジールの言葉にクロードも釣られてドアの方へと視線を向ける。

少ししてコンコンと誰かが木製のドアを軽くノックする音が響く。

この後、訪れた者との対面によって事態は大きく動き始める。

ちょっと説明過多ですかね。

次回からは展開が結構動く予定です。

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