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暗黒街で鴉と呼ばれた男と精霊術師  作者: イチコロイシコロ
第4章 策謀交錯の暗殺行
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懐へ飛び込め

居並ぶ幹部の中から1人名乗りを上げた狐顔の男。

紺色の見るからに質の高そうなスーツに赤と白のネクタイが印象的だ。

クロードは自身の標的の余裕に満ちた姿を無言のまま観察する。


(この男がリットン・ボロウか)


話に聞いていたがその姿はマフィアという稼業には似つかわしくないヒョロリとした痩身であり、居並ぶ他の幹部連中と比べてあまり強そうには見えない。

ただ、リットンが身に着けている装飾品のいくつかに魔術的な意図の細工が見られる。

右手の指に3、左手に3、イヤリング、ネックレス、腕輪、目に見えるだけで9つ。

もしかしたら他にも隠し持っているかもしれない。

しかも一目見ただけではそれらの道具がどういった術に使うものなのかは分からない。

経験上、魔術を扱う者を相手にする時に見た目の印象程アテにしてはならないものもないと考えている。

流石にいくつかは敵対する魔術師を牽制する為のブラフだと思うが、それでも一般的な術者が1人で扱う道具の数としてはかなり多い。

それだけでこの男がかなりの魔術師として高い力量を持っていると推察される。

一応、リットンが魔術師らしいという話は以前にラビから聞いて知ってはいたが、その詳細についてはラビの手腕をもってしても突き止める事が出来なかった。


(調べられなかった事をラビが随分と気にしてたな)


だが、クロードとしてはそれは仕方のない事だと思っている。

何故ならマフィアの様な裏稼業に身を落とした魔術師というのは自身の術を隠匿する傾向が一般の術者よりも強く、外に自分の術の事が漏れないように対策を徹底する。

それこそ過去の例を挙げると酒の席で術の秘密をうっかり喋った魔術師がその場にいた家族や友人、知人を秘密保持の為に皆殺しにした事件があった程。

流石に全ての者がそこまで極端だとは限らないが、そこまでしても不思議がない程に裏社会に生きる魔術師にとっては術の隠匿は死活問題なのだ。

何せ自身の術の傾向がバレてしまえばそこから対策を講じられる可能性だってあるのだからそれ程必死になるのも当然。

もっとも一部例外として自身の術を隠匿するどころか堂々と人前で術を行使し、扱う術に纏わる二つ名で呼ばれている者も中にはいる。

だが、そんな事が出来るのはそれこそ飛びぬけた実力を持つ本物の魔術師だけだ。

そう考えれば少なくとも二つ名持ちでないリットンは優れた術者止まりと考えていいだろう。


(俺の様に力を制限している可能性もなくはないが、この男の性格的にそれはあまり考えにくいか)


今見ただけでもこの男は他者に先んずる事を好むタイプの様に見受けられる。

こういうタイプは強大な力を手に入れた場合、他人に誇示せずにはいられない。

そんな男がこうして幹部に甘んじている事を考えれば、実力はあれどバケモノ級の実力者という可能性は低い。

ならば自分が刈り取るのに際して大した障害とはなり得ないだろう。

クロードがその様な事を考えていると、リットンの斜め前の席に座っていた幹部の1人が立ち上がる。


「おい、リットン!貴様どういうつもりだ!」


突如、声を上げたのはマフィアというよりVシネマに出てきそうなコテコテのヤクザ顔の角刈りの男。

男はリットンの方をキッと睨み付けると眉間の辺りに青筋を浮かべて捲し立てる。


「どうしてテメエがこの場の代表のように仕切っていやがる!」

「仕切ってなどいません。ただ、話の流れから名乗らせてもらっただけですよドルバックさん」


ドルバックと呼ばれた男はその言葉により一層不快そうに表情を歪め、握った拳を固いテーブルの上に叩きつける。


「それが出過ぎた真似だと言っているんだ!第9席の分際で格上の幹部を差し置いて出しゃばった真似をするな!」

「そう怒鳴らないでくださいよドルバックさん。来客中ですよ」

「うるさい!格下のお前が俺に口答えするな!」


顔を真っ赤にして怒るドルバックにやれやれと肩を竦めるリットン。

そんな2人のやりとりを他の幹部は黙って見守っている。

察するにこの様なやりとりは日常的に繰り返されていると見える。

その事からも2人の関係はラビの情報通り最悪と見て間違いなさそうだ。

それにしてもこのドルバックという男、どうやら感情的になり易いタイプの様だ。


(参ったな。古いタイプのマフィアとは聞いていたが、あまり感情が先行しすぎるタイプの相手だと交渉に持ち込むのが難しい)


逆にリットンの様な小賢しい男の方が交渉する相手としては適している。

正直、今からでも標的と交渉相手を逆にしたいぐらいだ。

これから交渉しなければならない相手に辟易としているとナレッキオがドルバックを諫める。


「おい。ドルバック。静かにしろ」

「だが親父!」

「いいから黙れ」


自身の息子を本気で睨み付けて容赦なく威圧するナレッキオ。

外見は成金気取りの太めの中年なのにその威圧感は凄まじい。

まるで室内の空気が数十倍に重たくなったような気さえしてくる。

直に睨まれたドルバックはその圧力に屈し、蒼い顔をして押し黙る。


(眼力だけでこの圧迫感。親父と同格とされるだけあって大したものだな)


外見はやや肥満気味の中年にしか見えないが、大組織を束ねるだけあって実力は相応のものを持っているらしい。


首領(ドン)、それぐらいにしておいて下さいよ」

「そうですぜ。若の言う事にも一理ある」


傍観を決め込んでいた幹部達からドルバック擁護の声が上がり、それを聞いたナレッキオが息子に向けていた視線を今度はリットンへと向ける。


「リットン。お前が使える男だというのは分かるが、少し出しゃばり過ぎだ。慎め」

「畏まりました。首領(ドン)のお言葉、胸に刻んでおきます」


ナレッキオに対し、恭しく一礼したリットンは再び席に着く。


「話が逸れたが、まあいい。折角だから小坊主に俺の自慢のファミリーを紹介してやる」


そう言って手に持った葉巻で椅子に座る様に促すナレッキオ。

クロードは指示に従い、目の前に用意された椅子を引いて腰掛ける。

着席を確認したナレッキオは手に持った葉巻の煙を燻らせ、自身の右手側に最も近い席に座る男に合図する。

男は小さく頷くとゆっくりと立ち上がりクロードの方を向く。

2m近い高身長に纏ったグレーのスーツを内側から押し上げる筋肉、頭部には濃い藍色の長髪とその間から覗く鹿の様に捻じれた2本の角に青い瞳。

遠くからでも分かる。この男は間違いなく魔族だ。


「アンダーボスのバルキー・グルドガーだ」


その名や目立つ容姿については聞き及んでいる。

知名度で言えば首領のナレッキオや第八区画最強の男であるバファディに次ぐ三番手。

第八区画の前の区画番号保持者セクションナンバーホルダーにしてガルネーザファミリーの現No.2。

人によっては第八区画を敵にする場合、最も警戒すべきはこの男だという者が居る程の人物。


(これが噂のNo.2か。流石に噂されるだけあって風格は十二分だな)


モウストと共に強引な傾向のある組織のブレーキ役を担っている武と知に優れた傑物。

正直、今回の第八区画行きで会うのは不可能だと思っていた。

何しろこのバルキーという男、その知名度に反してあまり表に出てこない。

それがまさかこんなに早く対面する機会に恵まれるとは思っていなかった。


「お名前は兼ねてより聞き及んでおります」

「こちらも貴様の名は知っている。随分とやり手らしいな」

「いえいえ、私等皆様に比べたらまだまだです」

「さあ、どうだろうな」


バルキーは低い声でそれだけ呟くとそれ以上何も言うことなく席に着く。

どうやらこれ以上話す気はないという意思表示らしい。


(俺には関心がないのか、あるいは・・・・)


ともあれこれ以上は考えても栓無き事。

こちらとしてはこの男に直接会えただけでも大きな収穫だ。

その後、先に自己紹介を受けたモウストとリットンを除いた14人全員分の自己紹介を長々と聞かされる事になったのだが、最初のバルキーを除いてそのほとんどがこちらに敵意を剥き出しにした内容だった。

最後の方などは酷い物で生きて地元に帰れないかもしれないとか背中には気を付けろなどあからさまな挑発の言葉まで織り交ぜてくる始末だった。

もっともその頃にはクロードの中での幹部達への評価は大方済んでおり、その中でも下位に当たる脅威として低いランクの者は名前以外はほとんど聞き流していた。

その隣では退屈そうにヒサメが欠伸を噛み殺す。


「鴉が。せいぜい焼き鳥にならない様に気を付けるんだな」


最後の1人が勇ましく捨て台詞を吐いて席に着くと、再びナレッキオが口を開く。


「どうだ小坊主。俺のファミリーは?」

「いや、流石はガルネーザファミリーの方々は勇ましい方が多いですね」


勿論、それは世事の言葉であり、実際は一部に優秀な人材がいる事以外は大した事ないとい集まりだというのが率直な感想だ。

特に序列が低い者程、ある種見栄の為に無理やり用意した人員の様に思えてならない。


(やはり幹部も数が多いだけでは駄目だな。ある程度中身が伴っていないと)


そう評価を付けたところでクロードはチラリとリットンとドルバックの方を見る。

想定外の事がいくつかあったが、目的に変更はない。


(後はここからどう動くかが問題だな)


この後、自分をナレッキオがどのように扱うかで行動方針が決まる。

おそらくこの場に自分を呼びつけたのもそういった意図が含まれているはず。

そう思って前を向いたクロードの目がナレッキオの視線と重なる。


「小坊主。お前この第八区画に視察に来たと言っていたが、具体的には何をするつもりだ?」

「そうですね。主には市場流通している商品の調査ですが、可能であれば国内でも5本の指に入るという第八区画東方にあるアバル工業地帯も見てみたいですね」

「ほう、あそこが見たいのか」

「ええ」


国内流通している加工金属の約28%を生み出しているされる大規模な工場が密集した地域がレベル工業地帯。

別に今後金属加工を生業にする予定はないしするつもりもないが、国内でも屈指の工場地帯と聞いているので折角だから一度見ておきたい。

ただ、あそこはガルネーザファミリーが管理しているので容易に入る事が出来ない。


「興味があるならば見せてやろう」

「本当ですか?」

「ああ、それだけでなく貴様が滞在している間はこの家の客間を貸してやるし案内役もつけてやる」


そう言って吸い終わった3本目の葉巻を灰皿に押し付けながらナレッキオが告げる。


「その代わり第八区画を視察する時には必ずウチの者を同行させる。そしてそれ以外の理由でこの屋敷から出る事は許さん」


どうやらナレッキオはこちらの行動を自分の管理下に置いて制限し、こちらが本当の目的を封殺するつもりらしい。

確かにこれならば普通の相手は何もする事が出来ない。


(流石にそう簡単に自由行動を取らせてはもらえないか)


むしろ当然の事だ。ここでクロードを自由に行動させるような愚者では組織の頭は務まらない。

何せこれはこれは悪党同士の化かしあいであり騙し合い。

そしてそれを出し抜く為にも相手の想定を上回る手を打つしかない。


「それはありがとうございます。ではお言葉に甘えさせていただきます」


立ち上がり恭しくナレッキオに一礼するクロード。

滞在中の監視という首輪がつけられたのは厄介だが、それ以外については活動に不自由する事はなく済みそうだ。

ここからはどうなるかは全てクロードの手腕一つに掛っている。

相手の懐深くへと飛び込んでいくクロード。

果たして彼の作戦はうまくいくのか?


余談ですが、一応ガルネーザファミリーの幹部16人分の簡単な設定は

考えましたが名前が出たヤツ以外ぶっちゃけ今のところ本編にほとんど絡まないので割愛しました。

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