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暗黒街で鴉と呼ばれた男と精霊術師  作者: イチコロイシコロ
第4章 策謀交錯の暗殺行
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想定外の遭遇者

喫茶店の前で馬車に乗り西に向かって移動する事約30分。

クロード達を乗せた馬車は目的地であるナレッキオ・ガルネーザの住まう屋敷を目前にしていた。


「あれが首領(ドン)ナレッキオの屋敷だ」


クロード達から見て右手側にある車窓から見える建物を指差しモウストが告げる。

モウストの指差した建物に目にしたクロードとヒサメはその姿に唖然とする。


「何・・・アレ?むぎゅっ!」


自然とヒサメの口をついて出た言葉にクロードは咄嗟に彼女の口を手で抑える。

だが、そう言いたくなる彼女の気持ちも分からないではない。

視線の先には高い塀に囲まれた広大な敷地の中に建つ2階建ての大きな洋館。

それだけなら大して珍しくもない。むしろそこそこ立派な造りの建物と言えるだろう。

問題なのは建物の造りではなくその"色"にある。

外壁から屋根に至るまで窓以外の全てが隙間なく一面金色に輝いていた。


(なんなんだあの悪趣味かつ成金主義を前面に押し出した様な家は?アレが首領(ドン)ナレッキオの屋敷なのか?)


組織の長とはどこか普通の人間とは違う異質な部分を持っているものだが、なんというかこれはどこか少し違う気がする。


(自己顕示欲の強い人物だと聞いてはいたがにここまでとは思わなかった)


周囲の景観との調和など一切無視したその輝きは、周囲の景色から完全に浮いており違和感しか感じない。

周りの景観だけじゃなく折角の立派な造りをした洋館の雰囲気までぶち壊しになっている。


「なんというかその・・・・凄く豪華(?)なお屋敷ですね」


どう褒めていいか分からず適当な世事の言葉でお茶を濁そうとするクロード。

そこへ口を塞がれていたヒサメがクロードの手をどけて口を挟む。


「目が・・・・チカチカ・・・する」


サラッと失礼な事を口走るヒサメに、クロードは慌てて彼女の口を塞ぐ。

言いたい事は非常によく分かるのだが今は向こうの関係者が目の前にいる手前、機嫌を損ねない様にしばし黙っていて欲しい。

とにかく言ってしまったものは仕方がない。

ひとまず詫びを入れておこうとクロードはモウストに向き直る。


「ツレが失礼な事を申しました。お詫びを」

「いや、気にしなくていい。オレも正直アレはどうかと思っている」


頭を下げるクロードを手で制し、モウストは苦笑を浮かべる。


「俺はみっともないからやめろと言ったんだがな」


そう言ってモウストはやれやれと首を振ると、懐からシガーケースを取り出し中からタバコを1本抜き取って口に咥える。

クロードは素早くライターを取り出すと慣れた様子で火を点け、モウストの前に差し出す。


「どうぞ」

「ああ、すまんな」


クロードの差し出した火でタバコに火を点けたモウストは深く煙を吸い込む。


「あんな屋敷でも何故かウチの若い連中の間では好評らしくてな」

「そうなんですか?」

「ああ、連中にはあの派手な金ピカがウチの組織の持つ富と力の象徴に見えるらしい。なんともバカバカしい話だがな」


そう言って自嘲気味に笑った後、モウストは下を向いて肺に溜め込んだ煙を吐き出す。


「ところでだクロード・ビルモント」

「はい」


先程まで聞いていた声とは明らかに違うモウストの声色。

直後、車内に漂っていた空気の質が一変する。

緩んでいた空気がピンと張った糸の様に張り詰めた様な感覚。


「そろそろお前さんがこの第八区画まで来た本当の理由を聞かせてもらえるか?」


そう言って視線を上げたモウストはマフィアの幹部らしい鋭い目をしていた。


(先程までとはまるで別人だな。いや、こちらが本性と見るべきか)


一目見た時から貫禄はあったが、今はあの時以上に目の前の男から圧力を感じる。

どうやら屋敷の近くに着くまで本性を隠していたらしい。

話が通じる相手と言っても相手は敵組織の幹部。そう甘くはない。

今になるまでこの話題を振ってこなかったのもタイミングを狙っていたのだろう。

クロード達を乗せた喫茶店の前では駅が近い為、逃げられる可能性もあった。

だがここまで来れば馬車以外の交通手段はなくクロードに逃げる術はない。

しかもガルネーザファミリーの拠点が近い為、荒事になっても増援が望める。

対してクロードは女1人連れているだけで他に味方はなく敵地の為に味方の増援を望む事が出来ない。


(なるほど。確かに普通の奴ならこの状況が出来上がった時点で追い詰められたとビビッてボロを出すかもしれないな)


自分達の首領と引き合わせる前にこちらを振るいに掛け様というのだろう。

相手の思惑は理解できるが、このような手は生憎とクロード相手に通用しない。

そもそもこんな程度でビビるぐらいなら最初からこんな所まで来てはいない。

なので何の動揺も怯みもなくモウストからの問いに応じる。


「先にも申しましたがこちらへは視察で参りました」

「そんな詭弁が通じると思っているのか?」

「詭弁も何もそれが真実ですので、他に理由と言われましても困るのですが」


困惑したような表情を作ってそんな事をのたまうクロード。

無論困ってなどいないし、今言った言葉も当然嘘だ。

それが分かっているからかモウストも追及を緩めない。


「信じられんな。今まで第八区画に対して直接手を出してこなかったビルモントファミリーが何故今頃になって人を寄越す。しかも次期幹部候補と目されている男を単身で」

「たまたま今までそういった機会がなかっただけですよ。それに幹部候補と言っても今はまだ組織の一構成員にすぎません」


謙遜するというよりどこか自信を卑下した様な言葉を吐くクロードに、モウストの表情が険しさを増す。


「馬鹿を言うな。組織の幹部候補にだって早々なれるものではない。それに例え幹部候補で無かったとしてもお前は"第七区画の鴉"。それだけで警戒するには十分だ」

「それは少し買い被り過ぎではないですよ」

「買い被る?それこそあり得ない話だ。この国の裏社会に生きている者で区画番号(セクションナンバー)を二つ名に冠する人間がこの国の裏社会でどういう存在なのか、それが分からない様な者はいない。それは当事者であるお前自身が良く知っていると思うが?」


モウストは自身の口に咥えたタバコを手に取ると、火の点いたタバコの先端をクロードへと向ける。

タバコを向けられたクロードの方はと言うと面倒臭そうに視線を逸らす。


「この国を構成する9つの区画で各区画を仕切る9つの組織。この国の強者達が集う裏社会の中で通り名を持つ者は数多居るが、その中でも区画番号(セクションナンバー)を付けて呼ばれるのは各区画において最も強き者のみ」

「そんなのものはただの噂ですよ。第一どこの誰が広め始めたか分からない眉唾話じゃないですか。モウスト殿程の方が振り回される様な話ではないと思いますが?」


ヤレヤレと首を振り少し呆れた様子で答えるクロードにモウストは差し向けたタバコを己の口元に戻す。


「確かにそうだな。だが俺はあの噂が間違っているとは思っていない。現にウチの"第八区画の野猿"は間違いなくこの第八区画(イプシロス)で最強の男だ」

「バファディ・ガルネーザ。首領(ドン)ナレッキオの三男ですね」

「そうだ。ヤツは恐ろしく強いぞ」

「噂には聞いています」


クロードも自身と同格に扱われている8人については日頃から情報を集めている。

ガルネーザ・ファミリー最強の男にして強盗、殺人、誘拐、強姦、世間に置いておよそ悪事と呼ばれる物事には全て手を染めてきた生粋の悪党。

ただその戦闘能力の高さは評価されているが、性格が傍若無人で度々組織の意向を無視して暴走を繰り返しており、早い段階で後継者候補からは外された。

本来なら組織から絶縁されていてもおかしくない様な男だが、その戦闘能力だけは利用価値がある為、今も組織の末席に名を連ねる事が許されている。

ただ今は半年前に政治家の娘を暴行の末に殺害した件で国から追われており、行方を眩ませている。


(まあ、ヤツがいないと知っているからこそ今回乗り込んできた訳だが)


あくまでもクロードの勘だが相手の性格から考え鉢合わせればまず衝突は避けられないだろう。

そう思ってあらかじめバファディの現在の所在は調べておいた。

バファディは現在、父親であるナレッキオからの命令で今回の事件のほとぼりが冷めるまで国外に出ており、今は南西部の国々を巡る犯罪行脚を繰り広げているらしい。

位置関係から考えてもクロードが滞在している一週間の間に戻ってくる事はない。


「"第七区画の鴉"の実力は噂程度でしか知らないが"第八区画の野猿"の実力はよく知っている。ヤツと同格の男が単独で敵地であるこの街に乗り込んできた。その事実だけで何かあると考えるのは当然だ」


モウストの言い分も分からないではない。

自分が逆の立場だったとしても間違いなく警戒するだろう。

だからと言って「はい、その通りです」答える訳にはいかない。

こちらとて相手に警戒される事等は百も承知の上でこの場にいる。


「仰る事は分かりました。ですが何度聞かれても答えは変わりません」

「あくまでも白を切り通すか」

「どう思われるかはそちらの判断にお任せします」


会話が途切れ2人は向かい合ったまま静かに視線をぶつける。

しばしの沈黙の後、ガタンと音を立ててクロード達を乗せた馬車が揺れる。

窓の外を見ると馬車は金色に輝く建物の入り口前に乗りつけていた。

どうやら話をしている間に屋敷に辿り着いたらしい。


「・・・着いたか」


ボソリと呟いたモウストはしばし黙った後、重たい溜息を一つ吐く。


「着いたなら仕方ない。話はこれで終わりだ」


手に持ったタバコの火を消してモウストが立ち上がる。

直後に外から黒服が馬車の扉を開き、開かれた扉の向こうへとモウストが降りる。

馬車を降りたところで、モウストはこちらを振り返る。


「クロード・ビルモント。最後に1つ忠告だ」

「なんでしょう?」

「何をするつもりで来たかは知らないが、あまり下手な真似はしない事だ」

「肝に銘じておきます」


礼を述べるクロードにモウストは冷めた視線を向けた後、それ以上何も言わずに屋敷の中へと入っていった。

そのすぐあと、建物の中から新たな黒服がやってきて馬車の出口の前に立つ。


「クロード・ビルモント殿。首領(ドン)ナレッキオがお待ちです。ご同行頂けますか?」

「分かりました」


黒服に呼ばれたクロードは置いてあった自身の荷物とヒサメの荷物を手に取り馬車を降りる。


「荷物はこちらでお預かりします」

「分かりました。お願いします」


傍に立っていた黒服に荷物を預けて、クロードは案内役の黒服に先導され屋敷の玄関を潜る。

クロードとヒサメが広いロビーに出ると入り口横にあるスペースで数人の男がタバコ片手に談笑していた。

クロードの姿に気付いた男の1人がこちらに視線を向けてきてクロードと目が合う。

相手の顔を見た瞬間、思わずクロードの足がその場で止まる。

別に相手と顔見知りだったからではない。

ただ、その男達が襟元に付けている銀色の襟章をクロードは見過ごす事が出来なかった。


第三区画(ロシュナビルト)サベリアスファミリーの襟章だと!)


ここに来て全く予想していなかった勢力の登場にクロードは思わず動揺する。

それもそのはず、今まで集めてきた情報の中にガルネーザファミリーとサベリアスファミリーを結び付ける様な情報は一切なかった。


(何故サベリアスの人間がここにいる)


意表を突かれて動揺するクロードの気持ちを知って知らずか、サベリアスファミリーの襟章を付けた男がにこやかな頬笑みを浮かべこちらへと歩み寄ってくる。


「貴方がクロード・ビルモントさんですね」

「・・ええ、貴方は?」

「はじめまして、私はキャトル・マキウィ。サベリアスファミリーにて幹部補佐をしている者です」


キャトルと名乗った男の登場により、ここにきてクロードの計画に暗雲が漂い始める。

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