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No.2と囲む食卓

クロードの家で気まずい空気の中、食卓を囲む面々。

やはり人間である以上どんな状況であろうと腹は減るものだ。

元々腹を空かせていたダリオだけでなく今回の一件に巻き込まれたロック達も手当たり次第にテーブルの上に並べられた料理に次々手を伸ばす。

おかげであれだけ大量にあった料理も今やほとんど残っていない。


「いや~、やっぱ兄貴の所で食うメシはうまいっすね」

「アイラさん。もしかしてまた料理の腕を上げちゃいました?」

「こっちはルティアちゃんが作ったの?」


先程の出来事等まるでなかったようにすっかり忘れて呑気に飯を食うロック達。

その隣では食事を終えたダリオがテーブルの手に持っていた湯呑みを静かに置く。


「ごちそうさん。中々うまかった」

「はぁ、どうも恐れいります」


ダリオの褒め言葉にも適当な返事を返すアイラ。

彼女にとっては自分の料理への評価よりも食事の間ずっと沈み込んでいるクロードの方が気掛かりだ。


「大丈夫ですか旦那様?」

「ん?ああ、料理ならうまいぞ」


まるで的外れな返事をするクロードにアイラが心配そうな顔をする。

さっきからずっとこの調子で何かを話掛けてもどこか上の空だ。

先程の出来事で最初の内はドンヨリとした空気が漂う程落ち込んでいたのだが、今はそれとも少し違っている様に見える。

まるで何か他の事を考え事をしているように見えるが、何を考えているかはまるで分からない。


「それにしても驚いたぞクロード」

「えっ?なんです叔父貴?」


ダリオに名を呼ばれて顔を上げたクロードは思わず相手に聞き返す。

未だ心ここにあらずといった様子のクロードにダリオはニヤリと口の端を吊り上げて笑う。


「この俺にあれだけの啖呵きるとはあの時から随分と成長したじゃないか」

「ウグッ!」


ダリオの言葉に過去の出来事を思い出したクロードは言葉を詰まらせ僅かに視線を逸らす。

いつもとまるで違うクロードの反応に、周囲の全員がダリオの言葉に関心を示す。


「あの時って、昔お二人の間になにかあったんですか?」

「その辺の事、是非詳しく聞きたいわね」

「なんだお前達、おっさんの昔話に興味があるのか?」


傍目に見ても分かる悪い顔で尋ね返すダリオ。この男、完全に分かった上で話を振っている。

もちろんそれは他の者も分かっているが、この場では自制心よりも好奇心の方が勝った。


「凄く・・・興味ある」

「ダーリンの昔話なんて滅多に聞けないからね」

「俺達も聞きたいっす!」

「おい、ちょっと待てお前等!」


ダリオの提案に予想外の喰いつきを見せる他の面々にクロードは今まで見せた事のないような焦った顔をする。

余程聞かれたくないらしく明らかに狼狽えるクロード。

しかし、そんなクロードを見てますます面白がったダリオは話をやめようとしない。


「そうだな。あれから随分と時間も経った事だし問題ないか」

「やった!」

「ありがとうございます。ダリオさん」

「何、ほんの飯の礼だ」


普段滅多に笑顔など見せないダリオはそう言って軽く微笑む。


「ただし、あくまでここだけの話だ。絶対に他人に話してくれるなよ」

『はいっ!』

「ダリオの叔父貴っ!」


過去の話を暴露されそうになっていよいよ焦りだすクロードだが、今の彼にダリオの話を止める術はない。

何もできずにいるクロードの前でダリオは過去の出来事を語り始める。


「かれこれ10年近く昔の話だが、実はメリッサお嬢が一度誘拐された事がある」

「えっ!」

「嘘!」

「まさか!」


いきなり知らされた衝撃の事実に全員が思わず椅子から立ち上がる。


「一大事じゃないですかソレ」

「でもそんな話今まで聞いたことが無いっすよ」

「それは当然だ。外に漏れたらそれこそ一大事だからな。だからこの事件の事はファミリーの幹部と一部の古参メンバーしか知らない」


そう言ってダリオは懐から金色のシガーケースを取り出すと、中からタバコを一本取って口に咥える。

すかさず隣に座っていたバーニィがライターを取り出し、その先端に火を点ける。


「しっかし、命知らずですね。一体どこのどいつです?そんな真似をしたの」

「犯人は親父の屋敷に雇っていた3人の使用人だった。丁度その時ウチと対立していた新興の組織があってな。そこの人間が紛れ込んでいたんだ」

「なるほど。それでその後はどうなったんすか?」

「ファミリーの幹部である俺、フリンジ、リッキードと親父で奴等のヤサに乗り込んでお嬢を救出。攫った奴等は1人残らず冷たい土の下だ」

「ヒュ~ッ!流石っすね」


バーニィの言葉に大きく頷くロックとドレル。

クロードは現場でその光景を見ていたが、言葉で言うほど生易しい話じゃなかった。

敵組織の規模はかなりのもので、メリッサが捕らえられた場所には500人近い人数が集められていた。

それをほぼ幹部とアルバートのみで一方的に掃討していった。

特にアルバートの勢いは凄まじく。彼の周りは一面血の海となっていた。

後にも先にもあれ程に怒り狂った養父アルバートの姿をクロードは見た事が無い。


「でも、その事と旦那様がどう関わってくるんですか?その頃は確かまだファミリーには入っていなかったはずですが」


核心を突くアイラの質問に、ダリオは深く吸い込んだタバコの煙を吐き出す。


「その当時からクロードは頭だけはよく回る小賢しい小僧だった。事件の後すぐに僅かな手掛かりから犯人を割り出して追い詰め、お嬢の居場所を吐かせたんだ」

「なるほどね」

「流石は旦那様です」

「クロ・・・カッコイイ」

「ダーリンは若い時から凄かったんだな」

「・・・・」


皆から賞賛の声が上がるが、当のクロード本人は暗い表情のまま俯いている。


「それってお嬢の監禁場所をダリオの叔父貴達に報せて、お嬢の救出に一役買ったって事ですよね」

「いいや違う、コイツは無謀にもその後、単独で敵のアジトに乗り込んでいった」

『はあっ!』


今の冷静なクロードからは想像もできない無謀な行動に全員から驚きの声を上げる。


「いやいや、いくらなんでもそれは・・・」

「無茶でしょ。どう考えても」

「クロ・・・無計画すぎ」


若気の至りでは済まされない程の見事な暴走っぷりに皆が呆れた様な目を向ける。

その視線に穴があったら入りたいぐらいの気持ちに苛まれるクロード。


「叔父貴、その話はもうこの辺で・・・」

「まだ話足りないな」

「そんな・・・」


ダリオの言葉にガックリと肩を落とし首を垂れるクロード。

過去の事とはいえ若い日の自分の無鉄砲振りを晒されたクロードは恥ずかしさと情けなさのあまり、もうまともに顔を上げる事も出来ない。

しかしまさかこんな所で過去の恥を暴露される事になるとは思わなかった。


(あの頃、アジールの力を得ていくつか術を使えるようになっていい気になっていた。だから自分1人の力で何とかできると勘違いしていた)


星神器の力とアジールの力。この2つがあれば何でもできると思い込んでいた。

何より自分はもう無力じゃないと自分で自分に確かめたかった。

アルバートに拾われる以前、どうしても守りたかった人を自分の手で守る事が出来なかった。

だから新しく出来た家族は今度こそ自分の手で守って見せるという思いがそうさせた。

だが、その結末は思惑と違って実に不甲斐ない物だった。


「それで結局どうなったんですか?」

「結構いい所まで敵を追い詰めたみたいだが、結局はお嬢を盾にされて袋叩きにされた。で、後から来た俺達にお嬢と一緒に助け出された」

「そりゃそうでしょう」

「無謀が過ぎるってもんです」


人質が居なければクロード1人でも勝てる可能性はあったかもしれない。

しかし結果としてはダリオの言う通りクロードは為す統べなく半殺しにされ、ダリオ達に救出された後もしばらくは病院のベッドの上で過ごすという散々な目に遭った。

思えばダリオとまともに会話をしたのはあの時が初めてだったかもしれない。


「兄貴にもそういう時代があったんですね」

「少し・・・意外」

「本当ね」

「人に歴史ありですね」

「うるさいぞお前等」


好き放題行ってくれる周囲の面々に反論の声を上げるも勢いはない。

全て本当の事だけあっていつもの様に強気に出る事が出来ない。

せいぜいダリオに恨みがましい視線を向けるのが関の山。

もっともそんなクロードの視線も、ダリオにとってはそよ風程度のもの。

まるで意に介さないどころか嘲笑の笑みすら浮かべて見せる。


「ちなみにその一件以来、メリッサお嬢はクロードにベッタリという訳だ」

「ああ~、それであんな"酷い"ブラコンに」

「ずっと不思議だったけど、そういう理由があったんすね」

「まだ小さかったはずなのによくそんな出来事覚えてますよね」

「そうだな。よっぽど印象深かったんだろう」


クロードの義妹。メリッサの人柄を知る男連中が何度も首を振って頷きあう。

その頃、アルバート屋敷ではメリッサがヘクチと可愛らしいくしゃみをしていた。


「誰か噂をしてますわね。・・・ハッ!まさかクロードお兄様!」

「お嬢様、そんな薄着だと風邪をひきますよ」

「・・・分かってるわ」


使用人に窘められたメリッサは差し出されたカーディガン上着を受け取る。

事件以降、専属護衛以外にもファミリーの人間が24時間3交代制で見回る様になったアルバートの屋敷の中は今日も実に平和だった。


「クロードさんの妹さんの気持ち。なんだか分かる気がします」

「いや~、どうだろう。多分ルティアちゃんは分かってないと思うよ」

「そんな事無いですよ。クロードさんみたいなカッコイイよくて頼りになるお兄さんが居れば誰だって甘えたくなりますよ」


ロックの言葉を不服に思い反論するルティアに、ロック、バーニィ、ドレルの3人は顔を見合わせると何とも言えない複雑な表情を作る。


「う~ん、そういうのとは違うんだよなぁ」

「ああ、メリッサお嬢の"アレ"は一般人が理解しちゃいけない類のものだと思う」

「メリッサお嬢はかなり"特殊"だからな」

「どういう意味ですか?」


彼等の言っている事が理解できないと言った様子のルティア。

そんな彼女を周囲の大人達は微笑ましくも温かい目で見守る。


「しかし世の中分からないものだな。まさかあの目つきの悪くて生意気なだけだったガキが幹部に推薦される程の男になるとはな。俺も歳をとる訳だ」

「ダリオの叔父貴。もうそろそろ勘弁してください」


完全にメンタルをやられてグッタリとした様子のクロード。

だがダリオはクロードの願いを聞かず首を左右に振る。


「駄目だ。これは罰だからな」

「罰?」

「そうだ。俺の仕掛けに気付くかなかった罰だ。そもそも俺が本気で親父の言葉に背くとでも思ったのか?ファミリーの中でもっとも親父の傍で親父の理念を学んだこの俺が」

「ぐっ、それは・・・」


そう言われてしまうとクロードにはもう返す言葉もない。

仁に厚く、義を尊ぶ第七区画屈指の侠客であるアルバート・ビルモント。

クロードが尊敬する養父が自身の右腕として選んだ男が簡単に裏切る様な人物かどうか見極める事が出来なかった自分が悪い。


「分かりました。その罰は甘んじて受けます。ですがダリオの叔父貴。その前に一つ確認させてください」

「なんだ?」

「ルティア嬢が工作員として疑われているという話、アレは本当ですね?」

「・・・どうしてそう思う」


先程までの気の抜けたやり取りとは打って変わって真剣な表情になる2人。

そんな2人の空気に呑まれて周囲も自然と静かになる。


「ダリオの叔父貴は、工作員の話をした後にも関わらず昔のメリッサ誘拐の話をしました。ファミリーの部外者であるルティア嬢が居るにも関わらず」

「聞かれたから話をしたまでだ」

「叔父貴がそんな軽率な真似をするとは思えません。むしろこれも策の内だと考える方が自然です。そこで叔父貴がこの場でルティア嬢にこの話を聞かせる意味を考えました」

「ほう。で、その話を聞いてお前の出した答えは?」


タバコを指先に挟んで煙を燻らせるダリオの問いにクロードは正面から答える。


「敢えてこの話を聞かせてルティア嬢がどう動くか見るつもりだった。そう考えます」

「なるほどな」


ダリオは口の端を吊り上げて笑うと、持っていたタバコをテーブルの上の灰皿に押し付ける。


「実にいい読みだ。で、それをバラしてお前はどうするんだ?」

「ルティア嬢に疑いが掛かっているというのなら、その疑いを晴らそうかと考えています」

「クロードさん・・・」


クロードの言葉に感極まるルティア。その肩をロックがポンポンと叩く。

答えを聞いたダリオはただ静かにクロードを見据える。


「そうか。なら好きにしろ」


言いたい事は全て言ったと言わんばかりのダリオは椅子から立ち上がる。

そんな彼を前にアイラが穏やかな笑顔を向ける。


「ダリオさん。ご心配には及びませんよ。もし、ルティアさんが旦那様にとって災いになりそうなら、そうなる前に私達で処分しますから」

「・・・えっ?」


アイラの口から淀みなく発せられた言葉にルティアとロック達3人の表情が固まる。

一瞬、アイラが何を言っているのか分からず思わず彼女の方に視線を向ける4人の前でグロリア達が彼女の言葉に続く。


「そうね。アイラの言う通りだわ」

「敵は・・・抹殺」

「逃げても地の果てまで追って捕まえるから安心してよ」


アイラに続き、グロリア、ヒサメ、シャティまでが似た様な言葉を口走る。

まるでそうする事が当たり前だと言わんばかりのアイラ達にダリオも思わず苦笑する。


「随分と愛されてるな。クロード」

「その過剰な愛ってやつのせいで毎日気苦労が絶えませんがね」


思わず溜息を漏らしたクロードは椅子から立ち上がるとダリオを見送るべく共にリビングを出る。

その後に続いてアイラ達も椅子から立ち上がり、部屋を出ていく。

そうして結局、その場に取り残されたのは固まったまま動けなかったルティアとロック達3人。


「私、もしかして凄く危険な場所に御厄介になってるんじゃ・・・」


今更ながら自分の住んでいる場所の危険性に気付くルティアは隣に座っているロックに視線を向ける。

ロックはしばし答えに困った顔をした後、精一杯の笑顔を作ってこう告げる。


「なんていうかその・・・ドンマイ」


何の役にも立たないロックからの励ましの言葉にルティアはしばし呆然とするのだった。

気付けば50話を突破。

これも読んで頂いている皆様のおかげです。

まだまだ話は続いていくので次回もお楽しみに

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