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幹部となる為に

コルティ物産の社長、モンテスとの会談から1週間が過ぎた。

ボルネーズ商会の事務所、クロード、フリンジ、ラドルという社の役員を始め、ロック達3人といった社の主だったメンバーが会議室に集まっていた。

今日は各自が抱えている業務報告の日、今はドレルが配った資料の説明をしている最中だ。


「という訳で、次回の運輸警護についてですがラドル常務を中心としたメンバーで編成したプランで進めようと思います」


そう言って手持ちの資料を読み終えたドレルが席に着いた後、フリンジが眼鏡を直しながら手元の資料をテーブルの上に置く。


「おう、ドレルよ」

「はいっ!」


社長であるフリンジの重低音が室内に響き、その言葉に思わず背筋を正すドレル。

彼の動きにつられて両隣のロックとバーニィも身を竦ませる。


「内容については概ねこれで問題ねえが、一つだけ注文がある」

「なんでしょうか叔父貴?」


何か不備でもあったのだろうかと緊張の面持ちを浮かべるドレル。

普段こういった事にあまり注文を付けないフリンジだけに、ドレルを含めその場に居合わせた若手衆が緊張で思わずゴクリと生唾を呑み込む。


「別に大したことじゃねえ。今回の警護メンバーからラドルを外して誰か代わりを立てろってだけの事だ」

「おいおい、どういう事だよ親父」


フリンジの言葉に早速異議を唱えるラドル。

彼としてここ数年ライフワークにしている輸送警護の仕事に口を出されるのには不満がある。


「いくら親父でも俺の仕事の予定を勝手に変えないでほしいんだが?」

「うるせえぞラドル。会社にいる時は社長って呼べといつも言ってんだろうが馬鹿野郎」

「んな事はどうでもいいんだよ。それより理由を聞かせろよ親父、納得のいく理由を」


父親相手に強気の態度で臨むラドルに、彼の部下達も同じ様な視線を向けてくる。

この反応もフリンジからしてみれば予想通り。

なのでフリンジは社長らしく堂々と胸を張って腕組みをする。


「まったく、仕方のねえ野郎共だ。そこまで言うなら納得のいく理由を聞かせてやるから耳の穴をかっぽじってよ~く聞きやがれ」


社長らしく威厳たっぷりに言い放つフリンジに、その場にいる全員が彼の次の言葉を待つ。

全員の意識が自分に向いたのを確認したフリンジはニヤリと悪い笑顔を浮かべ、全員に聞こえる様に宣言する。


「今度開かれるファミリー幹部会でウチのクロードを正式に幹部に推薦する事になった」


フリンジの言葉に室内が一瞬シンと静まり返った後、大きな歓声が沸き上がる。


『おお~っ!』

「ほぉ、遂にこの時が来たって事か」


俄かに騒ぎ出す社員達の中で、ラドルも父と同じ様に腕組みをして小さく頷く。

ラドルとしてはいつかこの日が来る事は予想していたので左程驚きはない。

代わりに他の社員連中が彼の分まで驚きと歓喜に沸き立つ。


「マジなんすかフリンジの叔父貴!」

「本当だ。後、社長だっつってんだろうが馬鹿共!」

『すいません!』

「遂にウチから幹部が出るのか!」

「いつかこうなるとは思ってたんだよ」

「うっひょ~!クロードの兄貴カッケェっす」


本人以上に盛り上がる周囲に、クロードは少しだけ苦笑いを浮かべる。

本当のところ自分の事でここまで若い連中が喜ぶとは思っていなかった。

なんだか申し訳ないような気恥ずかしいような複雑な心境だ。


「まあそういう訳だ。お前等も分かってると思うがクロードが幹部になったらここを離れる事になる。だから今の内から仕事の引き継ぎなんかの準備をしておかねえとならねえ」

「まっ、そういう事なら仕方ねえな」


フリンジの語った理由に十分に納得できたラドルは椅子の背もたれに体重を預ける。


「すまないなラドル」

「な~に、いいって事よ。いずれはこうなるってのは分かってた話だからな」

「そうなのか?」

「当然だろ。お前はこんな小さな会社で終わる様な器じゃねえよ」


恥ずかしげもなくそんな事を言うラドルにクロードは指先で頬を掻く。

ラドルやフリンジを始めとして、どうもクロードの周りにいる人間はクロードの事を買い被りすぎだという気がしてならない。

確かに努力はしてきたが、別に自分1人の力でここまで来たわけではない。

全ては出会いや環境に恵まれた結果だとクロード自身は思っている。


(まったく、皆して俺の事を持ち上げすぎだ)


身に余る周囲からの評価に正直どう答えていいか分からない。

この稼業を始めた当初、周囲にこんな風に思われる等まるで予想もしていなかった。

ラドルとの関係性等その事を象徴する最たるものだ。

今でこそ無二の親友と呼べる彼だが、出会った当初は2人の仲は非常に悪かった。

正確には仲が悪かったというよりラドルがクロードの事を一方的に嫌っていたというのが正しい。

突然ファミリーの首領であるアルバートが自身の新しい息子として連れてきたクロードの事をラドルは当初認めてはいなかった。

ラドルの目にはクロードが何の苦労もせずに楽して良い環境や待遇を手に入れたクソガキに映っていたのだろう。正直その気持ちも分からないではない。

ともあれ最初の内は会う度に因縁をふっかけられて2人は喧嘩ばかりしていた。

当時のクロードとラドルではラドルの方が強く、クロードの方がいつも負かされていた。

腕に覚えがあったとはいえ人間が鬼族を相手に勝つのはかなり無理があり、むしろそうなる事が当前の帰結だった。

それでも、何度負かされても立ち上がってくるクロードの姿に、少しずつラドルも彼の事を認め始め、いつしか2人は互いを認め合う友となっていた。

まるで昔の少年漫画のような話だが、こういうシンプルなやり方が2人には合っていた。

その後、クロードがファミリーの一員となって以降はよく2人でつるむようになり、これにラビも加えて3人でよく地元の荒くれ者共を相手に暴れ回った。


(懐かしいな。あの頃は随分な無茶をやらかしたもんだ)


当時の事を考えると随分と命知らずな日々を送ってきたものだと思う。

過去の事を思い出して笑みを浮かべるクロードにラドルが不思議そうに尋ねる。


「どうかしたか?」

「いや、あのラドルにまさかこんな事を言われる日が来るとは思わなくてな」

「おいおい、そいつはどういう意味だよ」


そう言ってラドルはゲラゲラと大声で笑い出す。彼のこういう明るく豪快な所は昔と変わらない。

こんな彼だからこそついてくるという下の者も多いので、多少抜けている部分はあってもラドルに後任を任せる事に左程不安はない。


「ドレル。そういう話じゃ仕方がねえ。悪いがもう一度警護メンバーの組み直しを頼むぜ」

「分かりましたラドルの兄貴」


ラドルの言葉にドレルもコクリと頷き返し、すぐに手元の資料に今の話を書きこむ。

もう既にクロードが幹部に決まったかのような盛り上りを見せる周囲に、クロードは苦笑気味に言葉を挟む。


「まあ、まだ幹部になると決まった訳じゃないからもう少し落ち着け」

「何をズレた事を言ってやがるクロード。話が上がった時点でもうお前が幹部に決まったようなもんだろ」

「そうですよクロードの兄貴」


ラドルと舎弟達が即座にクロードの言葉を否定する。

珍しく自分の意見を否定する彼らにクロードは思わず目を丸くする。


「そんな事はまだ分からないだろ?」

「いやいや、決まり以外ありえないだろ。幹部であるウチの親父にリゲイラの叔父貴、後はカロッソさんは間違いなくクロード派だろうし」

「何だよクロード派って」


自分達より立場が上の人間で勝手に変な派閥を作らないでほしい。

そんなクロードの思いとは裏腹に周りの面々はラドルの言葉にうんうんと頷いている。

何故かフリンジまで同じ様に頷いているから困ったものだ。


「何よりお前は首領の息子だ。反対意見なんて出ないだろ」

「俺は養子だ。カロッソ兄貴とは違う」

「んな事は皆知ってるっての。それでもだ」

「反対意見の有無についてはなんとも言えないが、まあ心配はないだろう」


何の根拠のないラドルの発言をフリンジが捕捉し、他の者もその考えを支持する。

こういう時に限って訳の分からん一体感を醸しだす面々に頭が痛い。


「そんな簡単にいく訳ないでしょう。少なくともアシモフの叔父貴とシェザンの叔父貴は絶対に反対するでしょうし」


組織の幹部である猪熊族のアシモフとエルフ族のシェザンはアルバートに対して絶対の忠誠を誓っているが、アルバートの血族でないクロードの事を余所者と嫌っている。

ただ嫌っているだけならまだいいが、過去に手下を使って命に関わるレベルの嫌がらせも仕掛けてきた事があるので油断ならない。

他の幹部がこちらにつくにしても、あの2人が今回の件をすんなり認めるとは思えない。

何かしら仕掛けてくることも考えておいた方がいいと思う。

そんなクロードの心配なぞ気にも留めず、ラドルが拳を振り上げる。


「あの2人がなんだってんだ!」

「そうだぞクロード。あんな脳筋バカと目つきの悪いエルフなぞ放っておけ」

「いやいや、放っておけるわけないでしょ。相手は幹部なんですから」


社内で身内しかいないとはいえ同じファミリーの幹部の悪口を大声で言うのはやめてほしい。

自分も含め他の社員も流石に反応に困る。


「何だよ。もしかしてもうビビってんのかクロード?」

「あん?そんな訳ないだろ」


ビビっていると言われクロードの心中は穏やかではない。

真っ当な人間らしく振る舞ったところで彼もマフィアだ。

他人に舐められて良い顔出来る様な心根は持ち合わせていない。


「すんなり幹部になれるとは思っていないだけだ。俺自身は幹部になるつもりでいるし、親父からも幹部になれと言われている。当然、獲りにいくさ幹部の椅子を」


淀みなく言い放つクロードの言葉にその場にいる全員が再び沸き立つ。


「へへっ、それでこそだぜクロード」

「カッコイイっす!クロードの兄貴!」

「俺達もこのままじゃいれられねえな」

「ああ、もっとこの商会を盛り上げていかねえとな」


クロードの発言で社員全員の士気が急激に高まっていくのを見てフリンジが満足そうに笑う。

その笑顔を見てクロードはフリンジが最初からこうなる事を期待してこの話をしたのかもしれないという考えに行き付く。


(フリンジの叔父貴も幹部の1人だ。そのぐらい考えても不思議ではないか)


自分達の上に立つ幹部と呼ばれる人物の腹の底の読めなさを垣間見てクロードは自分もまだまだだなとどと思う。


(この人達と肩を並べても恥ずかしくない様に俺ももっと精進しないとな)


これから自分が進もうとしている幹部の道はきっと今まで以上に過酷な茨の道となるだろう。

それでもその道を行くと決めた。だから行く。

全ては救われた恩に報いる為に、そして大切なものを守っていくために。


(そう、俺はただ突き進んで行くだけ。邪魔する者があれば何であろうと関係なく全て排除するだけだ)


この日この時を境にクロード・ビルモントにとって本格的な戦いの日々が始まる事になる。

それはやがて暗黒街に君臨し、闇の世界の頂点に立つ事になる男の長く険しい戦いの日々の始まりとなる事をこの時はまだ誰も知らない。

新年あけましておめでとうございます。

区切り良く新年1発目の更新で新章開幕となります。

今後ともお付き合いの程よろしくお願い致します。

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