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暗黒街で鴉と呼ばれた男と精霊術師  作者: イチコロイシコロ
第2章 鴉のビジネスライフ
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そして今日も仕事を終える

高級クラブ「バタフライガーデン」の前で馬車に乗り込むモンテスとヨーザ。

酒酔いと嘔吐のし過ぎでグッタリとなったヨーザを座席奥に押し込んだモンテスが見送りに出た一堂に頭を下げる。


「今日はいい夜を過ごさせてもらいました」


感謝の言葉を述べるモンテスにクロード達もまた頭を下げて応じる。

その中からリゲイラが一歩前に進み出て、モンテスに深く頭を下げる。


「モンテス社長ぉ。この度は折角当店にお越しいただいたのに私共の不手際でご不快な思いをさせてしまった事をお詫びしますわぁ」

「いや、大丈夫。今日はむしろ良くして頂いたおかげで楽しい時間が過ごせましたよ」


オカマ口調で語り掛けてくる厚化粧のマッチョに引き攣った笑顔で答えるモンテス。

どうやらまだリゲイラという人物には慣れないらしい。

何せ年に数回は顔を合わせているクロード達ですら未だに直視するのは勇気が居るぐらいなのだからそれも当然の事と言えるだろう。


「そう仰って頂ければ救われます。もし次回またご来店頂けるようでしたら今回の事のお詫びも兼ねて精一杯のおもてなしもさせて頂きますわぁ。もちろん、お値段の方もお安くさせて頂きますのでぇ」

「そっ、そうですか。なら是非また伺わせて頂きますよ」


貴方がいない時にという言葉を喉の奥に封じ込めて必死の作り笑いを浮かべるモンテス。

リゲイラに詰め寄られて困った様子のモンテスを見て、つい先刻意識を取り戻したラドルが痛むこめかみの辺りをさすりながらリゲイラに声を掛ける。


「リゲイラのお・・・じゃなくて姐御、あんまり引き留めると社長さんも帰り辛いと思うんで、そのくらいにして貰えませんか」

「そうねぇ~あまりお引止めしても悪いわよね~ところでラドルゥ~」

「はい?」

「お前今、俺の事をまた叔父貴って言おうとしたか?」


振り返った顔が笑顔から一転して鬼の形相となるリゲイラに本物の鬼であるラドルが震え上がる。


「まっ、まさか、そんな訳ないじゃないっすか、お美しいと言おうとしたんですよ」

「あらぁ、そうなのぉ?じゃあ、なんでおまえ途中で言うのやめたんだよゴルァ。美しいと思ったらちゃんと美しいって言えよテメエ」

「いや、それはえっと・・・」


うまく切り返したつもりが自分の言葉で墓穴を掘って窮地に立たされるラドル。

オロオロと四苦八苦するラドルとドスを効かせて問い詰めるリゲイラ。

2人のコントの様なやり取りを無視してクロードがモンテスに歩み寄る。


「モンテス社長。本日は遅くまでお付き合い頂きありがとうございました」

「こちらこそです。ビルモント専務」

「今日は予期せぬトラブルもありましたので、仕事とは別にまた改めてお誘いさせて頂いてもよろしいですか?」

「ええ、それについてはこちらからも是非お願いします」


そうして2人は次の飲み会の約束を交わしモンテスは馬車へと乗り込む。

馬車がいよいよ走り始める時、リゲイラと店のキャストが一糸乱れぬ揃った動きで前に出ると馬車に向かって一礼する。


『お客様。またのご来店をお待ちしております』

「ハハハッ、参ったな。こんなに綺麗なお嬢さん達に見送られる日が来るとは思わなかった」


愉快そうな笑い声を上げ、見送りに対し軽く手を上げて応えるモンテス。

見送りの中、上機嫌な様子のモンテスを乗せた馬車はゆっくりと走り出し、まだ多くの人で賑わう深夜の通りへ走り去っていった。


「終わりましたね」

「ああ、とりあえずなんとかなったか」


見送りを終えたクロードとロックの2人は解放感から安堵の溜息を吐く。

これでやっと一日の仕事が終わり、家に帰る事が出来る。


(最後に予想外の波乱はあったが、結果オーライといったところか)


おかげで予想していたよりも今後の話がすんなりと進みそうだ。

クロードの読みではモンテスとの取引を成立させるまであと数日は要する予定だった。

戦鬼達の乱入はそういう意味では良い結果に結びついたと言える。

だからと言ってあの戦鬼達を許す気は毛頭ないが、結果的に自分の役には立ったのでもう怒りはない。


(どの道リッキードの叔父貴の鉱山で最低でも十年は穴掘りだ。償いとしては十分だろう)


どの道彼らが行くであろう鉱山は元々ファミリーに逆らった連中への制裁用の施設。

最初から生かして帰すつもりがない為、基本的に超がつく程過酷な労働環境。

連れていかれた戦鬼の内の何人かは生きて娑婆に戻る事はないだろう。

もっとも行った先で彼等がどうなろうとクロードの知った事ではない。

全ては彼ら自身の行いが招いた結果であり、自業自得だ。


「さて、それじゃ帰るかロック」

「そうっすね」


そう言って立ち去ろうとする2人の肩を、背後から現れた何者かの手が掴む。


「お前等、俺のこと忘れてねえか?」


そう言って2人の間からヌッと顔を出したのは青白い顔をしたラドル。

どうやら無事(?)にリゲイラの下から生還する事が出来たらしい。


「なんだ、生きてたのかラドル」

「てっきり殺されたかと思いましたよ」

「・・・酷くねえかお前等」


酷いも何も自分で蒔いた種なのでキッチリ自分で処理してほしい。

でないととばっちりでクロード達にまで被害が及ぶ。


「あらぁん。何の話をしてるのあなた達ぃ」


クロードの顔のすぐ傍で気色の悪い声を出すリゲイラにビクッと肩が跳ねる。

一体いつの間にこの距離まで近づいたのか、油断のならない化け物だ。


「いえ、これから家に帰るって話をしてたんですよ」

「そうなのねぇ」

「リゲイラの姐御はどうするんですか?」

「私達は店の片づけをした後、今日の反省会も兼ねて全員で飲み会よぉ」

「わぁ~楽しそうっすね」


興味津々といった様子で話に喰いつくロックに、リゲイラの眼が怪しい光を放つ。


「あらぁ~参加したいなら一緒に来てもいいのよぉ~ロックちゃ~ん」

「えっ、本当っすか!」

「もちろんよぉ~。頑張ってくれたお礼に奢っちゃうわよぉ~」

「うっひょ~!」


リゲイラの言葉に乗せられてホイホイと付いていきそうになるロック。

その肩をクロードとラドルが慌てて掴み自分達の方に引き寄せる。

急に引っ張られて訳が分からない様子のロックに2人が小声で耳打ちする。


「なっ、何ですか兄貴達?」

「何やってるはこっちのセリフだぞロック」

「お前は自分の貞操が惜しくないのか?」

「へ?」


まるで事情が分かっていない様子のロックに2人が説明してやる。


「お前知らないのか、あの人の恐ろしさを」

「何の事です?」

「あの人はな。お気に入りの男を見つけると酒の席に誘って散々酔わせた後、持ち帰って喰っちまうんだよ」

「ゲッ!マジっすか」

「ああ、実際俺も何度危ない目に遭った事か・・・」


そう言ってクロードは過去の出来事を思い出して身震いする。

彼が酒に酔いにくいタイプの人間でなければ危なかった場面は幾度とあった。


「でも、俺が狙われてると決まったわけじゃ・・・」

「馬鹿。気付かないのか?あの目は完全にお前を狙ってるぞ」

「クロードの言うとおりだ。このまま一緒に行ったらヤラレるぞお前」

「ヒッ!」


2人の真剣な言葉に事態の深刻さを理解したロックの顔が真っ青になる。

意中のあの娘とお近づきになれればと思って参加しようと思ったが、その為に自分があの化け物にヤラレては元も子もない。


「あっ、俺なんかちょっと具合悪くなってきたな~。飲みすぎたかな~」

「それはいかんな」

「明日も仕事だ。早く帰って休んだ方がいい」


3人で即興の小芝居を演じながら、少しずつリゲイラから距離を取っていく。


「そういう事なのでリゲイラの姐御、誘ってくれるお気持ちは嬉しいのですが・・・」

「ロックはこの調子ですし、またの機会にお願いしますぜ」

「あらそう?仕方ないわねぇ」


心底残念そうに頬に手を当てるリゲイラ。

どうやらすんなり諦めてくれた様だとクロード達が安堵したのも束の間、リゲイラは次の得物に照準を合わせる。


「じゃあ代わりにクロードちゃん付き合って」

「ハハハッ、絶対に嫌です」

「あらヤダ。なんて男らしい即答なのかしらぁ惚れ惚れするわぁ」


クロード達にとっては全くもって理解不能な事を口走るリゲイラに3人は苦笑いを返す。

魔族や亜人等の多種族よりもリゲイラの方がよっぽど理解するのが困難だ。


「でも残念ね。クロードちゃんを可愛いがって飲むのももうすぐ出来なくなるなんて」

「えっ?」

「それってどういう意味ですか?」


意味深なリゲイラの言葉にロックとラドルが首を傾げる。

リゲイラの方も2人の反応に違和感を覚えてクロードの方を窺う。


「あれ?もしかしてまだ何も言ってないのクロードちゃん?」

「・・・ええ、まあ」

『?』

「その件については自分の口で言いますんで」

「そう、まあいいんだけどねぇ」


少し呆れた様子で溜息を吐いた後、リゲイラは思い出したように言葉を付け足す。


「ちなみに私はクロードちゃんの味方だからぁ」

「それはどうも」

「まっ、カロッソちゃんやフリンジのおっさんはともかくとして他の連中はそんなに甘くないと思うから色々と覚悟しといてねぇ」

「御忠告痛み入ります」


クロードの事を思っての言葉に、素直にクロードも頭を下げる。


「やっぱりちょっと惜しくなってきちゃったから最後まで付き合ってよクロードちゃ~ん」

「絶対にイヤです。ハハハハハ」


鼻息荒くにじり寄ってくるリゲイラから距離を取るように後退るクロード。

そんな2人の間にスッと割って入る1つの影。


「駄目よリゲイラ。クロードは今夜は私と一緒に家に帰るんだから」

「あらぁ~グロリアったらつれないわね」


横合いから割って入ったグロリアはそう言ってクロードの腕にしがみつく。

柔らかくて大きな感触が腕に押し付けられて、体温が僅かに上がった気がする。

思わず照れて赤くなる顔を見られない様にクロードは僅かに顔を逸らす。


「あらあら、イチャついちゃってもう妬けちゃうわぁ」

「当然よ。私のクロードだもの」


そう言ってフフンと鼻を鳴らすグロリア。

彼女の発言を聞いた周囲の女性陣から黄色い悲鳴が上がる。


「キャーッ!グロリアさんだいた~ん」

「彼氏さんとラブラブなのね~っ!」


往来の真ん中で歓声を上げる店の女の子達。

こういった夜の商売をしていても女というものは他人の恋愛に興味津々らしい。

クロード自信としてはグロリアの物になったつもりは全くないのだが、とてもそれを言い出せる様な雰囲気ではない。


「静かになさいアンタ達。余所様の迷惑よ!」

『は~い。オーナー』


リゲイラの一声で簡単に静かになる女の子達。流石によく統率されている。


「でも気持ちは分かるわぁ。私も帰りにイイ男引っ掛けて帰ろうかしら」


何気ないリゲイラの言葉に3人の男の背中を言葉では言い表せないほどの怖気が走る。

自分達はもう安全圏にいるはずなのに何故か身の危険を感じて震えが止まらない。


「とっ、とりあえずそういう事なので我々はここで失礼させて頂きます」

「そうっすね」

「姐御、次はファミリーの飲み会の時に会いましょう」


挨拶もそこそこにクロード達3人はその場から逃げる様に離れる。


「帰るぞグロリア」

「分かってるわよ」


どこか嬉しそうに腕にしがみ付いてくるグロリアを連れてクロードは家路に着く。

こうしてようやくクロードの長かった一日が終わる。

継続は力なりとはよくいったものだと思ふ

自分も書き続けて作品を最後まで書き上げたい

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