表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
131/143

外道の戦術

ウォルフレッドが大斧を振り回す度に絶叫が上がり、誰かの手足が千切れ飛び、流れた血で地面が朱に染まる。

相手の体が自分より大きかろうが、硬質な皮膚に全身を覆われていようと関係なく斬り伏せていく。

鬼気迫る戦いぶりを目の当たりにし、屈強で知られた裏社会の男達が身を震わせる。


「どうなってんだよ!どうなってんだよぉ!」

「畜生が!誰か早くなんとかしろよ!」


大の大人が身を寄せ合って情けない事を喚き散らしている様は実に見苦しい。

しかしながら彼らの現状を思えば、泣き言を言いたくなる気持ちも分からなくはない。

遠くからの攻撃手段を得意とする彼らだが、何も味方がやられるの黙って見ている訳ではない。

大振りの一撃の間を縫うように矢や魔法を放って前衛を支援しようとしているのだが、そのほとんどが大斧の巻き起こす風によって真っ直ぐに飛ばず、相手まで届かない。

ならばと風の影響を受けない魔法を放っても味方を盾にされたり、大斧で斬り払われて直撃に至らない。

とはいえこのままだと前衛は壊滅し、あの怪物の矛先がこちらに向くのも時間の問題。

遠距離攻撃を得意とする彼らの中に前衛で斬り刻まれている連中以上に接近戦が得意な者は少ない。

もし、このまま前衛が壊滅する様な事になれば、接近されて自分達もお終いだ。

目前に迫る危機に対し大半の男達が焦燥感に駆られる中、冷静に状況を分析する2人組の姿があった。


「アララ~、壁役の連中も随分と減っちまったな」

「そりゃ仕方ねえよ。今回ばかりは相手が悪い」


自分達が置かれた危機的状況を知って尚、どこか余裕のある表情の2人。

前衛に多い亜人達の様に体格に恵まれた風でもなければ、魔人族の様に魔力に秀でた様子もない。

一見すればどこにでもいる有人族の中年男性にしか見えない彼らだが、その正体は「サム&フェリー」と呼ばれる国外ではそれなりに名の知れた殺し屋コンビ。

長年裏社会で生き延び、数多くの殺しをこなしてきたベテラン2人は自分達の置かれた状況に溜息を漏らす。


「しっかし面倒な事になったもんだなぁ」

「あぁ、まったくなんでこんな事になっちまったんだか」

「ちっとばかし欲を出しすぎたかね」


少し薄くなり始めた頭髪を掻きむしりながらサムが愚痴を零す。

今から数か月前、馴染みの仲介屋から大口の仕事があると持ち掛けられた時の事を思い出す。

それは第七区画最大のマフィアの首領、アルバート・ビルモントの暗殺依頼だった。

レミエステス共和国からそれなりに離れた国を活動の拠点としていた2人でも知っている裏社会の大物が標的とあって、金と時間を掛けて2人は入念な下準備を行った。

それでも成功を確実視出来るだけの十分な情報を得る事が出来ず、万全を期すために自分達で下調べをしようと、郊外に宿を取り調査をする事に決めた。

市街に入らなければ相手に気取られる心配はないと考えていたのだがその考えは甘かった。

泊まった宿で次の朝を迎えた時、2人が目を覚ましたのは宿のベッドの上ではなく暗く冷たい牢屋の中だった。

報酬が高額な分、そのリスクについても承知した上で依頼を受けた。

とはいえ標的に辿り着く以前、街に入る事すら出来ずに捕縛されるとは夢にも思わなかった。

正直、今でもどうしてこうなったのか理解できない。

ただ1つ分かっているのは、自分達を捕らえてこの場に立たせた男が誰かという事だけだ。

2人はほぼ同時に観客席に座っている1人の男へと視線を向ける。


「カロッソ・ビルモント。噂に聞いちゃいたがアレは想像以上だな」

「ああ、アレは絶対に敵に回しちゃダメな奴だ。頭がキレるなんてレベルじゃねえよ」


放り込まれた牢屋の中で鉄格子越しにカロッソと対面した時の事を思い出して身震いする。

あの時のカロッソは終始ニコやかな笑みを浮かべていたが、瞳の奥には不気味な光が宿っていた。

長く裏社会に身を置く彼らでさえ、あれほど得体のしれない相手にはお目に掛ったことがない。


「取り敢えず生き残れたらすぐにこの国を出るとしよう」

「そうだな。あんなおっかねえ連中相手にしてたら命がいくつあっても足りねえ」


この窮地を脱する事が出来たなら仕事を斡旋した仲介屋と依頼主を殺して姿を眩ませよう。

長年の貯えもある事だし、しばらくは身を隠して遠くの土地に移り住もう。

その為にもどうにかして目の前の相手を倒さなくてはならない。


「さて、問題はアイツをどうやって始末するかだ・・・」

「しっかし、ありゃ相当な使い手だな」


ここまでの戦いを見ていてウォルフレッドの技量が相当なものだというのは十分に分かった。

1対1で勝つ見込みは皆無、複数名で挑んだとしても正攻法では現行の戦力では勝ち目は薄いだろう。

それだけの力量差があると知りながら2人にそこまで悲観した様子はない。

殺し屋としてそれなりに知られている彼らにとってこの程度の問題はよくある事。

そもそも地力で劣るからと言って逃げていては殺し屋は務まらない。


「実戦慣れの仕方から見るに元はどこぞの正規軍人か?」

「だな。荒っぽさはあるが戦い方に裏の人間らしい泥臭さが足りねえ。さぞかし立派な家の出なんだろうよ」

「お上品ないいとこのお坊ちゃんか。ならやりようはあるか」


実力だけを見ればウォルフレッドは確かな脅威だが、カロッソに比べれば怖さを感じない。

むしろ似たような連中なら今までに何人と殺してきた実績があり、彼の様なタイプを攻略する術も心得ている。


「それじゃあ俺達もそろそろ仕掛けるとするか」

「そうだな。同業者連中も同じ考えのようだし」


チラリと視線を左右に向けると自分達と同じように今まで様子見をしていた者達も動き出している。

ならばこちらも合わせて動いた方が勝率は高いだろう。

長年コンビを組んできた2人は簡単な打合せを済ませると、それぞれに動き出す。

サムが素早く一団を離れていく中、残ったフェリーは一団を率いている男の元へ歩み寄る。


「なぁ、そこの兄ちゃん。ちょっといいかい?」

「なんだお前。今こっちは忙しいんだ!後にしろ!」


急に声をかけてきたフェリーに不快そうな目を向る男。

男は見るからに切羽詰まった様であり、表情にも余裕がない。

一歩間違えればこちらに矛先を向けてきそうな相手に、フェリーは不敵な笑みを崩さずに話を続ける。


「俺の事なんてどうでもいいじゃないか。それよりもあの狼野郎をやっちまういい方法があるんだが、アンタも一口乗らないかい?」


フェリーの口にした言葉に相手は疑う様な目を向ける。

しかし、このまま何も手を打たなければ自分達がジリ貧だという事もわかっていた。

しばらく考え込んだ末、男はフェリーの話に耳を傾ける事にした。


一方で裏社会の腕利き達が何やら動き出した事をウォルフレッドも素早く察知していた。


(ようやく動き出したか)


開戦してからすぐに何人かが様子見に動いていた事は把握していた。

恐らくこちらの実力を見極めてから仕掛けるつもりだったのだろう。

何も考えず突っ込んできた今までの連中と違い、策を練るだけの頭が回る分厄介な相手だ。


(戦える残りの人数は90弱。その中でも使い手らしき者は20人程度)


数字だけ見れば最初の5分の1、大した数ではないが油断は禁物。

ここまでの戦いでこちらも魔力をかなり消費しており、大技はもう使えない。


(彼らにとっても私にとっても、ここからが正念場ですね)


お互いに自分の命がかかっているのだから必死なのは当然。とはいえ負けてやるつもりはない。

ウォルフレッドはひとまず魔力消費を抑える為、手にした大斧を剣へと形態変化させて左手に持ち替える。


「さて、次はどなたがお相手ですか?」


残った敵勢を見渡すウォルフレッドに対し、周囲から一斉に火炎弾が飛ぶ。

飛来する魔法攻撃の軌道を見切り、直撃コースにある攻撃だけを斬り払う。

その周囲で外れた魔法が周囲に着弾し、再び砂埃が巻き上がる。


「その程度の攻撃が私に当たると・・・いや、違うな」


今の攻撃で周囲に舞い上がった砂埃を見て相手の狙いが自分の視界を奪う事だとすぐに気づく。


「しかし、この程度の砂埃で視界を塞がれた所で」


僅かな空気の流れや、影の動き、足音等を聞けば敵の接近には十分に対処できる。

そう思っていた矢先、目の前の砂塵に映る3つの影。

ウォルフレッドは接近してくる気配に向かって素早く剣を振り抜く。

確かな手応えの後、振り返ったウォルフレッドは自身が斬り捨てた相手を見て驚く。


「なっ!これは!」


そこに横たわっていたのは確かに敵だった。

ただし、空弾降雨(エアリアル・レイ)を受けて最早自分では立つ事さえ出来ない程ボロボロになった敵。


「まさか奴等!」


背筋に冷たいものを感じ、顔を上げたウォルフレッドの前に砂塵の向こうから無数の影が飛び込んでくる。

それは全て身動きが取れなくなって虫の息となった敵や既に死んだ者の死体だった。


「クッ!」


ウォルフレッドは咄嗟にその場から飛び退きながら、飛んでくる敵を斬り伏せていく。

最終的に殺す事になる相手とはいえ、こんなやり方で斬り殺すのは戸惑いがあり手が鈍る。

それだけでも相当やり辛いのに加え、既に死んだ者などは斬り裂くだけ体力の無駄。

だからといって払いのけなければ少なからずダメージとなる為に斬らざる負えない。


「卑劣な真似を」


動けないとはいえまだ生きている味方をこのような攻撃手段に使う事に憤りを覚えるが、だからといって斬らなければこちらが攻撃を受けてしまう。

今はなんとか最小の動作で切り抜けようと武器を振るうウォルフレッド。

その時、突如として右足に鋭い痛みが走り、ウォルフレッドは思わず苦悶の声を上げる。


「グァッ!」


突如走った痛みに膝を折るウォルフレッド。

僅かに視線を下げると、そこには自身の右足にナイフを突き立てて下卑た笑みを浮かべる小鬼(ゴブリン)の姿があった。


(しまった。こっちが本当の狙いか!)


ウォルフレッドは素早く足元に剣を走らせて小鬼(ゴブリン)を斬り捨て前を向く。

が、足に思うように力が入らず立ち上がる事ができない。

どうやら先ほどのナイフに毒物が塗られていたらしく傷口から熱が広がっていく。

そんな状況だろうと敵は攻撃の手を緩めたりはしない。

次々と投げ込まれる死体と身動きの取れなくなった敵がウォルフレッド目掛けて飛んでくる。

最早斬る相手を選んでいる余裕はない。

ウォルフレッドは片膝をついたまま向かってくる全てを我武者羅に斬り続ける。


「ウォオオオオオオオオオオオッ!」


砂埃の舞う中、雄叫びを上げるウォルフレッド。

その声を遠くに聞きながらフェリーは次なる指示を飛ばす。


「それじゃあ手筈通り、声のした辺りに集中して魔法攻撃をお願いしますよ」

「分かっている」


フェリーの言葉に従い、リーダー格の男が全体に向かって指示を飛ばす。


「ありったけを叩き込め!」


狼を葬り去らんと砂塵に向けて再び無数の火炎弾が放たれる。


ウォルフレッド VS プロの殺し屋

放たれた炎がウォルフレッドを襲う!

勝つために手段を選ばない相手に勝機はあるのか!

次回もお楽しみに


ちなみに「サム&フェリー」の由来は

有名な米国発祥の猫とネズミのアニメです。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ