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幹部候補からの挑戦状

ここまでほとんど自分から発言をしてこなかったレッガからの突然の提案。

これには彼の身内であるアシモフまで慌てた様子で顔を上げる。


「レッガ!お前、何を勝手な真似を!」


この様な展開はアシモフ達が事前に考えていた作戦の中にもない。

つまりレッガの完全な独断行動。


「悪いな叔父御。だが、ここからは俺の好きにやらせてもらう」


そう言ってアシモフに一言詫びた後、レッガはこの幹部会の纏め役であるダリオへと向き直る。


「ダリオの兄貴。俺の頼みを聞いちゃ貰えませんか?」

「ふむ」


レッガからの申し出にダリオは考え込むように顎に手をやる。

ビルモントファミリーでは基本的に身内同士の私闘を禁じている。

ただ、それについても例外がない訳ではない。

余程の事情があれば首領の承認の下、立会人を付けて決闘を行う事は可能だ。


「一騎打ちというのは些か早計ではないか?」

「そうですかい?次期幹部を決めるにはこれしかないと俺は考えますがね」


レッガの口にした言葉に幹部達の間にピリッとした緊張感が漂う。


「それって私達幹部の判断には任せておけないって事かしら?」

「まさか。単に長々と会議に時間を掛けて幹部の皆さんの手を煩わせては申し訳ないと思っただけですよ」

「アラ、随分と生意気な口をきくわね」


確かにレッガの言う様に現在の幹部選考は膠着状態に陥っている。

クロードの方が若干優勢に話を運びかけてはいるが、まだ形勢を動かす程ではない。

言うなれば絶妙なバランスで均衡の保たれた天秤の様な状況。

その天秤をどちらかに大きく傾けるには多少強引な手を使ってでも天秤の均衡を崩す必要がある。


「だからと言って何事も力で解決を図ろうとするのはあまり褒められた事ではないと思うがね」

「分かってますよチャールズの叔父御。何も交渉や駆け引きが無駄と言っている訳じゃありません。ただ俺達はマフィアという無頼の集まりだ。国や法に守られる事のない俺達みたいなのが最後に頼みにするのは腕っぷしの強さ。第七区画最大の勢力を誇るビルモントファミリーで幹部を名乗るならそれに相応しい力は証明しなければ下の者への示しがつかない」


握り締めた拳を前に突き出して力説するレッガ。

そんな彼の言葉に込められた本気の熱量が幹部達の心を動かし、風向きを変える。


「フッ、若造が言いおるのう」

「だが、レッガの言う事にも一理ある」

「確かに組織の中枢たる幹部の椅子だ。座るならより強い方が座るべきだろうね」


レッガの語った内容は表の世界であれば一笑に付されて終わる様な話だが、力が支配する裏社会に生きる者にとっては決して無視できない話だ。

それも幹部となる人材を選ぶとなれば必須の条件ともいえる。

もちろん今回、幹部候補に選出された2人はその点でも他の者より優れている事を条件に選ばれた。

だが、現在どちらの方が強いのかは誰も知らない。

そもそもクロードに至っては実際どれ程の強さなのか誰も知らない。

噂に聞くその実力が一体どれほどのものなのか、幹部達の興味がそちらに移るのをレッガは見逃さなかった。


「知りたくないですかい?どちらの方がより強いのか」


極めつけのレッガの一言が幹部達の心を確かに掴む。

これによってウォルフレッドの登場以降、クロードが掴みつつあった場の流れをレッガが引き戻した。

自らの言葉だけでこの状況を作り上げた甥の姿を見て、彼の後見人であるアシモフも腹を決める。


「俺はレッガの提案した方法以外の決着はないと判断する」


事前に考えていた計画はこれで全て無駄になったが構わない。

後はレッガを信じて彼に全てを掛ける。

そんなアシモフの意思を察してか、カロッソとシェザンもそれに同調する。


「アシモフさんに同意です」

「私もだ」


カロッソとシェザンの2人もそれに続いた事で、他の幹部達も次々と手を上げる。


「面白そうやな」

「男同士の勝負。いいんじゃな~い」

「意義はない」

「こちらも同じく」


他の幹部達が賛同である事を示す中、最後にフリンジただ1人だけが残る。


「フリンジさんは反対ですか?」

「フッ、怖気づいたのだろう。だが無理もない」


事情を知っている者ならフリンジが迷うのも頷ける。

レッガは幹部を除けば組織の誰よりも強い事で知られている。

いや、幹部であっても万全の状態でなければ勝利が危ぶまれる程の男。

それを相手にするというのだから、怯まないはずはなかった。

しかし、そんなシェザンの思惑はすぐさま否定される事になる。


「いいや。俺も大賛成だぜ」


ニヤリと不敵に笑ったフリンジは一騎打ちに同意の意を示す。

予想していたのとは真逆の反応を取ったフリンジにシェザンは思わず聞き返す。


「本気か!」

「応よ。俺ももうそれしかねえと思ってた所だ」


心底愉快そうに笑うフリンジにシェザンが信じられないという顔をする。

クロードとレッガがぶつかればどうなるか等、戦う前から結果は見えているというのに何故そんな余裕でいられるのか理解できなかった。


「それで、満場一致みたいだけどダリオちゃんはどう判断するの?」

「・・・そうだな」


リゲイラの問いにダリオは静かに目を閉じて考え込む。

いくら幹部全員の賛成が得られたとはいえ判断が難しい所だ。

議長としてある程度アルバートから権限を与えられているとはいえ、レッガとクロードの提案は首領の了解を得ずに判断が出来ない。

ここは一時決定を保留として首領の決定を仰ぐべき。

ダリオがそう結論を出そうとした時、急に会議室の扉が開く音が室内に響く。


「すまん。少し遅くなったな」

『首領!』


アルバートの姿を見た瞬間、幹部全員が一斉に椅子から立ち上がる。

既に立っていたクロードや室内にいた他の者達も背筋を正してアルバートを迎える。


「お前達。楽にしていい」


一言そう告げると、アルバートは葉巻を咥えたまま悠然と歩き出す。

クロードの横を通って円卓の傍まで寄ると適当な椅子に腰を下ろす。


「幹部会の進行はどうなっている?」

「ハッ!それについて首領にご相談したい事が」

「分かった。話を聞こう」


ダリオはすぐさまアルバートの下へと駆け寄り、現在の状況について説明をする。

それからしばしの間、会議室の中にダリオの説明する声だけが響く。

20分程で一通り経緯を聞き終えたアルバートがダリオの目を見る。


「2人からの提案。お前はどの様に考えている?」

「私としてはどちらの提案も採用してよいかと」

「ほう、何故だ?」

「ます、ウォルフレッド・ベルカインの件ですが、奴が人喰い餓狼本人かどうかは別として死連闘の儀を突破できるほどの実力がならば組織にとっては十分な戦力になるかと、もちろん迎え入れる場合、首輪を付ける必要はありますが」

「なるほど。ではもう一方の提案については?」

「今回、人選で意見が割れた理由は能力の優劣が判断できなかったからであり、それを明確にするには直接争わせるのが最善手かと」


話を聞き終えたアルバートは、静かにダリオを睨む。


「回りくどいな。俺に遠慮せずハッキリ言ったらどうだ?そもそもクロードに対する不審が根底にあると」

「それは・・・」


アルバートからの切り返しにダリオは思わず返答に窮する。

義理とはいえ首領であるアルバートの息子を疑うというのは、彼の目を信じていないと言うのも同義だ。

流石にそんな事を口にするのはダリオといえど憚られた。


「まあいい。ならばこうしよう」


アルバートは他の者に聞こえぬ様に、自身の考えをダリオに伝える。


「よろしいのですか?」

「かまわん。それとこの件に関しては全権をお前に委ねる」

「・・・承知しました」


首領からの言葉にダリオは恭しく一礼すると、後ろを振り返りクロードとレッガ2人の幹部候補の顔を交互に見る。


「たった今、首領より此度の幹部会に関する全権をこのダリオ・ローマンが預かった。その権限に基づきこれよりクロード・ビルモントとレッガ・チェダーソン。それぞれの提案に対する私の決定を伝える」


高らかに宣言したダリオの言葉にその場の全員が彼の次の言葉を待つ。


「まず、クロード・ビルモントからの提案であるウォルフレッド・ベルカインの死連闘の儀への挑戦を認め、生きてこれを為した暁には我が名に懸けてファミリーに加える事を約束する」


ダリオの言葉にクロードとウォルフレッドは黙ったまま一礼を返す。

どうやらクロードが幹部にならずともウォルフレッドは迎え入れてもらえるようだ。

そんな事に少しだけ安堵している合間にも話は進む。


「次に、レッガ・チェダーソンからの提案である一騎打ちによる幹部選考については双方の合意があった場合のみ特例としてこれを承認するものとする」


ダリオの告げた条件を聞いたレッガはその視線を再びクロードへと向ける。


「だ、そうだがどうする?」

「これは参りましたね」


困り顔で肩を竦めて見せるクロードに対し、レッガは真剣な眼差しを向ける。


「俺に一度も勝った事のないお前に俺と戦う覚悟があるか」

「・・・・・」


まったく嫌な事を思い出させてくれるものだとクロードは内心で思う。

クロードがまだ駆け出しだった頃、レッガの鍛錬相手の1人として付き合わされその度に何度も地面を舐めさせられた苦い記憶が蘇る。

挑発の一環なのだろうが、効果は十分だ。

こんな事を言われてはこちらも受けない訳にはいかない。

いや、レッガの提案が受け入れられた時点で最初から逃げるという選択肢はない。

もしここで戦いを避けて議論に逃げようとすれば、自分に付いてくれた幹部達は全てレッガの側に回るだろう。

ここで戦いから逃げる様な臆病者に幹部たる資格はないのだ。


「こうなっては止むをえませんね。お相手させて頂きますよ」

「これで決まりだな」


2人の間で合意が成立したのを確認したダリオがさらに言葉を続ける。


「尚、この勝負の結果に2人にはそれぞれあるモノを賭けてもらう」

「あるモノ?」


自分達の提案の中になかった新たな条件に2人は少し戸惑いを覚えつつもダリオからの言葉を待つ。


「今回の戦いで敗北した場合、レッガには過去の罪の償いと併せて組織からの追放処分。クロードには己の過去の全てを語ってもらう」

「っ!?」


ダリオの提示した条件に、ここまで冷静だったクロードの顔に初めて動揺が走る。

他の者からはレッガの方が条件が厳しい様に思われるが実際は違う。

自分の過去を他の者に知られればクロードはもうここには居られない。

だから過去を喋るという事はクロードにとって追放される事と同義以上。

それこそ死ねと言われているに等しい。


(負ける事は許さないという事か。親父)


自分の中で負けられない理由ならいくつもあるが、今回与えられた条件によって退路もなくなった。

もはやクロードの前には勝利する以外の道は残されていない。


「死連闘の儀の準備もある事だ。本日の夜刻に地下闘技場にてウォルフレッド・ベルカインの登用試験と次期幹部選考を再度執り行う!」


クロードにとって己の未来を決する真の戦いの幕が開く。

次回から戦闘パートに突入します。

ウォルフレッドとクロードはこの試練を乗り越えられるのか?

2人の戦いの行方やいかに!

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