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紛糾する幹部会 3

幹部会の場に姿を現したかつての幹部候補レッガ・チェダーソン。

彼の姿を前にしてフリンジの噛み締めた奥歯がギリッと音を鳴らす。


「どうして・・・その野郎がここにいやがるんだ」


常人であれば卒倒してもおかしくない程の鋭い殺気を向けるフリンジ。

彼がそれ程の殺気を向けるのも当然の事だ。

目の前にいるレッガはかつてのクロードの仲間、つまりは可愛がっていた自分の部下が死に至る要因を作った人物である。

自分の可愛がっていた部下が死ぬ原因となった男をそう簡単に許せようはずもない。

一度は収まったはずの怒りがぶり返し、殺意すら感じさせる眼がレッガの姿を捉える。

フリンジの瞳に映ったレッガは僅かに頭を下げる。


「お久しぶりですフリンジの叔父貴」

「レッガ。テメエ一体誰の許しを得てこの場に立っている」


フリンジの問いはこの場にいる他の幹部も同じ様に抱いてる疑問だった。

何故なら彼がかつて失態を犯した結果、首領アルバートより幹部候補の資格を剥奪され、国外への異動を命じられた。

それは実質、国外への島流しと同等の意味合いであり、首領たるアルバートの許しがない限りは第七区画へ立ち入る事さえ許さないという重たい処分でもあった。

その様な処分を受けている彼がどうして今、この場に居る事が出来るのか。

疑念を帯びた周囲の視線を集める中、レッガがフリンジからの問いに答える。


「他ならぬ首領アルバートの許可を得てこの場に」

「なんだと!」


レッガの口にした言葉をフリンジの表情は信じられないという顔をする。

話を聞いていた幹部の中にも同じ様に考えた者は多かったらしく、レッガに対して懐疑的な視線を向けている。


「アルバートがお前さんを許した言うんか?」

「う~ん。それはちょ~っと信じられないわね~」

「確かに、首領は規律にとても厳格な方だかね」


俄かに信じられないといった様子で意見を述べる幹部達。

アルバート・ビルモントという男の人となりを知っているから幹部達だからこそ、その決断にはどうしても疑問の余地が残る。

そんな中、思いがけない人物がレッガの言葉を後押しした。


「皆さんがお疑いになる気持ちも分かりますが、彼の言っている事は本当ですよ」

「えっ?」


誰かが上げた驚きの声に併せて全員の視線が1人の男に向かう。

周囲の視線を独り占めした予想外の人物は、殺伐とした空気が漂うこの場においてずっと不釣り合いな笑みを浮かべたまま座っていた。


「アレッ、どうかしましたか皆さん?」

「どうしたはこっち台詞よ~カロッソちゃん」

「そうですよ御曹司。どうして貴方様がその様な事を?」


リゲイラとチャールズの問い掛けに、カロッソは変わらぬ笑顔を浮かべたまま答える。


「ああ、それは私も首領が承認するその場に立ちあいましたから」

「立ち会った・・・だと」

「ええ、だって彼を呼び戻す様に首領に進言したのは私ですから」

『っ!?』


カロッソが口にした予想外の一言に、リンジは驚きのあまり思わず言葉を失う。

フリンジだけでなく話を聞いていた他の幹部達の間にも少なからず動揺が走る。

まさかカロッソが、かつて同じ幹部の座を争ったライバルを弟の対立候補に当ててくるとは誰も予想だにしなかった。

何故なら誰もがカロッソはクロードの側に付くと予想していたからだ。


「ちょっと、カロッソちゃんそれって本当なの?」

「ええ、本当ですよ。なんなら首領に確認いただいても構いません」

「・・・・・」


カロッソは味方だと思っていたフリンジは黙り込んだまま落胆した様子を見せる。

彼はクロードの味方だと信頼しきっていただけにその落ち込みも大きい。

酷く落ち込んだ様子のフリンジの前でアシモフは大きな咳払いを一つすると、レッガに幹部候補としての刺客がある事を胸を張って宣言する。


「カロッソが話した通りだ。レッガがこの地に戻る事、並びに今回の幹部選へ参加する事は首領アルバートからの承認を得ている」

「どうだね?これで文句はないだろう」


シェザンからの問いかけに誰もが口を閉ざす。

既に首領であるアルバートからの承認を得ている以上、今更その決定は覆らない。


「いいだろう。レッガ・チェダーソンの幹部選への参加を認める」

「フフフ、当然だな」


ダリオの言葉にシェザンが勝ち誇ったような顔で周囲を見渡す。

実際にレッガの参加がアルバートに認められた時点で勝ったも同然だとシェザンは考えている。

何故ならばカロッソはアルバートの実子。つまり次の首領に最も近い男。

そんなカロッソがわざわざ手を回してまで呼び戻したレッガは、次期首領のお墨付きを得ているに等しい。

それは今回の幹部選において非常に大きなアドバンテージであり、他の幹部の動向にも大きな影響を与える事は間違いない。

実際、他の幹部達は押し黙ったまま何か考え込んでいる様子。

少なくともクロードありきだったはずの場の空気を完全に変わった。


「その小僧の幹部への推薦。取り下げるなら今だぞフリンジ」

「これ以上続けると余計な恥を掻く事になるぞ」

「・・・こんのクソ野郎共が。誰が取り下げるかボケ」


諭す様な物言いをするアシモフと、してやったりと言わんばかりのシェザンの態度にフリンジはギギギと音がする程強く歯を噛みしめる。

だが正直、この先の展開が読めなくなったのは確かだ。

一応、事前に他の幹部に根回しをしたとはいえ最後に決めるのは本人達の意思。

その上で優先されるのは幹部同士の相互利害ではなく、組織の未来にどちらの男が必要な存在であるかだ。


「強情だな。だが忘れてはいないかフリンジ」

「何をだ?」

「レッガは一度は資格を失ったとはいえ一度幹部候補になった男だ。その実力はこの場にいるほとんどが知る所だ。隠し事ばかりで実体の知れないその小僧とは違うぞ」

「ぬかせ。テメエこそヤツが過去にしでかした事を忘れてんじゃねえぞ」


正面から睨み合った後、両者は顔を逸らして視線を外す。

アシモフはフリンジから外した視線をそのまま彼の傍らに立つクロードの様子を覗き見る。

その表情からは先程までとまるで変わらず平然としており、欠片程の動揺さえ読み取る事が出来ない。

そもそもどうしてクロードがそこまで平然としていられるのか理由が分からない。

有力な対抗馬の参戦、味方だと思っていた義兄にも見放された。

ここまでの話を聞いていた幹部達の間にさえ少なからず動揺する状況に、当事者であるクロードに動揺が見られないというのは一体どういう事なのか。


「まあいい。今にその若造の化けの皮を剥がしてやる」


そんな事を考えながらアシモフが向けてくる敵意の篭った視線に気付きつつも、クロードは全く別の事を考えていた。


(ハァ、随分と厄介な事になって来たな)


自分の置かれた状況に、クロードは内心で大きな溜息を零す。

最初から簡単に事が運ぶと思っていたはいなかったが、ここまでの展開は予想していなかった。

内心ヘコみたいところではあるが、鋭い視線を向けられて居る手前、内心の憂いを表に出す訳にもいかず居心地の悪い視線に晒された状態に耐えながら直立不動を維持する。

アシモフ達から嫌われている事は以前から知っていたが、まさかここまで手の込んだ真似をしてくるとは思わなかった。

クロード自身は彼等に対して不満も敵意もないだけに、残念だと感じずにはいられない。


(それにしてもカロッソ兄貴は一体何を考えているんだかな)


向こう側に付いたカロッソの考えや、理由は正直まるで分からない。

そもそも普段から義兄は何を考えているのか分からない所のある人だ。

10年兄弟をやっても理解できないのだ。この先も理解できる様になるとは思えない。

それでも今回の件で自分に言える事があるとすれば、兄が向こうに付いたのは決してクロードに対する裏切りではないという事だ。


クロードはこの場にいる幹部達の様にカロッソの事を生まれた時から知っている訳ではない。

それでもこの10年を弟という立場で彼と接してきた事で、彼等の知らないカロッソ・ビルモントという人間の一面を知っているという自信はある。

それはカロッソ・ビルモントという人物が誰よりも家族想いであり、家族の繋がりを誰よりも大事にする人物だという事だ。

それは血の繋がりのある父や母、姉妹に対しては当然の事として、血の繋がっていない義理の弟にさえ分け隔てない。

だからこそ言える。カロッソ・ビルモントという男は決して家族を裏切ったりするような男ではない。


(ならばこれは兄貴なりに何かしら考えがあっての事ということか)


流石にその目的まで見通す事は出来ないが、その意思だけは信じられる。

ならば自分は兄の期待に背く事のない様に行動するべきだろう。

そんな風に考え事をしている合間にもダリオが会を進行していく。


「さて、ここまででクロードとレッガという2名が幹部候補として推薦された訳だが、もう他に候補となる者はいないか?」


ダリオからの問い掛けに全員が沈黙をもって答える。

沈黙を肯定として受け取ったダリオが小さく頷く。


「よかろう。ではこれにてここで幹部候補者の推薦を打ち切り次期幹部の選考に移る。とはいえ、今更この2人について多くを語る必要もあるまい」


両者ともに組織内での実績と知名度は既に十分と言っていい。


「ボルネーズ商会の若き新鋭、クロード・ビルモントと確かな実績を持つ前幹部候補のレッガ・チェダーソンこの2人による決戦となる。異論はないな」

「異議なし」

「勿体ぶらずにええから早う進めぇや」

「そうだな。候補者の2人からは何かあるか」


水を向けられたクロードとレッガは首を左右に振って否定の言葉を述べる。


「いえ、特にはありません」

「こちらも同様に」

「そうか。ならば時間も惜しくなってきた事だ、早速始めるとしよう。此度の選考は投票形式にて行う」


円卓を囲んだ幹部達が一様に頷く中、ダリオが部屋の隅に控えていたレイナに指示を飛ばし、指示を受けたレイナが幹部達の前に小さな用紙と万年筆を配布していく。


「全員に配った紙に自分の名前と次の幹部に相応しいと思う者の名を記載し投票箱へ。全員が投票したのを確認したところで集計し投票結果を発表する。尚、ここで大差がつくようであれば規定通りそこで決着となる。そうでない場合は再度話し合いを行い再選考だ」

「ああ、分かった」

「いいわよ~ん」

「・・・了解だ」


幹部達は目の前に置かれた万年筆に手に取ると、テーブルに置かれた紙に向かう。

既に投票する相手を決めているフリンジやアシモフ達はスラスラとペンを走らせ、レイナが運んできた投票箱に入れていく。

一方、未だ迷いの中にある者達の筆は中々に筆が進まない様子。

それでも最後には決断を下したらしく次々に名前を記載し投票をしていく。

最後にベイカーが投票箱に紙を投函し終えたのを確認し、レイナがダリオの元へ投票箱を運んでいく。


「ご苦労」


レイナが目の前に置いた投票箱を前にしたダリオがその中に手を伸ばす。

緊迫感に包まれた室内で紙が一枚、また一枚と中から取り出され開かれていく。

中身を検められた紙が次々にテーブルの上に並べられ、あっという間に最後の8枚目が紙をテーブルの上に置かれた。

皆が固唾を飲んで見守る重苦しい空気の中、ダリオが口を開く。


「待たせたな。ではこれより投票の結果を発表する」

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