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紛糾する幹部会 2

同じ幹部であるフリンジの推薦したクロードを真っ向から否定するアシモフの言葉に会議内が俄かにザワつく。


「オイオイ、正気かえアシモフ」

「そうよアッシー。いくらなんでもそれは言い過ぎよぉ」


リッキードやリゲイラがアシモフの発言を咎める中、逆にアシモフの言葉に同調の声が上がる。


「私はアシモフに同意見だな。以前からおかしいと思っていたのだ。数年前まで商売も闘争も並程度の実力しかなかった若造がここまで急激に躍進するなど何か裏があるとな」

「シェザン。テメェもか」

「当然であろう。実力も知れぬ者が最強であるなどなど認められるものか」


そう口に知るとシェザンは憮然とした態度で腕を組む。


「そもそもがおかしいとは思わんか。何故その小僧が区画番号保持者等と呼ばれている」

「さあな。いつ誰がそう呼び始めたのかも定かではない事だし」

「実に下らなん話だ。第七区画最強はつまりこの場にいるアシモフやベイカー、そしてこの私よりも強者だという事だ。それを数年前まで私達の足元にも及ばなかった若造が選ばれる等あり得ない。大方、最近の噂話だけを信じて確かめもせず適当に選んだのだろう」


そこまで言うとシェザンはわざとらしくクロードの方に視線を送る。

どうやら彼の頭の中では区画番号保持者の噂の出所はクロードだと決めつけている様だ。

もっともそんな自作自演をするつもりは毛頭ないのでその考えは的外れであると言わざる負えない。

それを分かった上でクロードは表情一つ動かす事無く無言を貫き続ける。

動揺の素振り一つ見せないクロードにシェザンが不満そうに鼻を鳴らす。


「フンッ、自分の話題だというのにに眉一つ動かさないか。つくづくいけ好かない若造だな。少しぐらいは何とか言ったらどうだなんだ」

「私はまだこの場での発言の許可を頂いてませんので」

「白々しい奴め。だが、そうやって涼しい顔をしていられるのも今の内だ」


自分の言っている事こそが真実だと信じて疑わないシェザンの言葉に、フリンジは小さく溜息を零す。


「大体分かった。つまりお前達2人は俺の目が曇ってるとそう言いたい訳だな」

「いいや、それは少し違うぞフリンジ」

「なにぃ?」


フリンジの予想に反し、アシモフはその言葉を首を左右に振って否定する。


「確かにお前とは昔から反りが合わずにこうして衝突した事も少なくはない。だが、共に首領アルバートの下で何度も死線を潜ってきた仲だ。お前の事は俺なりに認めてはいるつもりだ」


長年いがみ合っていたいた相手の思わぬ本音を聞き、流石のフリンジも僅かに相手に向けた怒りの矛先が鈍る。


「そいつはどうもありがとよ。俺もなんだかんだでお前さんの事はそこまで嫌いじゃねえよ。しかし認めていると言うならどうして俺が幹部に推薦するクロードの事を認めない」

「簡単な事だ。その小僧が人心を欺く事に長けているからだろう。それもお前や首領を完璧に騙しきれるほどにな」


そこまで言うとアシモフは再びクロードの方へと視線を向ける。

その目の中にはクロードに対する不審が色濃く滲んでいる。

一方、その発言を聞いたフリンジの方は心底呆れたといった表情を浮かべる。


「お前。言うに事欠いてそれかよ」

「最後まで聞け。お前はいつからその小僧に対してそこまで信頼を置くようになった?」

「・・・何が言いてえ」

「お前も最初その小僧に大して少なからず疑念を抱いていたはずだ。それがいつからそこまで認めるに至った」

「最初の頃は確かにそうだったかもしれないが、同じ時間を過ごせばお前にだって分かる」

「それはあり得ない話だ。何故なら俺は10年前に首領がどこからともなく連れ帰ってきてその小僧を自分の養子にすると言ったあの時から一度だって信用しようと思えない」


アシモフ・バースティアが初めてクロードと対面したのは今から10年前。

その日は縁故の人物からの依頼で有人種の勢力圏内にある国へ赴いていたアルバートとブルーノが長旅から帰る日だった。

屋敷の前で幹部全員で出迎えたアルバート1人の若者を連れて戻ってきた。

別にその事自体は特別に珍しい事だとは思わなかった。

何故ならそれまでにも似た様な事は幾度かあったからだ。

確かにアルバート・ビルモントは国中に名の知られた第七区画最大のマフィアの首領であり、多くの者からは畏怖の対象として見られている。

しかし、本当の彼は窮状にある者を見捨てられない心根の優しいお人好しだ。

今までにも街で見かけた戦災孤児や浮浪児が安心して成人まで生活できる場所を作ろうと私財を投じて孤児院を立ち上げ、自立できるまで生活できる環境を整えた。

他にも国を追われ流れてきた行き場のない者の為に仕事や住む所の世話をする今で言う職業安定所のような施設を立ち上げたりした。

今回もそれと同様だろうと思っていた、しかしその時ばかりは思惑が外れた。

数日の内にアルバートの招集によって開かれた幹部達の場で、アルバートは連れ戻った若者を自身の家に養子として迎え入れると告げたのだ。

当然ながらアルバートが誰かを自身の身内にまでして庇護下に置くと言ったのはその時が初めてだった。

突然の事に戸惑う幹部達の中、アシモフは何故そこまでするのか理由を尋ねたがアルバートはその問いに答えを示す事はなかった。


「むしろ10年前のあの日、首領が下した決断は今でも間違いであったと俺は思っている」


アシモフの口にしたその言葉に、黙って話を聞いていた他の幹部達が顔を上げるとアシモフに対して厳しい視線を向ける。


「少し待ちたまえアシモフ。今の発言は幹部として聞き逃せない」

「ほやで。クロ坊への信用云々はともかくとして、養子にするとすると決めたのは首領の意思や。お前さんは首領の決定にケチつける気か」

「勘違いするな。俺の首領アルバートに対する忠誠に今も変りはない」

「ならばどうして今更過去の決定に対して不満を口にする」

「だからこそだ。首領に忠誠を誓い、ファミリーの未来を思えばこそ将来に影を落とす不穏な芽は早急に摘み取るべきだ」


クロードを見据えたまま淀みなく断言するアシモフにシェザンだけが拍手を送る。

その他の面々はと言えば思案顔のまま沈黙している。

どうやらそれぞれにアシモフの語った内容を吟味している様だ。

そんな中でフリンジだけが怒り心頭といった様子で顔を真っ赤にしている。


「・・・言いたい事はそれで終わりか。アシモフ」

「まだ言いたい事がない訳ではないが、ひとまずはそうだな」

「そうか。だったら今すぐ表に出やがれクソッタレが!ぶっ飛ばしてやる!」


怒りの形相で叫び声を上げたフリンジは人差し指をアシモフへと突き付ける。


「何が不穏の芽だ馬鹿野郎が!今日までコイツがどんな思いでこれまで努力して来たか知りもしないヤツが偉そうな事を言うんじゃねえ!」

「俺は自分の意見を述べたまでだ」

「そうだぞフリンジ。幹部ともあろうものが感情に任せて吠えるな。見苦しい」


アシモフの返答とシェザンの挑発がフリンジの怒りを燃え上がらせる。


「余計な口を挟むんじゃねえキザ野郎!テメエの語る行儀の良さなんざ糞くらえってんだ!何より自分の部下をここまでコケにされて黙っていられるか!」


その怒りはすさまじく強く握り込んだ拳からは僅かに血が滲んでいる。

今にも机を飛び越えてアシモフに向かって飛び掛からんとするフリンジ。

一触即発の状況で、フリンジを阻むように立ちはだかったのは他ならぬクロードだった。


「落ち着いてくださいフリンジの叔父貴」

「止めるなクロード。いくら俺にも我慢の限度ってのがある。息子同然のお前をコケにされてこれ以上黙っていられるか!」


フリンジの口をついて出た心からの言葉は心から嬉しく思う。

だからここまで自分に期待を寄せてくれているこの人に報いたい。

その為にも今ここでフリンジに手を出させる訳にはいかない。

どの様な理由であろうと先に手を出せばフリンジの責任問題になってしまう。


「俺の事はいいんです。慣れてますから」

「そうはいくか!今ヤツらをぶっ飛ばさなけりゃ俺は申し訳なくて明日からお前とアルバートに顔向けできねえ!」

「大丈夫です叔父貴。だからここは俺に預けてください」


正面から真っ直ぐな目でフリンジを見るクロード。

その瞳の中に宿る力強い意思がフリンジの激情に歯止めをかける。


「自分に対する疑念は自分の手で晴らしますから」

「それでいいのか?」

「はい。むしろ、これは幹部の椅子に着く為に避けては通れない事ですから」

「・・・そうか。分かったお前の好きにしろ」

「ありがとうございます。俺の為に怒ってくれて」

「馬鹿野郎。当然の事だ」


少し気恥しそうに零したフリンジに、クロードは微かに笑みを浮かべる。


(負けられない理由がまた一つ増えた)


己をここまで信じてくれたフリンジの正しさを証明する為にも、自分はこの逆境を跳ね除けなければならない。

決意を新たに幹部達の方を振り返るクロード。

そこでようやく成り行きを傍観をしていたダリオが口を開く。


「もうそろそろいいか?」

「はい。すいませんダリオの叔父貴。お騒がせして」

「この程度はいつもの事だ。問題ない」


事もなげにそう呟いたダリオは今度はアシモフ達の方へと視線を移す。


「さてアシモフとシェザン。お前達は今回フリンジの推薦する候補者に不満がある様だが?」

「ああ、全くもって容認できない」

「ならばどうする?現状候補はクロード1人のみ。このまま会を進行すればお前達の意思に関わらず次の幹部は決定するぞ」


ダリオからの問い掛けにアシモフは何か考え込む様に僅かに俯いた後、何かを決心する様に顔を上げる。


「ダリオよ。確か候補者推薦の締め切りは今日までだったな」

「ああ、その通りだ」

「ならば俺は今この場において1人の男を幹部候補者として推薦する事を宣言する」

『!?』


突如アシモフの放った一言に室内の緊張感が一段階跳ね上がる。

ほとんどの人間が少なからずこの展開を予期していたのか、そこまでの驚きや動揺は見られない。


「ダリオ。俺の推薦する人物を入室させたいのだが構わないか?」

「ああ、入室を許可する」


ダリオの許可を得たアシモフが部屋の入り口の方に向かって声を掛ける。

すると、ゆっくりと部屋の扉が開かれる。

扉の向こう、廊下に立っていた人物の姿を見て幹部達は少なからず衝撃を受ける。


「えっ、嘘」

「バカな。おんしは・・・・」


2m近い身長の大柄で屈強な体躯は着ている濃紺のスーツがはち切れそうな程の厚みがあり、茶色の肌に短い灰色の頭髪に巌の様なイカツイ顔には肉食獣の様な赤い瞳がギラリと獰猛に輝く。

驚きをもって迎えられたその男は部屋の中央に向かって進み。アシモフの席の斜め後ろに立つと堂々と胸を張る。


「皆も知っているだろうが改めて紹介する。俺の甥、レッガ・チェダーソンだ」


紹介された男の名を聞いて室内は異様な空気に包まれる。

何故ならレッガはかつてカロッソと幹部の座を争った事のある男であり、クロードにとっても少なからず因縁のある相手であった。


(まさかこんな形で再び相見える事になるとはな)


顔を上げてクロードの視線とレッガの視線が交差する。

レッガ・チェダーソン。その男はかつてクロードやラドルの仲間を死なせ、とある失態によって幹部候補の資格を失った男だった。

予定していた日より遅くなりましたが更新です。

本年最後の更新になりますがお楽しみいただけましたでしょうか。

今年は後半少々失速してしまいましたが、来年はもっと

積極的に更新していきたい所です。


最後に本年は拙作にお付き合い頂きありがとうございました。

来年もどうぞよろしくお願い致します。

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