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幹部会の始まり

ビルモント商会の社屋前に愛馬シュバルツで乗り付けたクロードは、裏手に回って厩舎の前まで移動しその背から降りる。

地面に降りて周囲に目を向けると、遠巻きにこちらの様子を伺う人影がチラホラ見える。

どうやら少しばかり演出を派手にしすぎたせいで一般社員を驚かせてしまったらしい。

おかげで周辺はちょっとした騒ぎになっている。


「少しやりすぎたか?」

「いいんじゃない。むしろ新幹部さんの顔見せとしてはこれぐらい派手な方がいいでしょ」


コートの影から頭だけを覗かせたアジールがケラケラと笑い声をあげる。

どうやら相棒の方はいつになく上機嫌の様だ。

もっともクロードの方は相棒の様に気楽という訳にはいかない。


「お前がこの方がいいと言うからやってみたが、これだと万が一しくじった時が怖いな」

「その時はとんだ赤っ恥だね」

「それだけで済むのならまだ俺も気が楽なんだがな」

「何を言ってるんだよ。元から落選するつもりなんてない癖に」


そう言って視線を向けてくる相棒にクロードは不敵な笑みを返す。

本気で落選の可能性をを考えている人間なら自ら退路を断つような馬鹿げた提案を受け入れたりはしない。

そもそも今回の幹部会で幹部から落選する事は普通の失敗とは訳が違う。

落選は即ち自分を幹部に推薦してくれたフリンジやアルバートの顔に泥を塗るという事だ。

これが自分だけの事で済むなら失敗して恥を掻こうが、泥を被ろうが構いはしなかった。

しかし、今回ばかりはそういう訳にはいかない。

クロードは2人への恩を仇で返すぐらいなら死んだ方がマシだと考えている。

だから今日は何がなんでも幹部の椅子を取りに行かなくてはならない。


「クロードにしては随分と派手な登場の仕方だな」


急に会話に割り込んできた声に振り返ると、フリンジがどこか呆れたような顔をして立っていた。


「いらしてたんですね。フリンジの叔父貴」

「おう、さっきまで中の喫煙所にいたんだが、外が騒がしくなったから様子を見に来た」

「騒がせてすみません。ですが今日ぐらいは少し派手な方がいいかと思いましてね」

「それは別に構わねえよ。マフィアってのは見栄張ってなんぼの商売だからな」


フリンジはそう言って笑うとクロードの背後で少し退屈そうにしているシュバルツを見る。


「しかし、まさかシュバルツで乗り付けてくるとは思わなかったぜ。このじゃじゃ馬をここに繋いでおいて大丈夫なのか?」

「ええ、今日は問題ないかと」

「お前がそう言うならまあ大丈夫なんだろうな。もし気掛かりがあるとすれば・・・」


フリンジはシュバルツに向けていた視線を今度は彼女が入る厩舎の方へと視線を向ける。

厩舎の中には7頭程の馬が繋がれており、その中の3頭は他の幹部の持ち馬。

いずれも数千万単位の値が付くかなりの名馬なのだが、それでもがュバルツと比べると見劣りする。


「チャールズは気にしないだろうが、シェザンのヤツは絶対怒ってるな」

「それについては想定の範囲内です」


厩舎の中にいる馬の内、2頭は幹部シェザン・ロディミオッドの持ち馬。

彼の馬自慢はファミリー内でも有名であり、自分の馬が貶されるのを非常に嫌う。

そんな彼の自慢の馬の隣にシュバルツを並べれば彼がどう思うかなど明らかだ。

普通なら幹部会の前に投票権を持つ幹部の反感を買うような真似をするのは愚行なのだが、シェザンは最初からクロードが力のある地位に就くのに反対している側の人間だ。

こちらに票を入れる気はないだろうから、その様な相手に気を回す必要もない。

今日ばかりは例え同じ組織の幹部であろうと、邪魔するのであれば敵だ。


「後は一時とはいえ、シュバルツと一緒の厩舎に入れられる馬達が気の毒なくらいか」

「それについては今日は運がなかったと諦めてもらう他ないですね」

「そうだな」


それから一通り話を終えた後、クロードは厩舎の管理者に書類を提出し、シュバルツを預けてからフリンジと共に正面玄関へと移動する。

見慣れたビルの内部に一歩足を踏み入れた瞬間、いつもと違う空気がクロードを出迎える。

今までにも何度か報告書類を届けに来ているが、こんな事は初めてだ。

まるで知らない場所に立って居るかのような気持ちにさせられる。


(ここから既に始まっているという事か)


全身に被さる様な重い場の空気に飲まれないよう気を引き締め、クロードはフリンジと共に会議室へと向かう。


「ところでフリンジの叔父貴。頼んでおいた件はどうなってますか?」

「それならお前の要望通りにしといたぜ。万事抜かりはなしだ」

「ありがとうございます」

「しかし、まさか幹部会のタイミングに併せて仕掛けるとは思わなったぜ」

「後々の手間などを考えると、この幹部会に併せて済ませた方が面倒もなさそうでしたので」


ファミリーの中枢たる幹部達が集まる場を利用するという大胆な企てをしておいて、当の本人は普段と変わらず落ち着き払っている様子。

誰が相手でも物怖じしないこの豪胆さは既に幹部としての貫禄を備えている。

隣を歩くクロードの横顔の頼もしさにフリンジの口元には自然と笑みが浮かぶ。


「まったく。幹部会を利用しようと考えるなんて、やっぱりお前は大したタマだよ」

「恐縮です」


話し込んでいる内に廊下の奥に会議室の扉が見えてくる。

重厚感のある立派な扉の前で立ち止まったクロードに、フリンジが声をかける。


「さて、いよいよだが覚悟はいいか?」

「ええ、もちろんです」

「いい返事だ」


クロードの返事に満足そうに頷くと、フリンジは会議室の扉を開く。

開かれた扉の向こう、円卓を囲んでいた幹部達の視線が一斉にこちらを向く。

その瞬間、まるで全身に掛かる重力が増したかのような錯覚に陥る。


(流石はファミリーの幹部。視線一つでこれ程とはな)


先日の第八区画でのナレッキオ・ガルネーザや16人の幹部と対面した時も相当なものだったが、ここにいる幹部達の放つ圧力もまったく引けを取っていない。

だからといってこの程度で怖気づいてはいられないとクロードは部屋の中へと足を踏み出す。

フリンジの後に続いて部屋の中を移動し、フリンジが自身の席に着いた後で彼の後ろに用意されていた椅子に腰を下ろす。


(こうして見るとやはり壮観だな)


フリンジの後ろから見た光景にクロードは思わず息を呑む。

今、自分の目の前にいる者達こそが今のビルモントファミリーを支える幹部達であり、全員が2つ名持ちの化け物達。

クロードは改めてこの場に居並ぶ幹部達の顔を見渡す。


"紅の剛腕" リゲイラ・マッディガル

有人族の元軍人、力自慢の多種族さえも力で上回る怪力の持ち主。

加えて長年指揮官を務めたが故の統率力を持つ。

仕事は主に夜の繁華街での商売と、そこで働く者の育成に力を入れている。


"鋼の角獣" アシモフ・バースティア

猪熊族の獣人。革命時はその無尽蔵の体力と一点突破の破壊力で切り込み隊長を務めていた。

ファミリー内でも特に首領アルバートへの忠誠心に厚い事で知られる。

それ故かカロッソには非常に好意的だが、養子であるクロードの事は心底嫌っている。

現在は主に建築関連の会社を運営しており、このビルも彼の会社が建てた。


"夢幻の槍" シェザン・ロディミオッド

237歳のエルフ。風の魔術と槍術に長けた森の戦士。

非常に気位が高く扱いにくい事でも知られ、アルバート以外の言葉はほとんど聞かない。

仕事としては主に林業等を営んでいるが、あまり勤勉ではないと聞く。

余所者のクロードの事を毛嫌いしており、昔は何度か嫌がらせを仕掛けてきた。


"不屈の闘鬼" フリンジ・ボルネーズ

鬼族の男にして首領アルバートの幼馴染であり無二の親友。

革命時、囮となって大軍を1人で引き付けたという逸話はあまりに有名。

ボルネーズ商会という流通関係の会社を運営している。

クロードにとっては義父アルバートに次ぐ、もう1人の親のような存在。


"隻眼の猟犬" ベイカー・グッドマン

黒犬族と呼ばれる種族の男、ドーベルマンの頭を持ち、左目にはいつも眼帯をつけている。

ファミリーの中で最も卓越した格闘技術を持っている。

寡黙な男で、あまり人前で喋る事を好まない。

彼の会社は小規模で主に要人の警護と軍の格闘教官を務めている。

後。ファミリーの若手育成に力を注いでおり、クロードに足技を授けたのも彼だ。


"魔道紳士" チャールズ・ラングレン

先祖に魔族の血筋を持つ魔人族と有人族のクォーター。

豊富な知識と技術で多彩な魔術を使い分け、剣の腕も立つ。

いつも英国紳士風の装いをしており、絵画や音楽といった芸術に非常に造詣が深い。

第七区画において劇場経営や美術品の売買を生業としている。


"小さき山脈" リッキード・バディスン

ドワーフ族の男性。普段は温和で接しやすい人物とされるが、怒らせると誰よりも恐ろしい。

ドワーフらしく武器の加工や扱いに詳しく、職人としても非常に腕がいい。

マフィア以外からも彼の弟子になりたいと遠方から訪れる者もいる。

仕事は能力を生かして金属加工業と鉱山経営を行っている。

種族的な問題かは不明だが、シェザンとは非常に仲が悪い。


"金色の鳳" カロッソ・ビルモント

首領アルバートの実子にしてクロードの義兄、そしてファミリーの二代目候補筆頭。

幹部の中で唯一、レミエステス共和国建国後に幹部入りした人物。

飲食店経営やコンサルタント業、畜産や農業と多彩な商売を手掛けている。

その経営手腕は本物で、ファミリーの主な資金源となっている。

あまり知られていないが戦闘能力も非常に高く、近接格闘、武器術、魔術なんでも使いこなす。

頭もよく、見た目もよい、腕もたつ、まさしく天才。


これだけのメンバーに加え、円卓の中心にはもう1人忘れてはならない男がいる。

幹部会の進行役であり、まとめ役。首領が全幅の信頼を寄せる男。


"無影の刃" ダリオ・ローマン

誰もが認める首領の右腕。ファミリーのNo.2

首領不在時にはその代理として全権を担う事を許された。ただ1人の人物。

革命時にアルバートに拾われてファミリーに入った。

独力で身に着けたというそのナイフ捌きの腕は超一流で、彼に狙われて生き残った者はいない。

また戦闘の腕だけでなく政治力もあり、首領の代わりに各地を飛び回って交渉や工作も行っている。

周囲からは天才カロッソに唯一並ぶ事ができる者とされている。


この早々たる顔ぶれの中心で静かに目を閉じていたダリオがゆっくりと目を開け、それから左右に居並ぶ全員の顔を見渡す。


「どうやら揃ったようだな」

「ん?アルバートの野郎は今日は来ないのか?」

「いや、首領は後ほどおいでになるが、先に初めておけとの事だ」

「そうか」


ダリオの答えに納得しフリンジは小さく頷く。

その他に意見がないかもう一度周囲を見渡した後、ダリオの口から会の始まりが宣言される。


「では、これよりビルモントファミリーの幹部会を始める」


こうして波乱必死の幹部会の幕が開く。

やっと幹部全員を紹介出来ました。

さあ、ここからどう転がるのか!

次回をお待ちください。

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