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無自覚な想い

自身の身に起こった出来事を語り終えたフィーベルトは前を向く。

彼の視線の先では話を聞き終えたクロードが無言のまま咥えたタバコの先から煙をあげる。


「で、話はこれで終わりか?」

「ええ、今話したのが私の身に起こった全てです」


そう言った後、こちらの反応を伺う様な視線を向けてくるフィーベルトにクロードは呆れた様に溜息を吐く。


「なんだその顔。可哀想だと言って慰めてほしいのか?」

「いえ、別にそういうわけでは・・・」

「だろうな」


哀れみの言葉を掛けられた所でこの男の心が救われる事など無いのはクロードも分かっている。

自分で話を振っておいてフィーベルトの答えに素っ気ない返事を返したクロードは何かを考え込む様な顔をして咥えたタバコの煙を吐き出す。


(しかし、まさかノグレアデス公国滅亡の裏にそんな経緯があったとはな)


ノグレアデス公国が滅んだ事は遠く離れたこの地にいるクロードも情報としては知っていた。

とはいえフィーベルトの話を聞くまでは新聞の記事に載っていた程度の話しか知らなかった。

なにせ年中どこかで異種族同士が小競り合いをしているこの星で国が滅ぶなど別に珍しい事では無い。

ノグレアデス公国に関しても異種族との戦争が要因ではなく同族から滅ぼされた国であるというそう多くない事例であった故に印象に残っていた程度だ。


(ともあれこれでこの男の過去については分かった訳だが・・・・・)


話を聞けば分かると思っていたが、肝心のフィーベルトの死にたい理由が見えてこない。

普通に考えれば自分の存在が国を滅ぼす一因となったのだから死にたいと考えるのも理解できる。

しかし、それだけで納得するには解せない理由がいくつかある。

何よりクロード自身この男にはまだ何かあると直感的に感じている。

クロードは己の疑問を晴らすためにもフィーベルトに疑問をぶつける事にする。


「アンタに聞いて確認しておきたい事がいくつかあるんだが?」


タバコを吸い終わってからようやく口を開いたクロードは開口一番そう尋ねる。

その問い掛けにフィーベルトはまだ何か聞く気なのかと戸惑いの色を見せる。

フィーベルトにしたら辛い過去を話したのだから早く楽にしてほしい所なのだろうがそうはいかない。

しばしの逡巡の後、最終的にはここまで話したのだから今更隠す様な事も無いという結論に達したフィーベルトはクロードからの問い掛けに応じる。


「あまり気乗りはしませんがこの際です。伺いましょう」

「そうか。なら早速1つ目だがノグレアデス公国が滅んだのは確か4年前。その後から今日に至るまでお前はどこで何をやっていた」


クロードからの最初の質問にフィーベルトは険しい表情を浮かべる。


「貴殿はアーデナス教を国教とする国々が敵国を滅ぼした後、何を行うかご存じですか?」


その質問にクロードの脳裏にかつて自身が体験した光景がフラッシュバックする。


「・・・残党狩りか」

「その通り。あの国は敵国の首都を攻め滅ぼした後、国外へと逃げ出そうとする戦意の無い者達をそれこそ女子供、老人に至るまで容赦なく殺し尽くすのです」


再び当時の事を思い出したフィーベルトは苦しそうに表情を歪める。


「当然、我が祖国もその例に漏れず連合国軍の兵士から苛烈な残党狩りを受けました。国境付近に兵を配し、誰一人逃がさぬよう徹底した網を敷いて」

「で、その残党狩りからアンタは4年も逃げ続けていたのか?」

「いいえ違います。残党狩りで追われる者を1人でも逃がすために戦っていました」


仕えた王も家族も全て失ってしばらくは傷心状態でその場を動く事も出来なかったフィーベルトだったが、偶然近くで残党狩りに追われる人々の姿を目撃した彼の中に主君の言葉が浮かんだ。


「我らのこの体は民の献身によって出来ている。なれば我らはこの身を血肉に一遍まで民に捧げよう」


賢王として民から慕われた主君の遺した言葉を思いだしたフィーベルトは悲しみの中で奮起、民を一人でも多く逃がそうと再び立ち上がった。


「それから2年程は噂を聞いたりしてあちこちを駆け回りながら残党狩りと戦い続けていました」

「それはまたご立派な事だな」

「いえ、単に戦い続けてないと失った物の大きさに心が耐えられなくなりそうだっただけです」


下を向いて暗い表情をするフィーベルトにクロードはさらに質問を続ける。


「そこまでの話は分かった。なら残りの2年は何をやっていた?」


この質問を聞いた瞬間、フィーベルトの瞳の中に今まで見せなかったドス黒い感情の色がのぞく。

それはとても清廉潔白な騎士の目ではなかった。


「戦い続けていたある時でした。残党狩りから助けた者の1人が私に教えてくれたのです。全ての元凶となった事件を企てた者達の何人かがあの戦火を逃れ今も生きていると」


そう口にして顔を上げたフィーベルの目に憎しみの色が浮かび上がっていく。

先ほどまでの理性的な印象は消え、口調もどこか荒々しいものへと変わる。


「しかもその多くが事もあろうに祖国を滅ぼした連合国軍の国へ亡命し今も安穏とした生活を送っているというのです。私はそれが許せなかった。多くの者が死ぬきっかけを作った彼らが今を幸せに生きているという事実が、だからその話を聞いた時から私は戦う目的を変えました。民を守るための戦いではなく彼の者達を陛下や妻、両親、多くの同胞達が見たであろう地獄へ必ず落とすと」


初めて会った時、今にも消えてしまいそうな程に弱々しかった人物と同一人物とは思えない。燃えさかる炎の様に激しい怒りの感情を露わにするフィーベルトに、クロードは彼の本性を垣間見た。


(ただの優等生かと思ったが、中々いい表情をするじゃないか)


彼の中に確かにある人としての悪性を見出したクロードは、内心で興味を示しつつもその事を相手に悟られる事の無い様、努めて冷静に振る舞う。


「で、その復讐の結果はどうなったんだ?」

「各国を巡り歩き少しずつ情報を集めながら1人1人を確実に始末していきました。中には手強い護衛を雇った者もいたり逃亡を図る者もいたのですが、今では全員が冷たい土の下です」


そう語ったフィーベルトは落ち着いた様子で自分の足下を指差す。


「なるほどな。お前の4年間の動向は大体分かった。なら2つ目の質問はお前がこの国に来た目的だ」

「それは簡単な事です。復讐を遂げて生きる目的を失った私を殺してくれる相手を求めて各地を渡り歩いた結果辿り着いたのが小国でありながら世界でも屈指の悪党が集うこの国だったというだけの事です」


そうなることが然も当然かのように話すフィーベルト。

しかし、クロードは彼の発言の中にある違和感を見落とさなかった。


「それは少し妙だな。この国で無くてもアンタを殺してくれそうなヤツがいる場所ならいくらでもあるだろう。例えばアンタの目の前で王様を殺した男のいるグラミデア本国とかな」

「っ!?」


クロードの指摘にフィーベルトの表情が一瞬にして強張る。


「それは出来ません」

「何故だ」

「それは・・・我が祖国を滅ぼし、仕えた王も家族も滅ぼしたアーデナス教の者の手に掛かって死ぬ事だけは、それだけは絶対に認められない」


そう言ってフィーベルトは何か思い詰めた様に握った拳を震わせながら唇を噛み締める。


「なるほど。つまりアンタの我が儘と言うことか」

「ええ、そうなりますね」

「となるとそんなアンタがこの国に来たせいでその我が儘に巻き込まれて死んだ連中は少しばかり気の毒・・・でもないか」


含み笑いを浮かべクロードは持っていたタバコの吸い殻を指で弾く。

まさかそのような理由で自分が殺されたとは彼らも思っていなかっただろう。

とはいえ殺された連中もいつ殺されても文句が言えない者達なので特に気に病む必要も無い。


「まあいい。では最後の3つ目といこう。お前の邪精霊はどうして人を喰らう」

「それは・・・・・」


別に精霊が人を食うのは珍しい事ではないのだが、それは契約を結んでないものに限る。

その理由としては人間を食って得た魔力は歪で調整に時間が掛かり、契約している術者に悪影響を及ぼす事があるからだ。

最後の質問に明らかに今までと違う反応。今までと違い明確な躊躇いの色を見せるフィーベルト。


「どうした?顔が引き攣っているぞ」

「っ!」


言いにくそうに口ごもる姿を指摘するとフィーベルトは逡巡の後、観念したように口を開く。


「彼女には、人を食う以外に魔力を補給する術がないのです」

「そういう事か」

「気づいていたのですか?」

「いや、ただなんとなくそんな気はしていた」


そもそも昨夜の戦いの時点からクロードは彼の邪精霊に違和感を感じていた。

グレイギン相手には魔術を連発していたのに対し、クロード相手には防御程度しか使わなかった。

最初は人間相手に手加減しているのかとも思ったが、手加減できる様な知性があるとも思えない。

となると考えられるのは魔力の減少によって術を使えなくなった可能性。


「しかし分からない事がある。野良精霊なら確かに人を食ってエネルギーを取り込む種もあるが、精霊術師と契約していれば術者から魔力供給が出来るはずだ」

「恐らく強引な形で人の魂を取り込んだからでしょうか。彼女が邪精霊となった日から私と彼女の間で魔力循環は行われていないのですよ」

「なるほどな」


どうやら精霊としてのあるべき姿を自ら捨てた弊害か、精霊としての必要な機能まで失ったらしい。

そしてこの事実を知ったことでもう一つ見えてくる事がある。

それはフィーベルトが死ぬためと言って強者との戦いを望んだ本当の理由だ。


「つまりお前は自分が死ぬ為と口にする反面、その邪精霊を生かす為に生贄を欲していた訳だな。強者と戦ったのもその方が魔力の高い相手と当たる可能性が高いからだろう」

「違う!私はそのような非道な真似を・・・」

「何が違う?現にソイツに食われて死んだ奴がいてアンタもそいつも生きている。それが答えだろう」

「・・・・・・・」


クロードの指摘にサッと目を逸らしたフィーベルトは口をつぐんだまま何も答えようとしない。

突きつけられた言葉に苦渋の表情を浮かべるフィーベルト。

逆にそれとは対照的にクロードは余裕の表情を浮かべ内心で安堵していた。


(良かった。この男にはまだ生きる理由がある)


生きていたい理由があるなら、その理由を後押し出来ればこちらに引き込む事も可能。

そしてその為に必要なシナリオはすでにクロードの頭の中にある。


「さてこれで質問の時間は終わりだ。そろそろ始めるとしよう」


立ち上がったクロードは黒の革手袋を両手に装着する。

戦闘準備を始めるクロードにフィーベルトは心配そうに尋ねる。


「私達を殺してくれるのか?」

「ああ、殺してやるよ。ただし死ぬのはお前の相棒だけだ」


そう言って冷酷な笑みを浮かべたクロードはその拳を強く握りしめる。

フィーベルトの真実を知ったクロードの取る行動とは!

次回、クロードとフィーベルトの戦いがいよいよ幕を上げる。

こんな話書いた後ですが今日はこれから友人の結婚式に行ってきます



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